第一章 奴隷の少女を買って、冒険者始めます

第15話 ジジイ水

 貴族エルフとの死闘を終え、俺が目覚めた初めての朝は無機質で清潔感な空気に支配された部屋だった。


 薬品が置かれた棚からあの解体室の事を連想し、布団を投げ飛ばしてしまった。


 おそらく…ここは、この世界の病院ではないだろうか?

 魔法の存在する世界って協会とかで治療魔法を受けるものだと思ったが、そうでも無いようだ。


 体の様子を見てみると、腕にはトリアージの緑の布が巻かれていた。

 もし、前の世界と同じなら俺の体は問題ないのだろう。

 俺の体は、この病院に運び込まれた時には既に完治していただろう。

 特に治療された形跡がない。


 病人服の状態にされ、持ち物は近くの机に置かれていた。

 その一つの腕時計を取る。貴族エルフのファイアー・ボールを受けても殆ど影響はなかったのか、今も針は時間を刻み続けている。

 

 盗賊のアジトで確認した日付から約一週間経っている。

 結構、寝ていたんだな。

 部屋の物音を聞いて見知った人間が部屋に入ってくる。

 魔道士カールイだ。


 「おお、目が覚めたか……よく眠っておったの」


 あの黒い法衣姿でなく、平民が着てそうなラフな格好は距離を感じさせない。

 この姿だけしか知らないなら、街で見かける優しい爺さんだな。


 「まさか、一週間も寝ていたなんて思わなかったよ」

 「何を言っておる、お主……」

 「……ん?」

 「一か月以上眠っておったわ」

 「……嘘だろ…」

 「お主のおかしな体質のせいで回復魔法も医療器具も全て使えぬ状態だったから、医者も顔を青くしておったぞ」

 「……なんで生きてんだよ、俺……」

 「お主の異常な回復能力を知っておる儂は特に気にしなかったが、騒ぎになるのも面倒じゃから……適当に生命の奇跡だと言って誤魔化しておいた」

 「それは……ありがとう?」


 俺の体質は、生命の奇跡に対して冒涜的じゃないですか?

 俺の体質はあまり周りの知られたくないからな。

 爺さんの気遣いがありがたかった。

 いくら体が丈夫だからって生理的欲求は起こる。

 恐らく点滴も受けていない体は、喉の癒しを求めていた。


 「爺さん、水はないか?喉が渇いてしょうがない」

 

 「うむ、そこのコップを持て……クリエート・ウォーター」


 コップの上から水が生まれ、コップを満たす。

 透明度の高い、ジジイ水の出来上がりである。

 飲んでみると、無駄な苦みも無くとても飲みやすいものだった。

 一か月ぶりの水は今まで飲んだ飲み物よりも一番うまかった。

 やるじゃないか、ジジイ水。


 


 

 


 

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