迷宮攻略準備、ユーナの魔法の腕前は9

「ユーナ悪くないノ? ポポも?」

「ああ、勿論ポポもだ」


 そもそもポポの件で、誰かが悪いとしたらラウリーレンだ。

 こいつがそもそもポポを騙したりしなければ……と、恨めしい気持ちでラウリーレンが入れられた檻を見下ろしてしまう。

 まあ、ラウリーレンのやらかしが無ければそもそもポポとユーナの契約もあり得なかったというのはあるが、それを考慮したとしてもやらかし具合が酷い。


「ポポ、お前死にかけたというのに何を悠長に」

「死に掛ケタ? ポポ元気ダヨ」


 ギルがポポに呆れながら檻を持ち上げると、檻をポポの目の前に持ってくる。 


「これが元凶です。ポポはこれのせいで死にかけたのですよ。あなたに疑え考えろと言うのは酷な話ですがそれでも少しは自衛を覚えて下さい。先程の治療で少しは知恵と力がついた筈ですよ」

「知恵? 治療でそんなものが増えるのか?」

「ええ。ラウリーレン程力が強い者とは違いポポは本当に力がありませんから、先程魔法陣を消し、呪いを浄化する為ポポは死にかけました。しかも舌を欠損した状態です。瀕死の状態で自分の器を超える大量の魔力を浴び生命の雫で治療したことで、二、三回程度の生まれ変わりを行った強さを得ている筈です」


 体のどこかを欠損した精霊は生まれ変われないと言っていたから、実際ポポは死んではいなかったのだろうが、自分の器を超えた魔力を浴びただけで生まれ変わり扱いになるものだんだろうか。


「大量の魔力を浴びたら、ポポは今後も同じ現象が起きる可能性があるのか」

「いいえ。今回ポポは、まず私とユーナの魔力を大量に浴びた上、ヴィオの癒しの泉で魔力と体力を回復され続けていました。その結果魔法陣を消し呪いも浄化出来ましたが、その代償として舌を失い回復した体力と魔力も底を尽きかけ気を失いました。本来であればここでポポは消える筈でしたが、ヴィオがトレントを狩っている間、ユーナが魔力をポポに与え続けてくれたので気を失っていた状態から、目を覚まし掛けるまで回復しました。そして、その後生命の雫を複数ポポに与えることが出来た為、舌が元に戻り私達が気が付かなかった体の内部の傷も癒えました。ポポに死にかけた自覚は無かった様ですが、何度も何度も死にかけ、その度に救われたのです。それがすべて生まれ変わり扱いになっている様に見えます」


 どうしてそこまで詳しくギルに分かるのか、俺の頭には疑問しか浮かばないが今はポポが元気になったという事を素直に喜べばいいんだろうか。


「ポポ、何か能力が増えてはいませんか。数度生まれ変わった状態だとしたら、自分で自分の能力も把握できる様になっているかもしれません。今までラウリーレンの魔法陣の影響と呪いが邪魔していましたが、それも無くなりましたから、ポポの器も大きくなっている筈ですし出来る事は増えた筈です」


 なんだその便利な能力は。

 鑑定の能力を持っている者でなければ、自分に新しい能力が生えたかどうかなんて把握出来はしない。

 魔法の場合は魔導書を読めば魔法を覚えられるから、その場合は自覚するがそうでなければギルドの魔道具で調べるか、鑑定出来る者に鑑定して貰わなければ分からない。後は使えるかどうか試してみる方法もあるが、これは成功しない事の方が多いと聞く。


「能力?」

「ええ、自分の能力を思い浮かべて何が出来るか分かりますか」

「能力、癒しの風、精霊の輪、浄化の光」

「それは治療前に覚えていた魔法ですね。その他に何かありませんか」


 癒しの風は回復魔法、精霊の輪は防御魔法、浄化の光は状態回復魔法だったか?

 これ以外に覚えているものが増えれば、生まれ変わりをしたのと同じというギルの予想が合っていたということになる。

 いや、自分の能力が分かる段階で治療前より上になったのか。


「ええと、能力? 精霊の宝物入れ? 精霊の眼?」

「おや、二つしかも下位の精霊には珍しい能力ですね」

「なんだそれは」

「精霊の宝物入れは、マジックバッグの様なものですね。私も使えますがバッグ等の入れ物無しでもその者が持つ空間に出し入れ出来るものです。覚えたてはそんなに沢山のものは入れられませんが、時間停止しますし便利ですよ。精霊の眼は特定の物を見つける為の能力です。例えば魔物が近くにいないかとか、危険な罠が無いかとかですね」

「それ、ポポに判断出来るのか?」

「危険な物が近くにあったら知らせる様に言えばいいのです。精霊の眼は魔力を消費せず周囲の魔素で常時発動出来ます。ヴィオの癒しの泉の様に大量の魔素も必要としませんから迷宮外でも使えます。ポポ、便利なものを覚えましたね」


 それは迷宮攻略する時にユーナを守るには必要な能力だ。

 精霊の宝物入れも、ユーナの収納の能力を誤魔化すには丁度いい。


「それはユーナも覚えられるってことか」

「ええ。契約精霊が覚えているものは、絆が深くなれば覚える場合もあります。人の場合はエルフと違って精霊魔法を自然に覚えることはありませんから、ユーナが精霊魔法を覚えていくには魔導書を手に入れるか、ポポが覚えた魔法を自分も覚える方法しかありません。ああ、あとは覚えている魔法を繰り返し使い熟練度が上がることでその魔法の上位を使える様になる場合もありますが、人の場合は熟練度がなかなか上がらない様ですから、ユーナの場合難しいかもしれないですね」

「そうか」


 ユーナは、魔導書で攻撃魔法をいくつか覚えさせたがまだ上手く使えない。

 覚えただけで今の段階では立派なものだが、今後上手く使えるようになるかどうかは分からない。

 さっきの事を考えると、迷宮に入らせていいのかどうかも分からない。


「あともう一つあったヨ。精霊の幸運」

「おや精霊の幸運まで覚えたのですか。ヴィオ、ポポはもしかすると中位に近い下位精霊まで力を付けたのかもしれませんよ」

「何故そう思うんだ」

「精霊の幸運は、契約者の幸運値を上げる能力です。これはポポが二、三回生まれ変わった程度では覚えられるものではありません。今回覚えた精霊の宝物入と霊の眼も下位では覚えるのが難しいものです。精霊王に確認しなければ確かなことは分かりませんが、ポポはだいぶ力をつけているみたいですね」


 ギルに言われてもポポは訳が分かっていなさそうな顔をして首を傾げた後、無言のユーナの肩のところまで飛んでいきユーナの頬に自分の頭を摺り寄せた。

 さっきキツイ言い方をしたのが悪いんだと分かっていても、落ち込んでいる様子のユーナを見るのは辛いものがある。こういう時リナがいたら違うんだろうが、今は彼女に頼れるわけもない。


「ユーナ、ユーナ泣かないで」

「ポポちゃん」

「ヴィオ、ユーナ大事だよ。ユーナが泣くのも怪我するのも嫌だって思ってるから怒るよ。ユーナが大切、ポポもヴィオもユーナが大切」

「おいポポ」


 なんでポポは言い難いことをペラペラと話してくれてるんだ。


「ポポちゃん。慰めてくれるの大丈夫よ、私泣いてないわ」

「慰め? ポポ本当の事言ってるだけ」

「ポポちゃん」

「ポポ強くなるよ。ユーナが泣いてもポポが守れる様になるよ」

「ポポちゃん、ありがとう。でもね、それじゃ駄目なのよ」


 気まずい話をポポは遠慮なしに口にしてくれるから、困る。

 こういうの苦手なんだよ。


「あのな、ユーナ」

「私、魔物が怖いです。トレントは外見は木ですがそれでもヴィオさんが襲われている様にしか見えませんでした。あんなの遠くから見ているの凄く辛いです」

「それは、悪かった」


 でもあれが駄目なら、やっぱりユーナを迷宮には……。


「だから、私ヴィオさんと一緒に戦える様になります。遠くで震えているくらいなら隣で一緒に戦います。今はまだ足を引っ張るだけですが、攻撃魔法だってちゃんと使いこなせる様になります。だから迷宮に入らせられないなんて言わないで下さい」


 魔物が怖いと言いながら、俺と一緒に戦えるようになりたいと言うユーナに俺はただ頷き、その俺をギルはニヤニヤと見ているだけだったんだ。

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