0.グランドオープン
―某年3月21日
「よっしゃぁ!オープンっスよてんちょー!」
カウンター内で脱げかけのスリッパをバタつかせる当店の看板娘(自称)、アルバイトの
「あぁ~、もうそんな時間ですね。アルバイト君、元気なのはいいことですがもっとこう...シャキっとしていてくださいね。私が言えたことじゃないですが。これからお客さんが来るかもしれないんですから。」
気だるそうな店長とは対照的に背筋をピンと張り、姿勢を正した那美は店の外の気配を感じ取り精一杯の清楚、凛とした雰囲気を作る。
カラン、とドアの鐘が鳴る。
「いらっしゃいま...せ...」
那美が精いっぱい作った凛とした雰囲気を全てかっさらい、”凛”という言葉がそっくりそのまま出てきたような...
「
「ふふ、ごめんね那美、はい差し入れ。」
「フリュスクに...ブラックコーヒー...エナジードリンク...ブラック企業3銃士じゃないっスかぁ~!ここブラック企業なんスか!?てんちょー!!」
「ふぁ~ぁ、お客さんですか?」
「店長おはようございます。今日オープンなので差し入れを、と思って。」
「あぁ、凪さんじゃないですか、シフトも入ってないのにわざわざありがとうございます~。」
「てんちょーコーヒーでいいっスよね?あたしコーヒー飲めないんスよ!」
「ボクはどっちでもいいので、凪さんいただきますね。では何かあれば呼んでください。」
白衣をドアに挟みかけた店長
「てんちょーオープンなのにしっかりして欲しいっスよね~。凪もそう思わないっスか?」
「...え!?あ、うん。そうね。」
上の空であった凪は那美の問いかけに笑顔で返す。
「そうっスよねぇ~んで今日凪は何時ごろまで居てくれるんスか?」
「差し入れも渡せたしそろそろお暇しようかな~とは思ってるんだけど。」
「もうちょっとだけ居て欲しいんスけど...従姉妹のよしみとして!お客さん来るまででいいっスから!この通りっス!」
土下座ですら辞さない勢いの那美に根負けする形で凪も腰を落ち着ける。
ドアのベルが鳴ったのは店長がタバコが切れたとかなんとかでコンビニに行ったのと凪が流石に日が傾いてきたので、と不貞腐れた那美に謝りながら帰った3度のみ。
「扱ってるものも立地も悪くないと思うんスけどね~もうすっかり夜っスよ~...」
那美の独り言はパソコンの駆動音と共に開く気配のない夜の喧騒を纏った表通りに面する店舗の扉に吸い込まれていった。
店長曰く「お客さんが来ない日の方が多いと思うので悲観しないでくださいね。1~2時間してお客さん来なかったら閉めちゃって大丈夫なので。」らしいのだが、店長にそう言われてからもう2時間と5分が経っている。
「流石にそろそろ帰るとするっスか...。」
ぼやきながら顧客管理用に入れてある今日朝イチに開いてから全く触っていなかったドライブを閉じて、暇つぶしにネットサーフィンでしか使用されていないパソコンをシャットダウンする。
「はぁ...暇なのも疲れるっスね...。」
と大きく伸びをして店先に出していた看板をしまうために本日数えるほどしか開いていない扉に手をかける。
が、手をかけた扉に那美の力が加えられることなく扉が開かれ、つんのめった那美と入店を表すベルの音がカラン...と乾いた音を響かせる。
「いらっしゃいませ、”異世界屋 りべるた”っス!」
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