地獄の障害物レースにゴールはない

ちびまるフォイ

ゴール付近が一番危ない

会場にある看板には「100m障害物レース」とあった。


「本当にゴールまで到達できれば賞金がもらえるんですか?」


「はい。もちろんです。

 ゴールするためにはどんな方法をとっても構いません。

 ただし会場から外へ出た段階で失格とします」


賞金額は一生どころか二生は遊んで暮らせるほどの金額。

会場に入り切らないほどの障害物レース参加者がひしめき合った。


あまりに人数が多いので3回にわけてレースを行われることに。


「不公平だ! 先にゴールしたら賞金取られちゃうだろ!」


「ご安心ください。3回目にゴールに到達した人でも

 満額を支給させていただきます」


それでも参加者はいの一番に賞金を手にしたいと、

第一回目のレースに参加しようと食い気味で挙手をした。


「では、第1回目の失踪者はスタートについてください」


100mスタートラインにつくと視線の先にゴールラインが見える。

障害物は見当たらない。


「よーーい」



バンッ



スタートの号砲ではなかった。


ゴールライン奥に隠れていた特殊部隊がスタートラインの走者に向けて銃を構えて撃ち始めた。

踊るように蜂の巣にされてしまう走者たち。


ババババババッ


止むことのない銃声に第1走者たちはたまらず地面に伏せた。


「おい! 死体を集めて盾にするぞ!!」


スタートと同時にぶち抜かれた死体を、這いながら集めて肉の盾を作る。

第1走者たちは、RPGのパーティのように1列に並ぶとゴールに向けて猛突進。


「うおおおおお!!」


死体の盾が破られ、先頭が倒され、2番手が倒される。

それにおびえた後方の奴らが逃げてしまい縦列は崩れていく。


「おい逃げるんじゃねぇ!」


散り散りになった走者たちは1人残らず銃撃のえじきとなった。


「では、第1回走者は全滅したので第2回走者はスタートラインへ」


今の様子を見ていた第2走者たちは青ざめていた。

そのうちのリーダー格がメンバーを集めての作戦会議。


「おい、今の見ていただろう? 強引に突っ込んでも駄目だ。

 あの銃撃の障害物をなんとか止めるしか無い」


「止めるったってどうするんだ。ここにはなにもない。

 会場の外に出たら参加できなくなる。靴とか看板とか石でも投げるのか?」

「そんなことしたって銃撃が収まると思えない」

「そうだそうだ」


「ゴールを見てみろ。誰か一人でもマガジンを替えていたのを見たか?」


第2走者たちはハッとした。

ゴール前で銃口を向けている奴らは誰ひとりとして構えを解いていなかった。


「見たところ、奴らの背後に補給弾薬もなさそうだ。つまり……」


「そうか! 弾切れにさせちゃえばいいのか!」


「幸運にも俺たちは第2走者。第1走者よりも弾は飛んでこない。

 だから無駄弾を使わせるように動くんだ」


第2走者たちは円陣を組んで気合を入れ直した後、スタートラインにつく。


「よーい、スタート!」


ふたたび始まる凄まじい銃弾の雨。

第2走者たちはゴールへ向かうのではなく横に散開した。


ジグザグに歩いたり、立ったり伏せたり。


不規則な動きに銃口は翻弄されて無駄な射撃が弾を浪費させていく。

第2走者が半分ほどまで減らされた頃、完全に銃弾の雨が止まった。


「やった!! これでゴールまですすめるぞ!!」


第2走者たちは一気にゴールへ向けてダッシュした。

そのとき、上空を飛んでいたヘリからゴールに向けて箱が落とされた。


「えっ……?」


箱から新しい銃を取り出したゴールにいる射撃部隊。

ふたたび銃口を走者に向けると、ふたたび猛烈な銃撃を浴びせた。


「補給するのかよ!!」


第2走者最後の断末魔はレースへの直談判だった。


「第2走者も全滅したようですので、最後の第3走者は準備してください」


第2走者の惨劇をみて、ほとんどの第3走者は逃げ出し参加者はわずか1人。

様子を見た主催者は声をかけた。


「どうしますか? あなただけのようですが、参加続行しますか?」


「はい。がんばります」


「神の御加護を」


主催者はスタート役に続行の合図を送った。


「よーーい……スタート!」


第3レースが始めると、最後の参加者はゴールどころか会場入口へと猛ダッシュ。

会場内の入り口そばにある看板に向かうと、「1」に線を書き加えた。



「400m障害物レース」



ゴール付近の激しい銃撃戦が止んだころ、

第3走者は誰もいなくなったゴールへと向かい賞金を手にした。

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