お礼は必要なんだろうな

「なんでそんなに騒ぐんだ」


 嘘だろとか、何で? という声がギルドの中に響き過ぎて顔をしかめる。

 別に俺が何も狩らないなんて日があってもおかしくないだろ、大袈裟な奴らだな。


「まさか、ユーナに魔法を使わせ続けたんですか」

「そうだ。危なかったら俺がやろうと思ってたがそういうのは無かったから、十層も任せたら出来たな」


 チャールズがあんな風に十層の魔物の件を言わなければ、公言するつもりは無かったんだが、ユーナは外見で侮られ易いかもしれないからこうなった以上はそれなりに戦えると周知した方がいいかもしれないと思い直し話す。


「任せたら出来たなって、ユーナ大変でしたね」

「……いえ、あの、大丈夫です」


 ギルが何故か気の毒そうにユーナを見ている。

 俺が無理矢理やらせたと思ってるのか? ユーナだってやる気になってたんだけどなあ。ギルからはそう見えるのか、心外だな。


「ほら、やっぱりユーナちゃん凄いんだよ。可愛いし強いとか最高だ」

「本当だなあ。可愛いし魔法も沢山覚えてるし、魔力量多そうだもんな」

「そうそう、魔法の練習だけであれだけ魔法使えるんだから十層の魔物だって狩れるさ。凄いなああんなに可愛いのに、強いとか」

「可愛いよなあ。ユーナちゃん」


 ユーナが可愛いのは分かるが、こいつら可愛い可愛いうるさいぞ。

 まあ、一応はユーナの初迷宮を祝ってくれてるんだから、細かいことは良いか。

 それよりもギルと話、いやその前に半日潰させた礼は必要か。

 こいつらが勝手にしたこととはいえ、善意からではあるみたいだしな。


「なあ、ギル。回復薬の在庫ってどれくらいある?」

「え、そうですねえ。かなり在庫ありますから幾らでも買ってくれていいですよ」


 ギルは俺の考えに気が付いたのか、ニヤニヤ笑いをしながら答えた。


「売店か」

「大量買いでしたらチャールズに言ってくれていいですよ」

「仕方ないな。チャールズ、こいつら全員に回復薬一人五本渡してやってくれ。在庫あるんだろうなギル。これで他の奴に売る分が無くなったとか無しだぞ」


 まあ、迷宮に入らない冒険者はそんなに回復薬を大量には買わないだろうから二、三日在庫不足でも大丈夫だろうが。


「え、一人五本ですか? ええと、三十五、四十……はい大丈夫です。でもいいんでうすかここにいる冒険者だけで五十人近くになりますよ」

「ああ、わざわざユーナの祝いの為にこいつら今日は迷宮に入らずにいてくれたらしいからな。お前ら気持ちは嬉しいが、自分が稼ぐのも大事なんだぞ。明日からはちゃんと迷宮に入れよ。チャールズから一人五本、回復薬を受けとったらとっとと帰れよ。まあ、そのなんだ。お前らの気持ちは嬉しかったぞ。ありがとう」


 なんでこういう気の遣い方をしたのか分からないが、まあ善意からではあるんだろうな。


「皆さんありがとうございます」

「いいんだよ。ユーナちゃんのお陰で資料室行きやすくなったし」

「そうそう。ライさん怖くて近寄れなかったけど、質問したら教えてくれるって分かったからさ。最近色々教えて貰ってんだよ俺達。お陰で迷宮攻略が進み始めたんだ」

「そうなんだよ。やっと七層を突破出来たんだ。迷宮鼠に苦労してたんだけどさ、一層から出るくせに七層になった途端仲間呼ぶんだもんなあ」

 

 まあ、一層から三層に出る迷宮鼠は仲間を呼ぶ能力は持っていないが、七層の奴は倒せなければ延々と仲間を呼び続けるからな。広範囲の魔法を使えないパーティーはキツイだろう。

 でも、突破出来たということは対策をライに教えられたんだな。


「そうか。情報を集める大切さを実感したってことだな」

「俺文字読むの苦手だから、資料室なんて入っても読めないって思ってたんだけど、読めなくても資料に書いてある事教えて貰えるし、読み書きの練習も最近させてもらってやっと依頼書自分で読める様になってきたんだ」


 成人前らしいチビ達が嬉しそうに話すのを、ギルは微笑ましそうに聞いている。

 ユーナの提案で資料室担当のライと工夫したのが上手く行っている様で、本当に良かった。


「頑張れよ。読み書きと計算が出来れば迷宮攻略以外にも役に立つからな」

「はいっ」

「ヴィオさん、明日も迷宮に入りますよね」

「ああ、明日は十層からだな」


 そう答えると、がっかりとした空気が漂い始める。


「もう十層なんですか。一度くらい俺達とも入って欲しいです。今六層なんですよ」

「俺達八層に上がったばかりだぁ」

「俺達なんかまだ五層」

「ふふふ。君達が頑張っていればヴィオはきっと一緒に迷宮に入ってくれますよ」


 ギルが面白そうに皆に話しかける。

 まあ、ユーナと迷宮に入ったら希望者と一緒には行って良いって話は以前ギルとしていたからな。数日位はいいかもしれない。


「本当ですか!」

「一度に全員は無理だからな」

「え、ギルマス。講習! 迷宮で講習して貰るってことだよな。申し込む、俺申し込むから! いつ、いつから?」

「俺も、俺も申し込むっ」


 ギル、わざわざ講習にしなくても。まあ、そうしないと収拾がつかないか。


「暫くはユーナと攻略を進めるでしょうから、日程が決まったら掲示板に張り出しますよ。そうですね、今回の条件は自分で講習の申込書に記入できる事と、最低八層までは攻略を進めていることですかね」

「えええ、俺達まだ五層」

「私達なんて、まだ三層だよ!」

「ギルマス酷いよっ」

「下層にいる者達は、その後で考えましょう。ヴィオ、ユーナちょっと話があります一緒に来てください」


 俺達もギルに話があったから、丁度いい。

 俺とユーナがギルと共に扉に向かうと、冒険者達はチャールズの机のところに列を作り始めた。

 急な仕事を押し付けて申し訳無いが、後でギルド職員にも何か贈らないといけないだろうな。仕事もせずにあいつらずっとここにいて騒いでいたら、そりゃ煩かっただろう。


「あの子達も面白い事を考えましたねえ」

「なんなんだろうな。迷宮に入らないでいるなんて」

「まあ、迷宮にヴィオ達がいたら側をうろうろしたいでしょうからねえ。確かに邪魔だったでしょうね」


 ギルの執務室に入りながら、あいつらの変な気遣いについて話をする。

 俺なら絶対に思いつかない様な気遣いをしたあいつらの気持ちがいまいち理解出来ないが、あれは若さ故の発想なんだろうか。


「ユーナ疲れた顔をしていますね。大丈夫ですか。ヴィオが無茶をさせたんですね」

「俺が原因じゃないぞ。迷宮がおかしかったんだ。な、ユーナ」

「え。ええと、そうですね」


 ユーナはハハハと笑いながら、大量の魔石と素材をマジックバッグから出し始めた。


「買い取り分はチャールズに渡して来たのでは無かったのですか」

「それをあそこで出したら大騒ぎになると思ってな」

「大騒ぎ? 確かに量は凄いですが」


 訳が分かっていない様子のギルに、俺はさっき一層で起きた出来事を話し始めたんだ。

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