ユーナを置いて3

「なあ、ギル飛ばす先を一層から順番にしているのは何故だ」

「おや、飛ばした先の景色など殆ど変わらないでしょう」


 俺の疑問にギルは面白そうに片眉を上げながら微笑んだ。

 景色の違い等殆ど無いがギルの魔法で飛ばされて、飛ばされた先の魔物をある程度狩って戻るを繰り返している内に出て来る魔物が徐々に強くなっていると感じ始め、守りの魔物らしい魔物を狩ってそれは確信になった。


「周囲はあまり変わらないが俺が狩った守りの魔物は三体、いやさっきので四体目だろ」

「守りの魔物は確かに四体目ですね。よく気が付きましたね」


 そりゃ守りの魔物はその場に一体しか出ないし、狩ったら次は出ないからすぐに分かる。


「よく気が付きましたねって。ギルに気遣われてありがたいと言えばいいのか」


 今のギルは俺の魔法の先生だ。

 使い方を教えるというより、魔法の練習に付き合ってくれているという感じだがそれでもありがたい話だ。


「境い目の森は全部で六十六層です。今いるここは六十六層の守りの魔物を狩った先にある場所ですが、あなたはすでに最後の守りの魔物であるトレントを大量に狩っていますから逆から下層に進んでもいいですが、それだとつまらないでしょう?」

「つまらないって、まあそうだが」


 段々弱くなっていく迷宮なんて、それは攻略し甲斐がない。

 誰かに飛ばされて先に進むというのもそういう意味では同じだが、これは攻略じゃなく転移魔法の練習だからな。

 境い目の森の攻略は今度ユーナとポポと一緒に改めてやるから、その時にこの森の攻略の難しさを実感すればいいだけだ。


「それよりも、少し魔法上達しましたか」

「上達、そうだな。ギルの場所を探りながら転移出来る様にはなった気がするがまだ移転先の状態は分からないな」


 これは俺の魔法が下手過ぎるせいなのか、それとも上達しているのか分からない。

 剣の様にはっきりと目に見えるわけじゃないから、ギルが飛ぼうとするとその場の状態が見えると言っても何となくしか想像出来ないせいもある気がする。


「おや、そんな事していたんですか」

「ギルが言う様にその場の状態を知る事は出来ないから、ギルの気配を探して飛ぶ様にしてみたんだが、そもそもギルは自分で場所を移動していたんだから俺がやろうとしていたこと分かってたんだろ、白々しいぞ」


 俺は元々魔物や人の気配を迷宮で感じることは出来ても、魔物の大きさ等は分かってもそれがどんな魔物かとかどんな人かまでは分からない。

 転移の魔法を使う時、最初は転移する場所を思い浮かべてそこに飛んでいたが二、三回飛んだ後それでは練習にならないと思い立ちギルがいる場所を探しながら詠唱してその場所に飛び始めた。

 ギルは少しずつ場所を移動していて、今は最初の場所からだと町一つ分程離れた位置にいるから、場所を意識して飛んでいたらギルを見失っていただろう。


「ふふふ。試しに移動してみたら、ヴィオがちゃんと私がいる場所に飛んで来たのでねぇ。これは練習になる様に強力しなければと思いましてね」

「親切なことだな。じゃあすまないがまた頼む」

「ええ、行きますよ」


 にこりと笑いギルは俺を飛ばす。

 飛ばす先には当たり前の様に魔物が数体。

 どうもギルはわざと魔物が溜まっている場所に俺を飛ばしている様だった。


「それにしても、見たことない魔物ばっかりだな」


 今まで出てきたのは紫のキノコ、大きな花の魔物、大きな木の実を沢山つけたトレントでは無い木の魔物に角兎程の大きさの蝉の様な魔物に、人族の赤ん坊よりも大きな赤色の蜂の魔物等だが、人型が出るのは初めてだ。

 目の前にいるのは身長は俺の胸位、頭のてっぺんに花がついている。ゴブリンよりも人の見た目に近いが肌の色も髪の色も濃い緑色をしている。

 もう一種類の魔物も人型でこちらは見上げる程に大きい。色は灰色でごつごつした岩の様な肌をしている。


「ギャアアアアッ」


 大型の人型魔物がぶんっっと両腕を勢いよく振り上げて、近くにあった岩を投げつけて来るから避けずに剣先に精霊の爪と衝撃波を纏わせて切りつける。

 見たことも無い魔物との戦いは、難しいけれど楽しい。

 迷宮の攻略は出来る限り迷宮の情報を調べて準備してから挑むが、何も知らずに魔物に挑むのは楽しくて仕方ない。

 どんな攻撃をしてくるのか、どんな弱点があるのかそれを考えながら戦っていくのが楽しいんだ。

 

「ウギャギャッッ!!!」


 俺めがけて投げつけた岩を一刀両断されたと気づき、魔物が苛立ったように声を上げる。

 その声に誘われる様にわらわらと魔物達が四方八方から現れ始め、あっという間に囲まれてしまう。


「魔物寄せの香が無くても引き寄せられるのは、攻略中は最悪だな」


 数が多いから、衝撃波ではなく聖剣の舞に変える。

 多いのは頭に花がついている人型の魔物、大型の魔物は五体だ。

 

「聖剣の舞と精霊の爪、組み合わせはどうだ?」


 一斉に飛び掛かろうとこちらの様子を窺っている小型の人型の魔物から視線を逸らすこと無く精神力を高める。

 大きな魔物がそれぞれが岩を投げて来るが、それは少し体を動かしただけで避けられる程の拙さだ。知能はあまり高く無いのかもしれない。


「安心しろ、すぐに狩ってやる」


 ただ剣を振るより、剣士の技を使う時の方が当然だが精神力を使う。

 蔓を鞭の様にしながら攻撃してくる花の魔物より、この人型の魔物の動きは速い。

 

「よし、行くぞっ」


 精神力を高めながら精霊の爪と聖剣の舞を発動し、周囲の魔物全体を狙い剣を振るう。

 精霊の爪を使い慣れて来て気が付いたが、この魔法は攻撃だけでなく相手を挑発し引き寄せる効果もあるようだ。

 その証拠に精霊の爪を発動した途端、魔物達は誘われる様に俺の方に襲い掛かり精霊の爪の餌食になっている。


「ウギャアアッ」


 悲鳴を上げながら魔物達は魔石に姿を変える。

 トレント以外の魔物は形を残さず魔石と素材になるだけだ。

 精霊の爪と聖剣の舞の組み合わせの威力はなかなかの物で、たった一振りの攻撃だけで周囲から魔物は消えてしまった。


「精霊の爪の威力に慣れると剣が鈍りそうだ」


 素材と魔石をすべてマジックバッグに仕舞いながら、考える。

 精霊の爪が俺の能力になったとしても、魔法を使っての攻撃が何て言うか納得出来ずしっくりこない。

 使える者を使わないのは馬鹿だというトレントの言い分は勿論分かる。

 金を積んで高い武器を買い、強い魔物を狩れる様になるのと同じだと言えなくもない。


「なんていうか、何の努力もせずに能力を得た様なものってのが悪いんだろうな」


 今使っている剣は迷宮の宝箱の中から見つけたものだ。

 これを見つけた時はポールもニックも新しい剣を欲しいと言っていたが、二人は何故かこの剣を上手く使えず俺のものになった。

 ポールもニックも俺よりも体が小さいからなのか、この剣は重すぎたらしく力が上手く入らなかったんだ。


「宝箱から見つけた魔導書を俺が開けた。そう考える方が良いのかもしれないな」


 守りの魔物の層以外の層の宝箱は、偶然の産物と言われる程見つけるのが難しいものだ。

 同じところに何度も行ったところで見つけられる物でもないし、だからと言って同じ場所に二度と宝箱が出ないかと言えばそうでもない。

 迷宮が宝箱を開ける者を選び現れる。そう言う者もいる位、宝箱は見つけるのが難しい。

 迷宮によって宝箱の中身はある程度特定されるが、それもポーションの類が出るとか武器が出るとかざっくりとしたものだ。

 難易度の高い迷宮では良い物が入った宝箱が多い、そういわれてはいるがその程度だ。


「俺の剣はかなりいいものだが、そろそろ新しい剣も探しておかないとな」


 予備の剣は何本も入っているが、主として使っているのはこの剣ともう一本だ。

 どちらも迷宮産とはいえ、最近使い過ぎているから新しい武器の入手も考えておかないといけないだろう。


「まあ、今は転移の魔法と精霊の爪を使いこなすのが先か」


 そろそろユーナの魔力調整も終わっただろうか、だいぶ時間を使ってしまったからそろそろ戻ってもいいんじゃないだろうか。

 

「甘い花の蜜、綺麗な小石、光る苔、くるくる回る金の指輪……かの場所への道を開け精霊の門」


 ギルの位置を探しながら詠唱をし、転移の魔法陣を発動させる。


「これは」


 魔法陣が発動した瞬間何かが見えた気がした。

 緑色、その中に立つギルらしき人物。

 これが転移先を見るということなのか、驚く俺は魔法陣に吸い込まれる様にギルのもとへと転移したんだ。

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