精霊王には見えていた
「……王都か人が多い町か……」
何だろう、頭が上手く動いていない感じだ。
なんだこれ、これってなんていうか。
眠いわけじゃないのに、目を開けているが辛くなってきた感じがする。
「どうしました、ヴィオ」
「いや、なんでもない。ポポ、まだ魔素は吸い取らないと駄目なのか?」
ギルの心配そうな声にハッとして、ユーナとポポを見て声を掛ける。
今、一瞬意識を失いかけていた? 理由の分からない倦怠感を気にしていると、ユーナの額にポポは自分の額を付けたまま「ポポもうむり」と言い始めた。
「ポポどうした」
「もう、すえないよ。ポポおなかぽんぽんになった」
よろりとポポはよろけて俺の胸元に倒れこんできたが、片手で受け止めようとして出来なかった。
「ポポどうしたんだ。精霊王これは」
よろよろと立ちあがったポポの体全体が光に包まれてるのはユーナの魔素を吸ったせいだろうが、体が少し大きくなった様に見えるのは気のせいだろうか。
「ポポは魔素を限界まで吸い込んだ様だね。ギル、ポポに魔法を教えながら、魔力を大量に使わせて来てくれるかな。トレントキングではポポには辛いだろうから、トレントに遊んで貰うといい」
ポポをじっと見た後、精霊王はギルにそう指示を出した。
トレントは一応中級冒険者が相手をする魔物なんだがポポは大丈夫なのかという不安はあるが、ギルが一緒なら平気なんだろうか。
「分かりました。ポポ、行きますよ」
「はぁいーーー」
ぱたぱたぱた……。
よろけながらポポはギルの後ろを飛びながらついて行く。
「あれは大丈夫なのか?」
心配になりながら、でもなんていうか俺の意識がおかしくて、どうにも動けそうにない。
なんだこれ、ユーナを膝に乗せているからだけじゃない、俺もしかして立てなくなっていないか?
「精霊王、俺何かおかしくないか」
「何か自覚症状があるのか?」
「今よろけたポポを片手で受け止めようとして、受け止められなかった。それに立てなくなっている気がする」
ユーナを膝に乗せていても、いつもの俺なら問題なく立ち上がれる筈だ。
でも、今の俺は足に力が入らなくなっている。
一体何が起きているんだ。
「ふむ。ヴィオ、ちょっと君を見ていいかな」
「見る?」
「うん。答えは分かっているんだが、見ないとはっきりした事が言えないからね」
精霊王には俺の状態の理由が分かっている様な口ぶりで、ちょっと笑われている気がするんだが気のせいか? でも今頼れるのは精霊王だけだ。
「分かった、頼む」
「じゃあ、ユーナをこちらに」
そういうと精霊王は俺のすぐわきに柔らかそうな草で出来たベッドを作り、ユーナを移動させた。
精霊王に掛かれば、意識のないユーナを移動するなんて造作もないことらしい。
「じゃあ見るよ。ヴィオの能力等も全部分かるがいいね」
「ああ、かまわない」
俺は何を見られても問題はない。
能力の低さに驚かれるかもしれないが、それも俺の実力がその程度だということだから仕方ない。
「やっぱりね。ヴィオ、状態異常で酩酊と出ているよ」
「めいて……い?」
あれ、俺言葉の意味も理解出来ない程おかしくなったんだろうか。
精霊王は俺が酩酊していると言っている様に聞こえたんだが、そんな聞き間違いあるだろうか。
「酩酊って聞こえたんだが、間違いないか」
「間違いないね、君は酔ってるみたいだね」
精霊王は面白そうに俺を見ながら、ふふふと笑ったが俺は驚く以外の反応が出来ない。酒も飲んでいないのに酩酊って、どういう事だ。
まてよ、酩酊。まさか……。
「酔うって……まさか魔素? だが今更だろう」
俺は十代前半から迷宮に入り魔物を狩っているし、迷宮に入る前から外の魔物を狩っている。
魔素酔いなんてする筈がない。
「そうだね、ヴィオは迷宮の魔素酔いになったんじゃない。ユーナを膝に乗せていてユーナの発する魔力を吸い込んで酩酊になったんだよ」
精霊王の言葉に俺は、草のベッドに寝ているユーナを見つめてから、精霊王を見る。
ポポが限界まで魔素を吸ったというのに、ユーナはまだ目を覚ます気配すらないのが気にかかる。
そんなにユーナは魔素を吸っているんだろうか。
「ヴィオ、私の言葉は聞こえているかな」
「聞こえてる。俺はユーナの魔力を吸っていたのか? でも何で」
殆ど魔力が無い俺が魔力を吸っていたなんてあるのか? 精霊王の言葉でもすぐには信じられない。
「そうだね、ポポにユーナの魔素を吸わせている間のヴィオの話し方は少し以前とは違っていた様に思うから、ユーナの魔素酔いの影響を受けていたのかもしれないね」
「魔素酔いの影響、そんなのがあるのか」
「ユーナは我々の予想以上に魔素を吸いこんでいる様だ。今のポポの魔力の器であれば普通の魔素酔いを解消する位は出来るはず、だがユーナはポポの魔力の器では足りなかった」
「それだけユーナは大量の魔素を吸いこんでいたんだな」
ユーナの魔素酔いは俺のせいでもある。
この世界にも魔法にも慣れていないユーナが、魔素に慣れていないなんて分かり切ったことなんだから、俺がもっと気を付けていれば防げた筈なんだ。
「そうだね、ユーナは魔素を吸い過ぎた。精霊王である私も見たことがない程に、ユーナは短期間に魔素を吸ってしまった」
「契約精霊であるポポがそれを吸っても対応出来ない程の魔素の量なんだな」
ユーナは魔素があればいくらでも魔法が使えるとおおはしゃぎで魔法を使っていたから、もしかすると必要以上の魔素を使って魔法を放っていたのかもしれない。
「そうだね。ポポは最底辺の精霊として生まれたけれど、ラウリーレンのやらかしのせいとユーナとヴィオの最終契約を行うという事で、生まれ変わり無しに中位の精霊になった。生まれ変わりしていないから知識は最底辺のままだし、能力も位に対して足りていないけれど、それでもポポは位が上がった」
「普通であれば何度も生まれ変わりしないといけない程にポポの位は上がったってことか」
「そうだよ。精霊の位はすなわち魔力の器の大きさだ。ポポには位に即した知識がないのが欠点ではあるけれど、生まれて一ヶ月の精霊が持つには巨大な力を得ているから、本当であればもう少し私のところで勉強させなければいけないんだが、ユーナの事を考えると側にいないのは問題が出るだろう。一度魔素を使う魔法の発動方法を覚えてしまうと魔素の多いところでは無意識にそちらの方法で魔法を使う様になってしまうからね。契約精霊がいない状態でそれをやれば、今回の様に魔素酔いを起こしかねない」
こんな状態に何度もなるのは、心臓に悪すぎる。
他の迷宮に入り、強い魔物を狩って行かなくてはいけないんだから。
「魔素酔いは、魔素の扱いに慣れれば平気になるものなのか」
「普通はそうなるね。エルフの子供は魔素酔いに何度かなりながら大きくなっていくだが、ユーナには意識して魔力も使いつつ魔素も使う様に教えるしかないかもしれないね。まあそれはユーナが目覚めてから考えるとしよう。まずはヴィオの酩酊を治さなければ」
「俺もポポに魔素を吸いだして貰うのか」
「ユーナは魔素酔いになっているからそうなるけれど、ヴィオは一旦状態回復薬を飲んでみるといい」
「ユーナは薬は飲まない方が良いという話じゃなかったか?」
酩酊と魔素酔いは違うものなんだろうか。
俺のは酒を飲み過ぎたのと同じなのか?
「まあいいからこれを飲んでご覧」
精霊王はそういうとどこからか小さな壺を取り出した。
ギルもそうだが、精霊王も精霊の宝箱かなにかの能力を持っているんだろう。
そういえば、これも聞かないといけないのか。
「状態回復薬なのか」
「そうだよ。人族のものより効果は高いはずだ」
「そうか、遠慮なく使わせて貰う」
壺の蓋を開け中身を飲み干す。
すうっとした薄荷の様な匂いがする液体が体の中に染みわたったかと思うと、頭がすっきりして霧が晴れた様な感じになった。
「どうかな」
「効き過ぎて怖くなる程だな」
「そうか、それは良かった」
「でも、どうして俺が酩酊に?」
「そうだねえ、君がユーナを心配しすぎて無意識にポポの様な事をしていたんだと思うよ。君は魔力が少ないのにとんでもない事をしたもんだ」
笑いながら精霊王が説明してくれるが、そんな事をした覚えはないしやり方すら分からない。
「俺にはそんな事」
「人族は病気や怪我を治療することを手当てというだろう。あれはね母親が子供を心配して手を当てるところからきているんだよ。子供の頃体調が悪くなった時に母親に身体を撫でられて楽になった経験はないかな」
「ある……多分」
母が俺を気に掛ける余裕があったのは、俺がだいぶ小さな頃だからはっきりとは覚えていないが、熱を出した時や腹を壊した時母が側にいて撫でてくれていた覚えは確かにある。
「あれは気休めだろ」
「そうとも言うし違うとも言える。子供を心配する親の手は薬と同じ効果があるんだ、さっきのヴィオも同じだ。ヴィオはユーナを心配するあまりポポと同じ様に魔素をユーナから吸っていた。ユーナと違うのはヴィオは魔素に慣れているから魔素酔いまではいかず、酩酊となった。日頃冷静な君がちょっと面白い言動をする位には酔っていたね」
「心配するあまり」
「そう、君はユーナに過保護過ぎる位に過保護だからね。ヴィオ、その君の心配はユーナがこの世界の魂を持つ者では無いからなのかな」
精霊王の衝撃的な言葉に俺は何も言えなかったんだ。
※※※※※※
ギフトありがとうございます。
予定通りなんですが、十二月に入って仕事がちょっと忙しくなって来ました。
ちょっと更新頻度が落ちるかもしれません。
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