ある面接
ひとりの青年が、面接会場に入っていった。目の前に長机があり、十人の面接官が並んでいる。
最初の面接官が、まず青年の名を聞いた。青年は緊張した様子も見られず、すらすらとそれを答えた。青年の名は、ありふれたものだった。
それから続いて二三人の面接官が、彼の趣味や信条などを問うた。青年は、それぞれに卒なく答えたが、突然、うんざりしたような顔をして、前に一歩進んだ。とても挑戦的な態度である。
「もっと有益、かつ機能的な質問をしてもらいたい」
面接官たちは騒然とした。
「では、君の将来の夢はなんだね」
「ありふれている!」
青年はぴしゃりと言い放った。「そんな質問で、僕の何がわかると言うんだ。それをまず分析的に説明したまえ」
質問を発した面接官は、口ごもった。
「意味のない質問は時間の無駄だ」
すると、別の面接官が口を挟んだ。
「わが社に入社した理由は?」
「貴社の将来性です」
と、突然青年がまともな答えをした。面接官たちは、おおっと、声を揃えた。が、次がいけない。
「この答えを本気に取るべきかどうか、それが問題だ」
一事が万事、この有様である。面接時間はどんどん過ぎていったが、その対話は決して噛み合っているとはいえなかった。
さて、規定の時間が終わり、青年が面接会場の入り口から出てきた。彼は手にしたメモにいくつかの丸を記して、そこで待機していた人物に手渡した。
「採用できるとすれば、これぐらいかな」
面接会場の前の立て看板には「面接官採用面接試験」とある。
企業は徹底した効率を図ろうとし、すでに面接と言う仕事さえ細分化した。これはつまり、面接官を決める面接であった。
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