小学校の図書館



 時計の長い針が90度進むのを待つと、校舎はカラフルな肌色の子供たちを吐き出してくる。けれどジェイミーは全然、外に出てこない。


 友達と喋りだすと止まらないあの子の性格は、自分とは正反対だ。今は私たちと暮らしていない父親ゆずりの社交性を、娘は生まれながらに身につけていた。


 けれどそれは時に私を苛つかせる。ジェイミーの喋り方や手の仕草が、あの元夫の影を散らつかせた。


 いくら社会では必要とされるその能力でも、私にはマイナスにしか働かなかった。だから娘も私に似て、無愛想で不器用に生まれてほしかった。


 卑屈になりすぎていないかって? そうかな……まあ、そうかもしれない。ブライアンが魅力的な男性だから、私は嫉妬していただけなのだ。我慢すればよかった。彼を束縛せず自由にしてあげるべきだった。そうすれば才能を発揮した彼はもっと出世できていたはずだ。それに2人の浮気相手以外にも、あと4人は愛人を作ることも容易だっただろうに。


 さらに90度、針が回る。


 いい加減、姿を見せないジェイミーに苛立った。自分から動かなければいけないじゃない。私は同年代っぽいマイノリティの集団の先頭の子を捕まえて尋ねた。


「ジェイミーじゃなくて、ジェニーじゃない? なんとなく………どっちも知らないけど」


「いたような、いないような……つか、おばさん誰?」


「……(無言で中指を出す)」


 しょせん青臭いガキエッジども、最初から頼るんじゃなかったと後悔した。



 私は校舎の中に入り、教室とロッカーが立ち並ぶ廊下を歩いた。授業の終わった教室を覗いたり、逆方向に歩く生徒たち一人ひとりの顔をじろじろと見た。だが最後までジェイミーの金髪と丸い顔は見つからなかった。廊下は建物の反対側の壁を突き抜けても終わらず、裏手にあるもう一つの施設、生徒の為の図書館まで続いていた。


 図書館の入り口には受付があった。そこに、ひとりの中年の黒人女性が座っていた。どんな勘に触ったのか知らないが、彼女の私への態度は最初からキツくて(ノーブラのせいかもしれない)、私を上から下まで値踏みしていた。無言で中に入ろうとすると、案の定とめられた。


「IDカード」彼女は胸のあたりを指し示した。


 入学時にもらった保護者用のセキュリティ・カードがあったはずなのだが、普段から持ち歩いてはいなかった。必要ない限り、校内には入らないもの。さっきは提示を求められる前にすり抜けたが、ここでは駄目らしい――価値の無さそうな本しか置いていないというのに。


「ごめんなさい、忘れてしまったの。つぎ来たときに出すから、今日は見逃してくれない?」


 取りあえず下手に出てみた。だが中年女性は規則をタテに駄目ノゥの一点張りだった。なんで? ほら、いま私の横を男性がすり抜けて行ったじゃない? 全身で文句を言っても、彼は教師だからと拒絶された。


「私の娘が中にいるかだけでも、教えてくれない?」


「あなたねぇ……それが一番教えられないのよ」女性はプイッとそっぽを向いた。


 娘が図書館にいる可能性は捨てきれない。だが性格的にこれ以上待つのが耐えられない私は、学校の外を探すことに決めた。

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