一章 さっそく命の危機です

ターロイド=サルサ・メウス・ギルファン・シュトルフ・アクアディルス……以下略、シュトベーノルド魔国、第100代目魔王こと幼馴染の笹目太郎は地球人ではなかった。


フォースという世界の、一国の王であり、しかも魔王。


「何が魔王だ!何がフォースよ!」


華子は結局あの大きな謁見の間を飛び出して、ひたすら果てしない廊下を突き進んでいた。


「しかもターロイドって何!?太郎って名前もひねりなさすぎでしょ!」


怒りはまったくおさまらないが、ともかく歩いても歩いても突き当たりに突き当らない現状に、さすがに華子も疲れてきて立ち止まる。

しかもまったくと言ってもいいほど人に合わないので道すら聞けない。


ひくりと頬が引きつった。


ただ冷静でいられたのは、これまでもたくさんの修羅場をくぐり抜け生還していたからだ。


(学校のベランダから突き落とされそうになったり、階段を突き落とされたり、赤信号で押されて危うく引かれそうになったり、……何これ、命の危険しかない)


良く生きていたものだと、思わず関心してしまう。


それに比べると、異世界というだけで、まだ命の危険に晒されていないだけマシなような気になってしまう。


「いやいや!」


左右に激しく首を振り、華子は大きく否定した。


(…だいぶ頭が脅かされてるわ)


小学5年生の10歳から8年。

太郎に脅かされる毎日からの平穏を望んだだけであるのに、神さまはどこまでも彼の味方をするらしい。


(なんだか、疲れた…)


あんまりにも久しぶりに太郎から解放されて気が緩んで来たのか、眠気が華子を襲う。

こんなに離れたのはどれぐらいぶりだろうか。


近くに部屋の扉を見つけ中を覗く。

美しい調度品の数々を見て、思わず感嘆のため息をこぼした。


(本当に、これが異世界というやつじゃなければ素直に楽しめるのに…)


昔からお姫様のようなものには弱い。

ここの調度品もなかなか華子の趣味を良く反映していた。


中に誰もいないのを確認して、華子はするりと中へ入る。


「このソファなんて、本当にどストライクだわ」


白い革張りに、金の膝掛けがなんとも美しい長椅子ソファを指先でなぞり、頬を緩めた。中央には猫脚の光沢のある白いローテーブルが置かれて、その猫脚には美しい花の彫り物がされている。

象牙色アイボリーのブーケ柄の絨毯が、これまた素晴らしい逸品で、思わず土足で乗るのをためらわせた。


(ここは夢の宝庫か!)


本当はさっきまでいた謁見の間のシャンデリアだって、華子はもっと良く見ていたかったのだ。あの窓枠の装飾にしてもしかり。


「……座っても、良いかな?良いよね?」


誰もいないことをもう一度要確認して、華子は長椅子に腰を下ろした。

そうしていると、再び睡魔が忍び寄ってくる。


(…ちょっとだけ…ちょっ、と…)


滑らかな肌触りと、ふわふわの弾力に包まれて、華子は夢へと旅立っていった。

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