第6話要請
「エルフ兵さんよ……俺たちずっと、ここで敵のアジト見ているだけだけど何かしなくていいのか?」
「攻め込むにしても魔法が使えないんじゃなー、シエール兵もこんな所まで大変だったな」
「まさか盗賊の鎮圧に出兵しなきゃならんとは思わなかったよ」
「本来、冒険者の仕事だしな……」
エルフ兵とシエール王国兵は互いの無力さに呆れながらも目の前の盗賊のアジトを眺める。
一部では交戦している姿も見られる。
盗賊のアジト周辺はエルフ兵とシエール兵に囲まれ一見絶体絶命と思われる状況だが、そうでは無かった。
魔法エネルギー源である神樹群があるエルフの里が
人種最強クラスの竜人族と肩を並べるエルフ族だ。
理由は、神秘性魔法に長けていたからだ。魔法を使えば一般市民ですら他国の尉官将校と渡り合える程である。
人種の特性上人口は少ないが、これほどの脅威はそうそうない。
いくら身体能力の高い角含族で構成されている盗賊団であってもエルフ族相手では実力の差は目に見えている。
エルフの里が襲われていると援軍の要請を受けたエルフの国と親交の深いシエール王国の救援部隊は盗賊団が気でも触れしまったのかと思っていた。
最近、勢力を伸ばしている盗賊団だったため、丁度いい機会に逆に制圧されていれば御の字だと考えていた。
そして、外交の付き合い上の問題で援軍に駆けつけないわけにはいかなので、エルフの国家と隣接している領地の兵を向かわせ、向かった時には特にやることもなく事後報告で済むだろうと呑気な考えも孕んでいる。
だが現地は悲惨な状況であった。
魔法科学が発展した中で戦闘の中心もまた魔法である。
だが、その光景はどこにも見られない。
エルフの兵たちは己の剣で対応するが、魔法無しで身体能力の高い角含族に太刀打ちできるわけもない。
一方的な殺戮が繰り返される。
そんな光景が繰り広げられていたのだ。
なぜ魔法を使わない?
使えないのだ。
里に入ると魔力が微かに感じられる程度にしか込み上げてこず、工学的魔法ですら発動できない。敵の工学的魔法のみが行使されている。
敵は魔力抑制魔法を広域に発動させている。
エルフの神秘性魔法をほぼ無力化する程の魔力抑制魔法を魔力能力の低い角含族がなぜ使える?
普通の兵士では到底対応できないと判断した王宮の軍事及び外務大臣は冒険者である魔道士に救援要請を事となった。
盗賊は目的が達成されると神樹を数十本と捕虜のエルフ達を十数人連れて、アジトに移動して現在に至る。
「なんじゃ、これだけの兵士が山を囲んで何も出来んとは情けない」
「……あなた様は……ッ!」
「え……!」
エルフ兵とシエール兵は後ろを振り向くとグレーのローブに身を包んだ老人を見て、だらしない姿勢を新兵の模範にできる程の直立不動になる。
緊張で汗すら出ない。
国の軍事大臣達が要請する程だ、軍でいえば佐官、冒険者でいえば三級クラスの人物を考えていた。
しかし想像を遥かに凌駕していたのだろう。驚きを隠すことができない。
「入口はどこじゃ?」
「は、はひぃ!この奥をまっすぐ行った先にアジトの裏手に繋がる入口を押さえていましゅ……」
「わかった、ごくろうじゃったな」
緊張で噛んでしまった。だが、その恥ずかしさすら感じる間もなく、老人は兵士達から離れていく。
「なぁ、エルフ兵……」
「なんだ?」
「俺たちってもう帰って良いんじゃないかな?」
「ああ……俺、あの人に会った事を後生に自慢できるわ」
兵士二人は事の重大さを今更身に染みて感じるのだった。
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