第三話「JKアヤノは異世界で大道芸人になることにした」

『え、こ、これはー?』


 前回までのあらすじ。初めてモンスターを倒したアヤノは、何かを見つけたらしい。


『なんだろ、これ』


『どうしたんだ?』


『スライムの中からビー玉みたいなのが出てきた』


 アヤノの話を纏めるとこういうことになる。

 スライムの死骸は、倒してしばらくすると、煙状になって消えたらしい。そして、そのスライムが消えた箇所には、ビー玉のような丸く透き通った石が転がっていたということだ。


『これがお金なのかな?』


『いや……違う気がするな』


 僕は彼女から得た情報を元に推測を立てる。


『それは、魔物の核とか、魂とか、そういうものなんじゃないか?』


『どういうこと?』


『昔読んだラノベにそんな感じの設定のものがあった気がする』


 僕は説明を続ける。


『それが魔物の本体とか? 魔物の心臓に当たるものだったりするのかも』


『なるほどね。何となくわかる』


『まあ、ただの予想だが』


 実物を目にしているわけでもないのだ。そんな推測を立てるのが限界だろう。


『で? これはお金になるのかな?』


『わからん』


 事ここに至って、僕はあることに気が付く。


『そもそも、モンスターを倒したら金が稼げるという前提はどこから来てるんだ?』


『え?』


『誰かにモンスターを倒したら金になるって言われたのか?』


『いや、言われてないけど……』


 ゲームなんかでは、当たり前のようにモンスターを倒した瞬間に「10ゴールド手に入れた」などどテロップが出て、現金をゲットできたりするが、よくよく考えれば、野生のモンスターが現金を持っているというのも妙な話だ。その辺りは、いわゆる、ゲームにおける「お約束」という奴だろう。それを現実に当てはめようとする方が無理がある。


『じゃあ、どうしたらいいの?』


『もしかしたら、そのスライムから出てきたアイテムが換金できるのかもしれない』


 直接、現金が手に入るのではなく、モンスターを倒したときに手に入れられる素材を換金することで、現金を得るタイプの物語もよくある。スライムから出てきた謎の核も同じ類いの物かもしれない。


『どこで換金できるのかな?』


『わかんないけど、こういうのってギルドみたいなのが取り扱ってるんじゃないか?』


『おー、なるほど』


 ギルドとは、組合を意味する言葉だ。だが、異世界ものでは特に冒険者の組合、いわゆる、冒険者ギルドを指していることが多い。モンスターを討伐したり、ダンジョンを踏破することを生業としている者の連合組合だ。


『なるほど、次の目的地はギルド……は!』


『どうした?』


 アヤノは何かに気が付いたのだろうか。


『ギルドってことは、受付もあるってことだよね』


『そりゃ、あるんじゃね』


『ギルドの受付って、美人で優しい大人のお姉さんが居るって決まってたよね?』


『それは知らん』


 確かに、そんなイメージだけど。


『こうしちゃいられない! 早くギルドへ行かなくちゃ!』


『……まあ、頑張ってくれ』


 こうして、アヤノはギルドを目指すことになったのだった。




『見つけた。ここが冒険者ギルド』


 アヤノからのメッセージが再び日記に現れる。


『見た感じ、一階は酒場で、二階がギルドの受付みたいだね』


『まあ、ラノベとかでは、よくある感じの冒険者ギルドだな』


 僕が想像していた場所のイメージからそう遠くはなさそうだった。


『どうして、ギルドと酒場って一緒になってるのかな?』


『まあ、冒険から帰ったら酒とか飲みたくなるからじゃないか?』


『まあ、確かに気立てのいい看板娘を肴に一杯やるのは悪くなさそうだよね』


『言うことがいちいちおっさん臭い』


『ていうか、このギルド、こないだ入り損ねたキャバクラの隣なんだよね』


『そうなのか』


『これは換金して、速攻で行くしかないね』


 ギルドで依頼をこなして、大金を手に入れた冒険者を狙い撃ちするビジネスモデルなのかもしれないな……。


『まあ、とりあえず、ギルドで話を聞いてくるよ』


 僕はアヤノが戻ってくるのを待つことにした。




『ただいま……』


『おう、おかえり』


 アヤノの文字の雰囲気からして、あまり良い結果にはならなかったようだ。


『何があったんだ?』


『えっとね……ちょっと整理して話すね』




 私は酒場の扉をくぐる。

 まだ昼間ではあるが、店内に客の姿は多かった。こんな日の高い内から飲酒にふけるとは、冒険者とは案外暇な職業なのだろうか。

 可愛い店員さんは……どうやら、居ないようだった。


「見かけない顔だな」


 店内を見回していた私に声をかけたのは、入り口付近に座っていた強面のおじさんだった。隆々とした体躯に、戦いでおったのであろう古傷。いかにも、歴戦の猛者といった風貌の男だった。


「ここはあんたみたいなガキが来るような場所じゃないぜ」


「うーん、この主人公が酒場を訪れた際のテンプレ台詞」


 ここはこのおじさんを一瞬でねじ伏せて、私の実力を見せつけるパターンもありだが、やめておこう。おじさんと戦う趣味はない。かわいい女の子相手なら、フラグを立てるために一線交えるのもやぶさかではないが。


「こんなおじさんとの出会いテンプレはいらないから、美少女との出会いテンプレを用意しておいてもらえないかなあ」


「何を言ってるのか理解できんが、もしかして、ギルドへの登録か?」


「そうだよ」


 おじさんは、顎で奥にある階段を指す。


「なら二階だ。そこに受付がある」


「そうなんだ! ありがとう! チュートリアルおじさん!」


「何を言ってるのか理解できないが、失礼なことを言われているような気がするんだが……」


 私はおじさんに笑顔で手を振ってから、階段を上り、二階に向かう。

 二階は下の酒場のような喧騒はない。冒険者と思しき者も数名たむろしていたが、皆が真剣な面持ちをしている。私は、正面にある受付らしきカウンターへと向かった。


「すいませーん、誰か居ませんかー」


 私が声をかけると奥から物音が聞こえる。


「はーい」


 さあ、ようやく美人受付嬢と対面だ。

 思えば、ここまで異世界に来たというのに、ヒロインらしいヒロインに出会えていない。私を転生させた女神さまは、なかなかの逸材だったが、残念ながら攻略不能キャラであった……。そろそろ、ヒロインの一人も出しておかねば、異世界の名が廃るというものだろう。


「さあ、美人なお姉さん、来てください!」


「あいよ、何か用かいな、嬢ちゃん」


「は……?」


 受付カウンターの元に現れた人物は――


「え……おばあさんじゃないですか……」


 どう見ても齢は六十は越えている老婆だった。


「ん……? それがどうしたんや?」


「え? おばあちゃんが、ここのギルドの受付なの……?」


「そうじゃよ。もうかれこれ、二十数年になるかねえ。ずっと、アタシがここの受付をやっとるわい」


「……え? 美人の受付嬢は……?」


「ん? 何を言うとる。今、あんたの目の前におるじゃろが。がっはっはっは!」


「チェンジで!」


 言うべきことはきちんと言うのが私の主義である。


「私は美人受付嬢を落とすために来たんだよ!」


「落とすってね、あんた……」


「美人受付嬢の居ないギルドに、いったいいかほどの価値があるというのか……」


「失礼な小娘だね……。これでも、アタシも昔は町一番の器量よしで有名だったんだよ」


 そう言われて、私は改めて受付のおばあさんを観察してみる。老齢であることは間違いないが、顔の造作は悪くない。若い頃、美人と言われていたのは嘘ではなさそうだ。


「……確かに、言われてみればこれはこれでありかもしれない……おばあちゃん、私とお茶でも飲みにいかない?」


「アタシがいうのも難だけど、ストライクゾーン広すぎやしないかね?」


 いくつになっても、かわいいは正義なのです。




「まあ、せっかくここまで来たんだし、ついでにギルドについて聞いてもいいかな?」


「普通、そっちが本題だと思うんじゃがね……」


 私の行動原理の中心は、いつだってかわいい女の子なのです。

 私はポケットにしまっていたスライムから手に入れた核をカウンターの上に置く。


「ずばり、これの換金ってできる?」


 私が置いたそれを一瞥して、おばあさんは言った。


「ああ、ダメだね。こんなもん、一銭にもなりゃしないよ」


「ええー、どうして?!」


 おばあさんは、ビー玉程度の大きさの核を指でつまんで言う。


「この程度のコアの魔力保有量はクズだよ。大方、スライム当たりのコアだろ?」


「う、うん」


「この程度の質のコアから魔力抽出したら、元手の方がかかっちまって無駄になるのさ。あんたもこんな大きさのコアを変換器に入れたことないだろ?」


 おばあさんの言っている言葉がいまいちよくわからなかったので、私は質問することにする。


「魔力抽出? 変換器? 何なのそれ?」


「……それは冗談で言っているのかい?」


 おばあさんはあきれ顔で私を見ている。どうやら、私が聞いたことはこちらの世界では、ごく常識的な知識であったようだ。


「えっと、私、田舎の出身だから、そのあたりのこと疎くて……」


 そこで私は異世界ものの伝家の宝刀「田舎出身」という言い訳を使用する。

 こう言っておけば、異世界人はみな納得してチュートリアルを続行してくれるのだ。


「いや、この町も田舎だけど、さすがに抽出器くらいあるよ……。あんたはいったいどんな山奥で暮らしてたんだい? 怪しいねえ」


 食い下がってきた……だと?

 なんだ、このババア……。

 異世界人なんだから、こっちの言うことに都合よく返事しときゃいいのに……。

 私がどう言い訳すべきか思考を巡らせていると、


「はあ、まあ、ええわい」


 私の顔をまじまじと見つめて、おばあさんは言った。


「なんか訳ありじゃな。まあ、いいわい説明しちゃる」


「……いいの?」


「まあ、ギルドに来る奴なんて程度の差はあれ、皆、訳ありだからねえ……いちいち追及してたら、時間がいくらあってもたりゃしないよ」


 どうやら、おばあさんは何も聞かず、説明をしてくれるらしい。


「ありがとう!」


 私は笑顔でお礼を言った。




 おばあさんからの話をまとめるとこういうことらしい。

 この世界では、魔物を倒すと手に入るコアから抽出した魔力で皆生活している。魔力というのは、私たちの世界で言う電力に近い概念のようだ。たとえば、この世界にも冷蔵庫やスピーカーのようなもの存在し、それらは「電化製品」ならぬ「魔化製品」と呼ばれている。ただ、その動力である魔力は電力とは違い、通常、コアを売買し、各家庭に一台ある変換機によって魔力に変換して、「魔化製品」を動かしているらしい。


「だけど、抽出機そのものを動かすのにもエネルギーは必要だ。だから、あんまり質の悪いコアから魔力抽出しようとすると、かえって魔力が無駄になるのさ」


「なるほどね」


 つまり、スライムなんかを倒しても現金化は難しいってことか……。


「ちなみにさ、魔王って何者なの?」


 そもそも、私の最終目標は魔王を倒すことらしい。ならば、そこの情報も集めておくべきだろう。


「そこも知らんのかい……」


 いぶかしみながらもおばあさんは説明してくれる。

 どうやら、この世界は、人間の支配する世界と魔物の支配する世界に二分されているらしい。


「『ミルキーウェイ』と呼ばれてる大河がこの世界の真ん中には流れていたらしい。それが流れていたころは誰も魔界と人間界を行き来することはできなかった。ところが、何百年か前、『ミルキーウェイ』は一晩にして枯れ果てた。それ以来、魔界と呼ばれていた未知の世界から魔族が人間界を脅かすようになった。『魔王』っていうのは、その魔界を治めているっていう魔物の王のことだね」


「魔族っていうのは、皆、魔王に従っているの?」


「そういうわけでもないらしいね。アタシら人間だって、大概の人間は国に属しているけど、戸籍がなかったり、国に歯向かう罪人だっているだろう。魔物も同じで魔王の元に統率がとれている魔族も居れば、てんで勝手に好き勝手やってる者もいるみたいだよ。まあ、実際のところは魔物にしかわからんだろうがね」


「なるほどね」


 なんとなくこの世界の構造が見えてきたような気がする。

 だが、まず当面の目的は金銭を得ることだ。さすがに一文無しでは、これから冒険を進めることも難しいだろう。

 私はずばり核心を突く。


「一番、手っ取り早く稼ぐ方法は?」


「まあ、ギルド的に言えば、高ランクの依頼をこなすことだね」


 聞けば、コアの売買で金銭を得るのは、あくまで副次的なものらしい。たとえば、ドラゴンやワイバーンクラスのコアなら現在でも重宝されるらしいが、スライムやスケルトンクラスのコアではいくら集めても換金は難しいとのことだった。


「たとえば、SSランクのドラゴン討伐の報奨金は、100ゴールドだよ」


「それって、キャバクラ何回分くらいのお金なの?」


「換算単位が難しいね……まあ、どんな高級店でも十回は余裕じゃないかね」


 となると、1ゴールド=一万円くらいの感覚だろうか。

 なるほど最高ランクの任務をこなせれば、しばらくは遊べそうかな……。

 私は言う。


「よし、じゃあ、SSランクの依頼を紹介して!」


「まあ待ちな。いきなり、そんなランクの依頼を受けられるわけないだろう」


「ち、めんどくさいお約束だね」


「それ以前にうちのギルドに登録しなきゃ下級の依頼すら受けられないよ」


 まあ、確かにギルドというのは組合のことだ。まず、その組合のメンバーにならなくては依頼を受けられないというのも当然のことだろう。


「じゃあ、登録するよ」


「んじゃあ、登録料1ゴールドね」


「……へ?」


 登録料……?


「そりゃあ、ただでギルド登録ができるはずないだろうに」


「なんで?!」


「登録料を取らなかったら冷やかしが来るからね。冷やかしが低ランクと言えど依頼を受けて失敗してごらんよ。うちのギルドの看板に傷がつくだろ。だから、最低でも本気の奴だけをメンバーにするためには、登録料を取る必要があるのさ」


「いや、理屈は解るけど……」


 異世界にそういう正論はいらないんだけど……。


「おばあさん、私の目を見て」


「……なんだい」


「『強い意志を秘めて瞳だ。アタシもかつてはそんな目をしていたことがあった……。よし、登録料はいらない。登録証を持っていきな』って言って」


「アタシの過去と気持ちを捏造するのはやめておくれ」


 ダメか……。異世界だから、感情論で押し切れるかなと思ったのだけど……。


「ともかく、1ゴールド稼いできな。話はそれからだよ」




『というわけで金を稼がないといけなくなったの』


『なるほどな』


 アヤノの説明を聞き終えて、僕は返事をする。

 しかし、なんだろうか、この違和感は。アヤノがギルドの受付嬢であるおばあさんから聞いた世界の構造。こんな世界を僕はどこかで見たことあるような気がする。よくある異世界物語だと言われれば、それまでなのだが。


『ていうか、お金がないから働こうとしているのに、お金がないと働くことすらできないとか、フラグ管理間違ってると思うんだけど!』


 僕の思考を現実に引き戻したのはアヤノの言葉だった。

 僕は憤るアヤノをなだめることを試みる。


『まあ、なんでもかんでも都合よくはいかないってことだな』


 異世界と言えど、そこまで親切ではないだろう。


『日雇い労働でもして、まず登録料を稼ぐしかないんじゃないか?』


『……確かにギルドのおばあさんは、農場の手伝いとか、施設の清掃とか、いくつか仕事先を教えてくれたけど』


 そこまでしてくれるだなんて、親切だな、と僕は思う。

 もしかしたら、アヤノは件のおばあさんに気にいられたのかもしれない。アヤノは昔から不思議と誰からも好かれるタイプだったから。


『でも、こんな仕事はしないよ、私は』


 そういう好意を平気で無にするような奴でもあったのだけど。


『じゃあ、どうすんだよ。さっきの話じゃ、これから冒険を進めるにせよ、単純にモンスターを倒しても金銭は得られない。金を使わずに冒険するのか?』


『誰も働かないとは言っていないよ』


 そして、アヤノは言った。


『私は大道芸で稼ぐことにするよ!』




『大道芸って、何をするつもりなんだ』


 大道芸をと言われて思いつくのは、ピエロだ。パントマイムやジャグリングのような芸をして通行人を楽しませ、彼らから賃金を得るという職業だ。確かにアヤノは多才な奴だが、そんな芸ができるなんていう話を聞いた覚えはなかった。


『いくつかアイデアはあるから聞いて』


 僕はアヤノのアイデアとやらを聞くことにする。


『まあ、大道芸と言っても、一般的にイメージされるようなことをやるつもりはないよ。さすがにジャグリングとかできないしね』


『うむ』


『結局、大道芸で必要なのってお客さんを楽しませられるかってことだけだと思うの。つまり、お客さんに満足さえしてもらえば、オッケーなんだから、一般的な大道芸の枠に囚われる必要なないんだよ』


『なるほどな』


『だから、オリジナリティーあふれる芸を考えてみたよ!』


 アヤノはいったいどんな芸をする気なのだろうか。


『というわけで、第一案はこれだ!』




 巨大コーラにメントスを入れてみた!




『どっかで見たことあるな……』


 まず、異世界には、コーラもメントスもないと思うんだが……。


『では、第二案はこれだよ!』




 純金のハンドスピナーまわしてみた!




『うん、それもどっかで見たことあるな』


 あと、純金どころか普通のハンドスピナーも異世界に存在するのだろうか……。


『じゃあ、これでどうだ!』




 アルミホイルを叩いて球にしてみた!




『おまえ、YOUTUBE見ただろ』


 全部、パクリでした。




『全部、パクリじゃねえか』


『まあ、そうだけどさ。異世界だからいいんじゃない? 「現代知識無双」ってやつだよ』


『微妙な「現代知識」だな』


 少なくともさっき上げたような動画から得た知識で無双するのは難しそうだ。


『それ以前に、コーラとかアルミホイルは異世界にあるのか?』


『まあ、確かに……』


 よしんば、似たようなものが存在したとしても、一文無しのアヤノがそれを調達するのは難しいだろう。

 となると、身一つでできる芸でなければ、いけないだろう……。

 僕は一つ思いついたことを提案する。


『歌でも歌ったらどうだ?』


『歌?』


『アヤノは歌得意だろ』


 アヤノは昔から歌がうまかった。

 幼い頃から近所の劇団に所属し練習していたためだろうか。彼女の歌声は良く通り、美しく響いた。透明感のあるその歌声が、僕は好きだった。

 彼女の歌声なら、きっと異世界でも通用する。

 僕はそう思った。


『でも……』


『自信がないのか?』


『そうじゃなくて』


 アヤノは言う。


『歌を歌ったらジャスラックに音楽使用料を要求されたりしないかな?』


『……アカペラならセーフだから』


 彼らは異世界であろうと使用料の徴収に来る可能性があります。


『おまえの歌なら、きっと大丈夫だ』


 僕は一字一字に力を込め、ゆっくりと言葉を綴る。僕の思いが彼女に伝わるようにと。


『……わかった』


 アヤノの返事を見ながら、僕は思う。

 僕はアヤノの声を聞くことができない。

 それだけのことが、どうしようもなく寂しい。

 本当に、本当に寂しかった。




『いやあ、うまくいったよ』


 数時間後、僕はアヤノからの返信を確認する。


『日本で流行ってた名曲をさも、私が作ったような顔で歌ったら、すごく評価されたよ』


『ある意味、「現代知識無双」だな』


 アーティストの皆さま、すいません。


『まあ、登録料分くらいのお金はたまったから、これをもってギルドに』


 と、彼女からのメッセージが途中で止まる。


『どうした、アヤノ?』


 僕は彼女の言葉を促す。

 一瞬後に彼女のメッセージが届く。


『キャバクラの前で客引きしている女の子、すごく私の好みなんだけど……』


 そういえば、ギルドの隣はキャバクラ……。


『おい、行くなよ』


『今、お金はあるんだよね……』


『おい、やめろ』


 僕は慌ててメッセージを書き込む。


『おーい』


 返事はない。


『おい!』


 やはり、返事はない。

 え、まさか、こいつ……。




 一時間後。


『えっと……』


『キャバクラ行ったのか』


『………………』




 異世界でキャバクラに行ってみた!




『動画のタイトル風にしても誤魔化されねえよ』


 ちょっと内容が気になるなと思う、僕であった。


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