第11話

そしてそのとおりになりました。


しかし私はかなり気が張っていたはずなのに、山に入る前に意識を失い、気がつけば最寄りのバス停の近くでした。


またも登り路線でバスが山中を通るところを、見ることがなかったのです。



次の日、仕事を終えた私は考えました。


今までやってきたようにバスで家路へと向かうべきか。


それともそれ以外の手段で家に帰るべきか。


おそらく通常の感性の持ち主であれば、悩むことなど微塵もなく、バス以外の帰宅手段を選択することでしょう。


しかし私はこの期に及んでも、いつもどおりバスで帰宅するという選択肢を捨ててはいませんでした。


というよりも、悩んではいたのですが、どちらかといえばバスで帰宅するほうをやや優先させていたように思えます。


私がそう思い巡らせていたのは、バス停でした。


やがてバスがやってきて、気付けばバスに乗っていて、いつものやや後方の席に座っていました。


バスはもう走り出しています。


このままで、なおかつ乗り過ごすようなことがあれば、再びあの老婆を目にすることになるかも知れません。


しかしそれでも私は、腹を大きく縦に裂かれ、臓物を引きずりながら歩き、腹はもちろんのこと全身が血まみれの老婆がバスの路線とは思えないほどの寂しい山の中のバス停で乗ってきて、運転手も三人の乗客もそのような老婆を認識しながらも特に関心を示さないままにバスは進み、そして老婆が二つ先のバス停で降りるというありえない事実を二度も目の当たりにしながら、現実的な恐怖と言うものをまだ強く心に感じ取れずにいたことは確かです。


単純に恐怖心と言う観点からすれば、それは日に日に薄らいでいっていると言ったほうが正しいでしょう。

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