第3話異世界転移後
「兄貴、ラフポーションなんて注射して大丈夫なんですかね?」
「知らねえよ。あのクソエルフがこの人間の体をそのまま保存するって言うんだからよ」
全身の痛みと共に目覚めると見覚えのない薄暗い部屋に柄の悪い二人の男立っていた。
薄汚れた格好に腰の短剣、盗賊だろうか?錆びた鉄の臭いと汗臭い男どもならまだ良い。
だが、二人の男は違っていた。
頭に角が生えていたのだ。
まるで牛のような短い角に足の関節が途中微妙に変わっている。
腕はワタルの太もも以上に太く、筋肉の塊だった。
兄貴と呼ばれる男は奥で別の作業をしているが、目の前の若い男は物珍しそうにワタルの顔を見続ける。
「なんだ?お前……人様の顔がそんなに珍しいか?」
「おっ!兄貴、この人間目覚めましたよ」
「なら、早く血抜きの準備をしろ。ラフポーションが全身に回って時間が経つと細胞が再生しすぎる」
「わかりました~」
そう言うと若い男は奥にある血抜き台を引きずり出し、いくつか工具を取り出す。
部屋全体は作業するにしても広く、今まで解体してきたであろう人間(?)の体の部位が瓶の中に保存液漬かって棚に並べられている。
「人身売買の為に拉致られたのか?俺の臓器はどこも病気だらけで先がないんだ。そんな、高く売れないぜ」
挑発的に言ってみるが二人はワタルに気にする事無く作業を続行する。
どうせ死ぬつもりだったのだ。抵抗する気もないが自分の置かれた状況を確認してみる。
腕は背にまわされ、両手両足を縄のようなもので縛られている。
しかし、拘束が甘い。縄と縄の間の空間あいている箇所が多い。慣れていないのか?
左を見てみると、三人ほど先客がいたようだ。
服装はひどく乱れておらず、破かれてもいない。
争った形跡も乱暴された後もない。
無抵抗のまま運ばれたのか。
盗賊の体格を見たら抵抗する気も起きないのも理解できる。
一番奥に細身で長身の金髪の男が一人。
彫りの深い顔立ち。
手を合わせ何かぶつぶつとつぶやいている。
おそらく、神に祈っているのだろう。
足首に大きな傷跡があり戦闘向きでもなさそうだ。
この男と容姿が似ている隣の女は常に眉を寄せ盗賊を警戒している。
この二人の共通点は細長い耳が目立つ。
俗に言うエルフと言われる種族なのだろう。
「……黒髪の人間!」
「なんだ、黒髪は珍しいのかい?」
「黙れ!話しかけるな」
(やけに辛辣だな。この世界には髪への差別意識があるのか?)
ワタルの視線に気づいたエルフの女はワタルを視界に入れないように目を背ける。
だが、即座に彼女の隣にいた少女に申し訳なさそうな顔をする。
その少女は肩を震わせる事しかできないでいた。
日本人のワタルから見ても身長が低く、145前後だろうか。セミショート程のウェーブのかかった薄緑の髪と顔の幼さが犯罪的魅力を感じる。
この三人の不自然な点を言えば、拘束具が無いことだ。それなのに両手は後ろにまわして身動きが取れない状況である。
無抵抗な態度であっても拘束具を付けていないのは何らかの意味があるのか?
よく見ると微かに手首が紫色に光っている気もする。
「血抜きの準備終わったんで先に始めていいですか?」
「ああ……さっさとやってくれ俺は黒髪に触りたくないんだ」
この男も黒髪に拒絶的な態度をとる。この中で黒髪はワタルだけ。盗賊二人も青と赤の毛並みである。
「それじゃ、ちゃっちゃっと終わらせますか」
若い男はワタルの髪を掴み引きずるように血抜き台に運ぶ。
ここで気づいた。ワタルは服をはがされ全裸であった。
少女に知らない男に裸を見せてしまったが、死ぬ前にそれはそれで得した気がし、自分の露出癖の有無を疑う。
「よっと……首切り包丁はどこに置いたかな?」
若い男はワタルを血抜き台に彼を設置すると、刃渡り三十センチほどの首切り包丁を彼の首に添える。
「なあ、お前……人の首切るときは一気にやった方が良い」
「なんだ……自分が死のうって時に怖くないのか?」
「ああ……もともと自殺しようとしていたんだ。恐怖なんて無い。ころしてくれてありがとうよ、ハハハ……中途半端に切ると手に肉の感触が残って飯が不味くなる…ハハ………ハハハハハハハハハハ!」
「なんで、笑っているんだ、気持ち悪い……」
ワタルは若い男の方を向き、目を合わせ笑い続けた。
若い男はワタルの生へ諦めている姿に不気味さを覚えて手が震えてしまう。
どれほどの闇を抱えて生きてきたのだろうか。想像すると未知の闇に引きずり込まれそうな気迫すら感じられた。
早く、この男を殺してしまいたい。若い男の内面的恐怖が広がらないうちに。
―――シュッン!―――
あっさり、ワタルの喉はさける。
若い男は血抜きが終わるまで笑いながら死ぬワタルの姿を視界に入れないように移動する。
数分もせずに終わるだろうと最後まで見届けずに。
笑うにも呼吸気管も切れ、虚しく空気の漏れる音が部屋全体に伝わるのだ。
その音が鳴り終わるまで若い音はワタルに近づきたくなかった。
首を切られ即死するわけでない、脳の活動が停止していくためゆっくり動いて見える。
自分の血は何色なのだろうか?確認する暇さえある。
血潮は直接落ち血抜き台に広がり、喉を伝わり彼の体に軌跡を画く。
鼻に突き抜ける、鉄の風味が興奮を高め、笑い声は空のまま部屋の空気を振動させる。
この光景を一番気味悪がっていたのはワタル自身であった。
これだけの血を流しても意識は残り死ねないのだ。
首元で感じた事のない激痛に耐え、男たちに気づかれぬように項垂れる。
彼の体は死なないのか?
(ふざけるな……何も残されていない俺にまだ生きろっていうのかよ……)
この世界に生きる意味とはなんなのか?
十分に考える暇もなく血は彼の体から無くなった。
「血抜き台を洗ったらエルフ達を並べろ」
「こっちは血を採んでしたっけ?」
「ああ、エルフの血は高く売れる。他の血を混ぜるな、売れなくなっちまう。チューブと真空瓶を用意しろ」
「わかりました~」
若い男はワタルをもといた位置に乱雑に運ぶ。
死体同然の彼の体をすぐ横で見た低身長な少女はワタルが壁にぶつかった音に反応する。
この衝撃で首の傷は広がってしまった。
「エルフ達を運べ」
「了解……」
強大な腕に二人のエルフは抵抗を見せるが、若い男の腕は微動だにしない。
「あなた、その汚い手を離しなさい!」
「頼む、妹だけは見逃してくれ……!」
二人の言葉に耳を傾ける気のない若い男はそのまま目的の位置に運び終える。
「エルフの里を襲ってから俺たちの扱いが雑すぎませんかね」
「どこ触っているの……やめなさい!」
唐突に不満を吐き出す若い男。
エルフの女の頭を押さえつけ体をわざとまさぐる。
その動作にエルフの女は払い除けるように体を激しく動かすが、若い男の握力には適わない。
「確かに魔力抑制魔法を使ったからと言って俺たちもギリギリだったしな。用が終わったら逃げるようにアジトに戻ってきたし、戻ってきた途端こんな事させられている」
「そうでしょう……いくら金になるからって一週間以上ほぼ飲まず食わずで戦って、ようやく落ち着いて狩ってきたエルフも犯す事も出来ない。いきなり指揮ってきたキ○ガイエルフは俺たちの事なんてただの小間使いだ」
「お頭もあのエルフには頭が上がらないらしいしな」
(この事件の主犯がエルフで被害者側もエルフとは、人種関係なく同族迫害はあるんだな)
「外にはエルフ兵へシエール兵が囲って、いくらここが魔力抑制魔法で守られてるからってずっといるわけじゃないでしょう」
若い男の手がエルフの女を撫でまわす。
「また移動で犯す機会が無くなるなら、解体する前に犯しましょう」
「……あぁ、やめなさい!やめて……いやぁ……離して」
若い男の目は充血し、本能と理性の狭間で無意識にエルフの女の体を更に触る。
若い男の熱はエルフの女以外の人間にも伝わってくる。
「頼む……妹はだけは……私に残された家族は彼女だけなんだ!」
エルフの男は無抵抗に懇願し、ただ妹の無事を叫ぶ事しかできない。
「そうか……フフフ」
その様子をみた兄貴と呼ばれる男はエルフの男を妹の目の前に移動させ、血抜き台に押さえつける。
大の男の頭もこの男の手の大きさからしたらリンゴのようなものだ。
「なら、兄が目の前で犯された方がお前も興奮できるんじゃないか」
「そんな……やめてくれ……頼む!………妹だけでも解放してくれ、私はどうなってもいいから!」
「兄貴わかってますね!せっかくエルフを狩ったんだ、犯さないと一生の後悔ですよ」
「おれは、こっちの男を貰うわ。あのエルフの指示に従う義理もないしな」
兄貴と呼ばれた男は、エルフの男を執拗に手で愛撫する。
自分の提案が通った瞬間の若い男の顔はこれでもない程、邪悪で笑みが歪んでいた。
つづく
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