第7話


 帰りが遅い夫への怒りがちりちりと湧き上がってきたが、どうすることもできなくて、つい舌打ちをしてしまう。時間通りに帰ってこない上、外でもたついている夫にウンザリしていたその時、ソファにでんと座っている熊のぬいぐるみと目が合った。娘のゆりかが自分のベッドに持って行くのを忘れてしまったのだろう。


 今からベッドに持って行ってあげようか、やっぱり起こしてしまいそうだからこのまま置いておこうか・・・。


 ちゃんと母親らしいことも考えられる反面、消しきれない私の中の『女』が私の精神を荒らしてくる。きっとさっきまでの私の顔は鬼のようだったに違いない。母親として子に見せてはいけない顔をしていたことだろう。こんな顔はしない方がいいということはわかっているのだが、夫の顔や命令したことに対してぐずぐずしているところを思い出すと、堪らなくイラついてしまうのだ。


 私がそんな状況でも、当たり前だが熊のぬいぐるみは動じることなくこちらを向いている。ぬいぐるみの表情はその時の人間の精神状態によって見え方が変わる。自分が悲しい時は慰めてくれているように見えたり、機嫌がいい時は同じように微笑んでくれているように見えるものだ。私を見つめている今の熊の顔は「同情」や「憐れみ」という感情を纏っているように見えた。

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