3話 

 マンションに帰宅後。


 何の音もしない、誰もいない部屋を見渡してから、ポトスの鉢をサイドテーブルに置いてみた。やっぱり素敵。買って良かったと思えた。


 ポトスの葉を眺めながら思い出す。


 大学4年――21歳の頃に、健人と同棲し始めた。楽しかった。私は、もともと世話好きだから、家事をするのも億劫ではなかったし……。


 当時、健人も私も社会人になったばかりで色んな事に戸惑っていた。だから最初の2年はちゃんと支え合ったと思う。お互いの心の目線が、いつも同じ高さにある、心地良い関係だった。


 でもいつの間にか、私は健人に、恋人から家族に格下げされたのかもしれない。格上げされたような気にもなっていたけれど。


「私は、誰かの恋人であり、親友であり、家族でありたい。同時に……。そんなのって、淡い夢なのだろうか?」


 ハサミを取り出して、一番長いポトスの茎を10cmくらいの長さに切った。ガラスのコップに水を入れ、茎を差し、そこから根が出てくることを想像しながら思った。


 「健人の浮気性は、きっと結婚しても治らない……」


 ライン通知に、ハートマーク一杯のメッセージが来るようなった頃、無防備に置いてあるスマホを「見ちゃった」と言って、健人に突き出してみたこともあったけれど、健人は何食わぬ顔で、もっと言えば笑顔で、「美希は結婚するのには最高!」、そう言って私の手からすっとスマホを取り、ラインの返信をした。


 そういう健人の悪びれのなさに、毎回、圧倒されてしまった。どうしたことか、彼の笑顔は私の疑いや不安な気持ちをうやむやにもしてしまった。


 ポトスが水差しされているガラスのコップを、窓の近くの本棚の上に置いた。


 コトン、と、寂しい音。


「もし、自分の心に正直であるならば……」


 真っ直ぐに自分の想いを見つめる。健人の性質と、そこから生まれるであろう惨めな自分の未来をやっとはっきりと想像できた。


「もう、認めよう……」


 少しだけ、泣けてきた。ラインが鳴った。


 理沙から。


 ブルーというイタリアンレストランがあるから、そこで来週の土曜日の夜に夕食を一緒に食べよう、とメッセージ。子供も連れて行くと書いてある。結婚していたのは知っていたが、もう4歳になる女の子がいるのだと驚いた。名前は麻衣ちゃん。

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