そよかぜ

第1話

私は最近おかしな夢を見る。


漫画の世界へ行く夢や、お菓子を沢山食べる夢…。

そう言うと楽しい夢に聞こえるかもしない…。

だけどその全ての夢に私が出てくるんだ。

私(?)が夢の中で楽しそうに過ごしている。

それを私はプカプカ空に浮かびながら眺めるのだ。

私だけど私じゃない。

そんな奇妙な体験が出来た。

世間一般の言葉を使うと幽体離脱というのだろうか…。

それでも最初のうちは楽しかった。

色んな世界へ行けるし、沢山食べてもお腹いっぱいにならない。

すごく楽しかった。


だけど、どのくらいからだろう…。

夢がおかしくなったのは…。

今まで通りの楽しい夢では無くなってしまった。

私が虐められる夢、殺される夢、大切な人が目の前で死んでしまう夢、殺してしまう夢…。

すごくすごく怖かった。

せっかくの夢なのに余計にストレスが溜まっていくのを感じた。

いちばん怖いのが私が何をされても笑っていることだ。

虐められても、殺されても私は笑っている。

何が可笑しいのかずっと笑っている…。



その頃、仕事で小さなミスが大きなミスを招き、私のせいになってしまった。

損害は500万円だ。

私のせいでは無いのに…課長の確認ミスなのに…。

ミスをおかした責任を押し付けられてしまった。

沢山の人に責められた。

たくさん土下座をした、給料も減らされた。

元々少ない給料の為減らされたら無いに等しかった。

私の精神状態はボロボロになった。

そこに加えて怖い夢、私はもうかなり参ってしまっていた。

追い打ちをかけるように会社から解雇の通知が届いた。

目の前が真っ白になった。私は会社の命令に従い辞める手続きをした。悲しんでくれる同期、呼び止めてくれる上司はいなかった。

みんなみんな私の敵なんだ…。


私は会社を解雇されてから、ストレスにより、不眠症になってしまった。

不眠症を治すために精神科へ行き、不安に思っている事などを包み隠さず話した。もちろん怖くなってきた夢の事も話した。すると医者は「夢日記をつけてみたらどうか」と言ってきた。

夢日記とやらを付けると現実と夢の区別ができ、ストレスが軽減され、不眠症も治るだろうということらしい。


私は夢日記を付け始めた。

と言っても付けている記憶は無い。

毎日朝になると、日記が書いてある。

どうやら毎日夜に起きて夢日記を付けているらしい。

ミミズが這ったような字で夢の内容が事細かに書かれている。

[上司が出てきた。]

[怖いやつに追いかけられた。捕まった。]

[また怖いやつが出てきた。今度は殺された。

血がバー]

改めて読み返すと怖い内容ばっかだった。

私病んでいるのかなぁ…。


夢日記を付けてから数日が経った。

私の体調は良い方向へ向かっていた。

会社を辞め、規則正しい生活が手に入った事もあるのだろうけど、夢が楽しくなってきたのが1番の理由だ。

前までは夢といえば大切な人や私が殺されていまう夢ばっかだった。

だけど夢日記に書いてある内容は[上司を殺した]とか[会社を爆破してやった]などのスカッとする内容に変わっていった。

自分が苦しんでいるのではない、あのムカつく上司や会社の同期が苦しんでいるのだそう考えるだけでもスカッとした。

冷静に考えればおかしい。

病んでるとしか考えられない夢の内容だった。

だけど私はそんな事、微塵も思わなかった。


「やった!今日は会社を潰したんだ!よくやった!私!」

夢の中の自分を称えたりもした。

だって夢の中では何したって罪にはならないから…。

でもそんな事が続くと夢もリアルになってきた。

夢日記の内容も最初は、[○○があった]とかいう内容だったのに最近は、[○○が出てきた。私はしっかり仕事をしていたのに文句をつけてきた。すごくムカついた。だから仕事の後家までつけて行って、殺してやった。すごいスカッとした]という感じに細かくなってきていた。


そんな事が続くと夢と現実の境目があやふやになってきた。

あれ?ここ来たことあるなと思うと夢で行った場所だったり、あっあの芸能人って確か事故起こして捕まったよねと思っていたらそれは夢の話で実際は事故なんて起こしていなかったり…。

とにかく夢がリアルに近づいてきた。



そんなある日私は上司に呼び出された。

もう辞めたのになんの用だろうと呼び出された所へ行ってみると、「お前が辞めたから仕事が回らなくなった、責任を取って1000万払え」と理不尽な理由で小一時間怒鳴られた。

土下座もさせられた。

もう嫌だ…死にたい…なんで私だけがこんなに不幸なの…?

そう思った時、目が覚めた。

あっなぁんだ夢だったんだ。

だったら上司を殺しちゃえば良かったのになぁ。

せっかく上着に包丁仕込んでいるんだから。



目が覚めて携帯を見てみると沢山の不在着信が入っていた。

全て会社の上司からだった。

また電話が来た。

電話に出ると私を辞めさせた時とは打って変わって優しい声の上司が出た。

会社に私の私物が残っているから取りに来て欲しいということらしい。


そういうことならと、会社へ行くと私の私物なんて物は無かった。ただ怒り狂っている上司がいた。その上司に呼び出され、夢と同じ内容で怒鳴られた。それも皆の前で…。もちろん土下座もさせられた。

あれ?なぁんだ これはまだ夢の途中だったのかぁ…。

だったら何してもいいよね。

私は上着に仕込んである包丁を取りだした。

”グサッ”

”グチャ”


あはは、面白い。

今回の夢はすごいリアルだ。

私は上司の声なんて聞かずに何回も何回も何回も包丁を振り落とした。

”パタン”

上司が動かなくなった。

あれ?もう動かないの?つまんないの。

私はその場を離れた。

「キャー!!」

会社の同期達が慌てている。


今日の夢は本当にリアルだなぁ。

こんなに細かくなっているんだ。

血の匂いや肉の感触まで味わえるなんて凄いなぁ。


私がその場を離れたすぐ後、同期達の悲鳴と救急車のサイレンが聞こえてきた。

今回の夢は本当に凄いなぁってかいつ目覚めるんだろう。

これ現実世界でやったらすごい罪になるんだろうなぁー。夢でよかった。


早く目が覚めないかなぁ。

あれから何度も何度も眠っているのに一向に目が覚めない。

よっぽど深い眠りについているんだなぁ。

もうこの夢は充分だから起きて新しい夢が見たいなぁ。


あーあはやくこの夢から覚めたいなぁ。




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