第5章「最終決戦」

第49話「戦争勃発」



 エリーはバーの入口から暗闇の中に佇む城を眺める。新聞記事のことも、どうしても頭に引っ掛かる。果たしてあれは一体……。


「……」


 余計なことを考えるのは止め、扉に「CLOSE」の看板を立て掛ける。速やかに閉店作業を済ませなければいけない。


 ザッザッザ

 ふと暗闇の奥から足音が聞こえた。ギャングだろうか。エリーは足音の聞こえる方向を警戒する。


「……また会ったわね」

「哀香!?」


 暗闇の中から哀香、花音、凛奈が出てきた。凛奈は花音に体を支えてもらいながら、よろよろとした動きでエリーに近づく。


「エリーちゃん……いや、優衣ちゃん。お願いがあるの」






 翌日、目を覚ましたアンジェラはベッドから起き上がった。目覚めはあまりよくなかった。昨晩の凛奈と陽真の別れを思い返すだけで、底知れぬ罪悪感が首を絞めてくる。

 自分の能力のせいで、あの二人の関係は崩壊した。しかし、自分は成すべきことを成さなければならない。心苦しくとも、女王の務めを放棄してはいけない。


 キー


「起きたかい? アンジェラ」


 部屋のドアが開き、隙間からアルバートが顔を覗かせる。


「おはよう、パパ。どうしたの?」

「来なさい」


 速やかに青のドレスに着替え、アンジェラはアルバートの部屋に向かう。そこにはカローナもいた。彼女は一枚の手紙を握っていた。涙目になりながらアンジェラに手渡す。


「これは?」

「今朝届いたの……」


 アンジェラは開いて読んだ。




“本日10:00に、城の襲撃を開始する。狙うは女王の命である。我々は自らの力で真の王を立てる。血を流して戦おうではないか。騎士団を使っても、能力を使っても構わない。負の歴史を繰り返すだけだがな。真の平和を実現したいのであれば、卑怯な手を用いず、正々堂々と決着を着けてみせよ ガメロ”




「……」


 アンジェラは黙り込む。ギャングからの宣戦布告だ。唐突に戦争を仕掛けられた。


「奴らはアンジェラの命を狙っている。この国を滅ぼすつもりだ」


 アルバートが呟く。アンジェラの額からは冷や汗が溢れ出す。命を狙われたのは何度目だろう。しかし、今回の危機は今までとは比べ物にならないほど恐ろしいものだと察した。


「アンジェラ、今日一日どこか安全なところに隠れてなさい! 絶対に外に出ちゃダメ!」


 カローナはアンジェラの肩に手を置いて訴える。


「もし身の危険を感じたら、能力を使うのよ!」

「でも、そうしたらせっかく築き上げた民との関係が……」

「今はそんなことを言っている場合ではない。国と王家の存亡の危機だぞ」


 アルバートもカローナも叱りつけるように言う。親としては娘の命は当然だが、国を滅ぼされては王家としての尊厳が損なわれる。アンジェラはうつ向いて答える。


「……はい」






 ザッザッザ

 その頃、城へと続く森の道を、ギャング達が列を成して行進していた。先頭でガメロが率いている。


「待っていろ……女王……」


 ガメロはアンジェラ達のいる城を、遠くから睨み付ける。過去に類を見ない激しい戦争が幕を開けようとしていた。






 アルバートは正門の前で騎士団を整列させ、最前列で告げる。


「いいか! 国と王家の存亡は君達にかかっている! 国のため、女王のため、大切なものを守るため、騎士道精神を胸に、剣を振るうのだ!」

「オォォー!」


 陽真、ロイド、ヨハネスを含んだ騎士団の軍勢は、勇ましい声を上げながら剣を空高く振り上げた。時刻は午前10時を迎えた。いよいよ戦争が始まる。騎士達は隊列を組んだ中、緊張の空気で正門を見つめる。

 陽真は必ずアンジェラの命を守ると、心に誓った。昨晩の心に引っ掛かった感覚のことは、一旦忘れることにした。今相手にすべきなのは、ギャングの方だ。




 ザッザッザッ……


「来た……!」


 騎士の一人が正門の奥から聞こえてくる大きな足音に気づき、呟いた。ギャング達も多くの仲間を引き連れて攻めてきたようだ。騎士達は剣の柄を握る。




 ズバァーン

 突如斜めに真っ直ぐ数本の亀裂が入り、木製の正門はバラバラに崩れ去った。粉々に切り裂かれ、ボロボロと落ちていく木片の向こう側に、ガメロが立っていた。勇ましく剣を握っている。彼が剣を振り、正門を切り裂いたようだ。


「フッ……」


 不気味な笑みを浮かべるガメロ。


「アイツ……」


 ガメロの力に呆然とする騎士団一同。アルバートは我に返り、騎士達に言い渡す。


「奴らが来た! 中には一人たりとも入れるな! 命懸けで戦えぇぇぇ!」

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 騎士団はギャング目掛け、全員で走り出した。


「来たな。奴らを落とせ!」

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 ギャングの軍勢も負けじと立ち向かう。互いに衝突し合い、激しい斬り合いが繰り広げられた。午前10時、国の運命をかけた戦が幕を開けた。






 開始早々10分、騎士団は苦戦していた。ギャング側は剣やナイフだけでなく、槍や斧、棍棒に鉄製のバンテージなど、数多くの武器を駆使して襲いかかってくる。それに加え、本気の殺意を持って騎士を殺しにかかっている。

 ギャング達は王族の能力のこと知ってしまった。フォーディルナイトの繰り返してきた歴史のことも。故に心から王族を憎しみ、国を潰そうとしているのだ。対して騎士はむやみに相手の命を奪うわけにはいかない。


 ガキンッ ガキンッ


「ぐっ……こいつら、強い……」


 下っ端のギャング相手に苦労するロイド。剣同士の突きつけ合いで軽く押される。ギャングの憎しみに染まった銀色の刃が、ギロリと光る。


 ドスッ


「ぐはっ……」


 ヨハネスが横からギャングの腰に飛び蹴りを食らわし、吹っ飛ばす。


「助かった、ヨハネス」

「やはり数が多すぎるな……」


 騎士団の軍勢の数は約300人。それに比べてギャング側は約500人。比較的劣っている。全体的な人数で見れば小規模な戦争だが、この一戦に国家の命が懸かっている。


「やはりあいつが厄介だな……」


 ロイドとヨハネス、は戦場の中央で唸り声を上げながら豪傑のごとく暴れるギャングに目を向ける。




「うぉらぁ! とっとと女王出てこいやぁ!!!」


 バンッ バンッ

 自慢の怪力で騎士の軍に穴を開けるバスタ。彼の攻撃を受けた騎士達は、次々と紙吹雪のように吹っ飛ばされていく。負けじと別の騎士が穴を埋め、数人がかりでバスタの進行を食い止める。流石に幹部相手に一対一は厳しい。


 ギンッ


「くっそ……」


 騎士達の連携の前に、なかなか城の内部に入り込めないバスタ。そのまま押し出される。


「バスタ! 退いてろ!」


 後ろからガメロが大きく叫ぶ。


「うぉぉぉぉぉ!!!」


 ブォォォォォン

 ガメロは剣を横に振り、台風並みの激しい突風を発生させた。突風は騎士の軍勢の大半を吹き飛ばした。直接触れもせず、何人もの騎士を無力化した。


「お前らはここを足止めしてろ!」


 ガメロは騎士達を吹き飛ばし、こじ開けた道を突っ走る。石造りの階段を登り、上階を目指す。


「しまった!」

「行かせるか!」


 突風に吹き飛ばされながらも、態勢を立て直した陽真。ガメロの侵入を許してしまい、遅れて後を追う。ヨハネスも並走する。


「それはこっちの台詞だ!」


 しかし、階段へ向かおうとする二人を、フェルニーが行く手を阻む。剣で階段の姿が隠れる。


「くっ……」

「はぁぁ!」


 ヨハネスは突然走り出す。フェルニーは通さぬよう剣で防ぐ。


 ギィンッ!

 剣同士が激しくぶつかり合う。


「アーサー! 俺が相手する。今のうちに行け!」

「ヨハネス……すまん!」


 ダッ

 陽真は斬り合いが始まったヨハネスとフェルニーの横を通り抜け、階段をかけ上がってガメロを追う。


「くっ……持ちこたえられるのか……」


 一目戦場を見渡し、倒されていく騎士達の姿を眺めるロイド。圧倒的に騎士団側が押し負かされている。騎士の力だけでは、到底ギャングの攻撃に耐えられない。このままでは更なる城への進行を許してしまう。




「さて、行くか」


 城に潜入したガメロ。しかしアンジェラを探すことはせず、階段を探して更に上へと向かう。どうやらガメロにはある作戦があるようだ。


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