ユーナが貰った能力とギルの謝罪1
「とりあえず、トレントキングに今日の礼だけしておきたいんだが」
「礼、そうですね。精霊の国に連れて行ってもらいましたし、今後の事もお話しないといけないですもんね。ヴィオさん」
ユーナは俺に近づくとぎゅううっと俺のマントの端を掴んだ。
両手で掴み、俺の事を大きな目で見上げる。
「ふっ。分かってるよ一人で行ったりしないから手を離せ、皺になる」
「あ、ごめんなさい」
ぱっとマントから手を離しても、ユーナとの距離は変わらない。
まあ、いいかどうせ魔法陣の中に入っていないといけないんだ。
「じゃあ行くぞ……甘い花の蜜、綺麗な小石、光る苔、くるくる回る金の指輪……かの場所への道を開け精霊の門」
魔力が殆ど無い俺でも転移の魔法を使えるなんていうおかしさは、迷宮の魔素を使えるからっていう条件付きだからだ。
詠唱を終えてすぐに魔法陣が現れる。
転移の魔法を使うのは二回目だというのに、不思議と失敗するんじゃないかという不安は無く完璧な魔法陣は俺達を望みの場所へと運んだ。
「トレントキング、何度もすまない。出て来れるか」
もはや見慣れた感がある精霊の国の門が遠くに見える、森の中なのに少し開けた場所に辿り着いて、トレントキングから貰った実をマジックバッグから取り出して呼びかける。
魔物のトレントキングと意思疎通が出来ると分かっているとはいえ、それでも魔物は魔物だから内心警戒はしている。
警戒はしているが、意思疎通が出来るあのトレントキングが俺は嫌いじゃない。
なんていうか、憎めない性格をしてる気がするんだよな。
『呼んだか、人間。戦いたいか』
「違う、いや今日は違うってだけだが。トレントキング、今日は急な呼びかけに応えてくれてありがとう。助かった」
トレントキングが俺の呼びかけにすぐに来てくれて、ラウリーレンを精霊王のところに送ってくれ、俺達のことも精霊の国に運んでくれたからこそラウリーレンの寿命が尽きる前に羽を戻す事が出来た。
あれはかなりギリギリだったと思う。
ギルがラウリーレンに羽を戻したのは、殆ど消えかけている時だったのだからもしあの時トレントキングが俺達を精霊の国に運ぶのをすぐに納得しなかったら間に合わなかった可能性もある。
羽を戻せずラウリーレンの寿命が尽きたら、ユーナはどれだけ後悔しただろう。
ユーナはラウリーレンの傷を癒し、最後の最後でラウリーレンの行いを許したんだ。口では許さないと言っていたけれど、あれは許したと同じ行いだと思う。
『助かった? トレントキングはただお前の呼びかけに応えただけだ。礼を言われる事などない』
「それでも助かったよ。俺達が歩きで精霊の国へ向かっていたら間に合わなかっただろうからな」
「トレントキングさん、ありがとうございます」
ユーナは深々とトレントキングへ頭を下げる。
トレントキングがラウリーレンに何か思い入れがあるとは思わないが、ラウリーレンに羽を戻したという事は俺達、というよりユーナには意味がある事だったろうからトレントキングに礼を言うのは当然なんだ。
『お前達は変わっているな。人族の癖に精霊を思う等珍しい』
表情なんて分からない。
木の幹に目の様なくぼみが二つ見えるだけで、口も鼻も無いんだから当たり前だ。
『だが礼を言われて気を悪くする者は人でも魔物でもいないな、で? 礼を言う為だけのやってきたのか』
「いや、もう一つ今後の事を」
俺は精霊王がしてくれた約束をトレントキングに簡単に話した。
トレントキングが呼びかけに応えてくれるのも珍しいと言える話だが、精霊王の約束は更に珍しい、というよりも聞いたことが無い話だ。
トレントキングは俺の話を表情の分からない顔で俺をしげしげと見ているそぶりをしながら聞いた後、少し間を置いてから笑い始めた。
『はーっはっはっは。精霊王がそんな約束を、トレントキングとして長く生きているがこんな面白い話は聞いたことがない。トレントキングを三千体だと。精霊王は人族の寿命は短いと忘れているんじゃないのか』
「お前には笑い話か」
『ああ、笑い話だ。精霊王が生まれて初めて冗談を言ったんじゃないか、人族のお前がトレントキングを三千体も狩るなんて』
まだ笑っているのか、茂った枝をざわざわと揺らすからトレントキングの葉がはらはらと周囲に落ちて来る。
『あまりに笑い過ぎて葉が落ちたな、拾っていくか。人族には薬になるらしいぞ』
「トレントキングの葉なんて、ほぼ出回らないが薬の素材の一つに使うとは聞いたことがある。貰っていいのか」
『お前達がいらないなら、この地に還るだけだ。トレントキングは殆ど葉を落とさないから人族には貴重だろう。拾いたいなら拾えばいい。お前が笑わせてくれた礼に許可しよう』
トレントキングの葉は、欠損すら治してしまう最上級回復薬の素材の一つだ。
人族の国には殆どトレントキングの葉は出回らないから、エルフの国まで依頼を出さないといけないし、依頼を出しても確実に手に入るとは限らない程貴重なものだ。
その貴重なトレントキングの葉が、大量に足元に落ちている。
「じゃあ、何枚か貰うとするか」
『何枚か? お前こういうのは遠慮するもんじゃない。ほぅら二人共手を出せ』
何もせずに貰うのは性に合わない。
だけど断るのも微妙だと、数枚の葉を貰ってこの場を収めようとしたらトレントキングはそれでは納得しなかった。
ざざざっと風が起き、大量の葉が舞い上がり俺達が出した手の上にドサドサと落ちて来たんだ。
「おい、これは多すぎだ」
葉一枚が金貨十数枚、それは依頼の最低価格だったと聞いている。
それが俺達二人の手に大量にあるなんて、これを全部売るわけにはいかないだろう。
『多すぎ? お前達には契約精霊がいるだろう。トレントキングの葉は精霊の糧になるぞ。動物型の中でもお前達の契約精霊は鳥だし、まだ幼い。これは精霊の魔力を増やすし体力も回復するし傷も癒すぞ』
「そうなのか?」
そんなの聞いたことがない。
ポポの魔力が増すのも体力を回復するのも助かるが、何より傷を癒してくれるのが助かる。
ポポは見るからに弱そうだからな。
『生まれたばかりの弱い精霊の頃ならともかく、ある程度格が縣精霊には人族の薬は効かない。お前達の精霊は格が上がっているから、もう薬は効かないだろう。そうなると傷を癒せるのは精霊魔法か魔力だけだ、精霊魔法は兎も角魔力だけで治すのはなかなか難しい』
「そうなのか? でもさっきユーナはラウリーレンの傷を回復薬で治していたぞ」
ポポよりもはるかに精霊としての格が上のラウリーレンの傷、というより大怪我をユーナは持っていた回復薬で治してしまった。
あの回復薬はそんなに上の級のものじゃないから、よく考えれば人にあの薬を使ってもあの怪我がすぐに治るのはおかしな話だった。
『ラウリーレンはお前達の精霊よりも格が遥かに上だから治る筈がないな』
「でも治っていたぞ」
俺の目にはそう見えたし、ユーナも同じとばかりに頷いている。
『ふうむ…………それは、お前が魔力を注いでいたからだろう』
トレントキングは暫く考え込んだ後、意外な答えを出してきた。
魔力を注ぐ? トレントキングはユーナがそれをしたと言っているのか。
「魔力を注ぐ、ですか? 私そんなことしてません」
『いいや。今精霊王に確認した。お前はラウリーレンの傷を治そうと回復薬を使った。その際に大量の魔力を使った。ラウリーレンの怪我は精霊王が与えた罰によるもの。格が上の精霊に人族の回復薬等効かないが、もし薬が効いたとしても精霊王が与えた罰による怪我は癒せない』
トレントキングの話が理解出来ない。
ラウリーレンの怪我は治っていた。
ユーナがラウリーレンに掛けた回復薬は、確かにあの小さな体を癒していた。
『お前は無意識にラウリーレンの怪我の回復を祈り、回復薬に慈悲の心で魔力を流した。その心がラウリーレンの罪を浄化し体の傷も心の傷も魂の傷さえも癒した』
「体の傷、心の傷、魂の傷」
『精霊は己が犯した罪で己の魂に傷をつける。そうすると生まれ変わりの間に魂の修復の時間が必要になり生まれるまで長い長い時間が必要になる』
長い長い時間。
ラウリーレンが生まれ変わった時、俺達はもう生きてはいない。
だから想像もつかないけれど、ラウリーレンはその長い時間を意識を持ったまま過ごさないといけないらしい。
『不思議な存在だ。精霊に狙われて害されそうになったというのに、その精霊を許し怪我を癒そうとする等、聞いたこともない。ラウリーレンに同情したか』
「そうじゃありません。でも怪我している人がいて薬があるなら使おうとするのは当たり前だと思います。ラウリーレンは我儘でしたし、何度も私の魔力を奪おうとしましたし、ポポちゃんに酷い事もしましたけれど。あんなに酷い怪我を放っておいていいっていうのは、なんというか違うと思ったんです」
『精霊王がお前は愛すべき馬鹿者だと言うのは事実らしい。精霊王が罰を与えた相手の怪我を癒し、羽まで戻す様な。しかも魔力を無意識に注いで等お前は面白い』
トレントキングはまた笑いだし、また大量の葉を落とす。
その葉は当然の様に、俺達の手の中に積まれていく。
『落とさずに仕舞え。これからお前達の役に立つだろう』
「じゃあ、ありがたく」
マジックバッグにトレントキングの葉を仕舞うと、満足そうにトレントキングはまた笑い葉を落とす。落とした葉は俺達の手の中に積まれて……というのを何度か繰り返した後、トレントキングはやっと笑うのを止めたんだ。
トレントキングが笑い上戸だなんて、俺聞いたことないんだが。
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ギフト頂きましたありがとうございます。
近況ノートに「いいね」もありがとうございます。
ヴィオ、ユーナにでれでれしているので、書いているとリナが可哀そうになってきちゃう今日この頃です。
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