地球侵略

 地球連邦政府の建物の前に、巨大な円盤が降り立ち、中からタコのような格好をした怪物が現れた。異星からの来訪者だった。

 世界中の軍隊が集結して出迎え、その中から連邦大統領がひとり進み出た。

「ようこそ地球へ。あなたたちが宇宙人であるのと同様、地球人も宇宙人です。私たちはこの宇宙の同胞、友人であります」

 地球という星はどうやら特別な星のようである。どの種の宇宙人にとっても、地球の海と空は美しく、そして生命とエネルギーの糧に満ちているものらしい。

 おそらく、この来訪者たちは人間を食料にするために来たのだろう。地球人は同じような危機にこれまで何度も出会っている。しかも、人間と宇宙人の間には、常に科学力の圧倒的な差があった。宇宙人が人間を捻りつぶす事などは、造作ないことらしい。

「ひょっとして」

 連邦大統領が暗い顔つきで尋ねた。

「あなたたちは私たち地球人を食べ物にするつもりじゃないでしょうね?」

「まさか、我々は友好のためにここへ来たのだ」

 と言いながら、タコのような顔が赤くなった。

「安心しました。どうぞ、こちらに。ささやかながら歓迎の宴を準備しております。さあ」

 連邦大統領は、先に立って宇宙人たちを案内した。

 未開の人種ほど人がいいようだ。地球人がかくも簡単に受け入れてくれた事を、宇宙人たちは心の中でほくそえんだ。 

 と、突然、彼らの歩いている床が空洞になり、異星の来訪者たちは団子になって、地下の暗闇の中へまっさかさまに落ちた。

 落とし穴だった。

 宇宙人たちは地球人の歓待に心底から気を許してしまっていたのだ。それが失敗だった。

 連邦大統領とその幕僚たちは、穴を覗きほっとため息をついた。しばらくして、暗闇から宇宙人たちの叫び声が上がってきた。

「一体何のつもりだ。すぐ、ここから出してくれたまえ」

「これは事故です」

 大統領は下に向かって声を投げた。

「落とし穴じゃないのか」

「そんなバカな。私たちは友人であります」

「じゃ、どうして助けてくれないんだ」

「あなたたちが、我々地球人を食い物にするつもりだからです」

「そんなことはない、我々は友好の……」

「嘘つき!」

 大統領がぴしゃりと言い放った。「嘘をついてはいけません。今よりあなたたちは私たちの人質であります」

 それを聞いて、宇宙人たちは泣き叫んだ。

「嘘つきは地球人のほうだ!」


 その後、地球軍は彼ら人質を盾に、首尾よく宇宙人たちの侵略を阻止することに成功した。

 しかも、人質を解放すると約束しておいて、実は皆殺しにしていた。どうやら、関係者が密かにタコ刺しにして食ってしまったらしい。珍味を楽しんだのだろう。

 が、そのことも結局うやむやになった。

 なぜか宇宙人の地球侵略は、これまで一度も成功したことがない。地球人は、それが不思議で仕方ない。

 だが、嘘をついたり騙したりする能力に長けている方が、どんな科学力も圧倒する武器だということに、彼らは気づいていないだけなのである。

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