第9話「スター・シップpart1」



 シエラはニヤリと笑うと、こちらに手を差し伸べた。

「なら、ただのリュウト君。私を信じて、ついて来てくれるかな?」

「あなたの目的は何です?」

「私の目的は、困ってる人を助けること」

 ね、とシエラはこちらにウィンクしてみせたが、リュウトはその言葉の真意を見いだせず、ただ困惑した。


『今の状況を鑑みるに、彼女の保護を受けるべきだと思うが』

「信用できるのか?」

『彼女は魔導士と名乗ったな。オレの記憶が正しいなら、信用に足る相手だ』


 リュウトは考えこむように少しの間目を伏せる。確かに、今の彼女からはこちらを襲おうとする意思は見られない。


「今のところは、あなたに従います!」


「よろしい。なら早速行きましょう。私の相棒も、そう長くは持たないでしょうし」


 リュウトは頷くと、女性に導かれるままに、風が吹きすさぶ平原を走った。平原は大小さまざまな石が転がり、かつてこの付近で火山活動があったことを告げている。


後ろを振り向くと、先程までいた神殿が、上空に浮かぶ構造物からの攻撃を受けてガラガラと崩れ始めていた。


「危ない所だったわね。あと少しでも――危ない!」


 瞬間、目の前が爆発した。


 景色がスローモーションになり、正面で赤い爆炎がゆっくりと広がっていくのが分かった。そして強い風、それと同時に正面から壁に激突したような衝撃が全身を襲う。




 二人は紙人形のように空を舞い、そして――




 背中から地面に叩きつけられた。肺から空気が抜け、咳き込んだのも束の間、炎上した戦闘機がすぐ横に落下し、地面を大きく揺らした。

頭上を見上げると、落下してきた戦闘機より二回りほど大きな戦闘艇が、激しい空中戦を繰り広げているの が見えた。


 上半身を起こし、腕に抱えたパンドラを見た。傷は無いが、未だに目を覚まさずにいる。 その時、シエラが爆発のクレーターの側で左手を空高く掲げたのが見えた。


 手に炎が宿り、弓を形作る。弦を引き絞ると、太陽のように煌めく矢が現れた。その先には、例の浮遊構造物――戦艦に向けられている。

 戦艦はこちらに気づいていないのか、例の建物に向かって火球を放ち続けていた。


「星々の焔よ! 我に力を! 〈星炎砲歌スターファイア・カノン〉!」


 そして、圧縮されたエネルギーが解き放たれた。圧倒的熱量を持つ光の束は、戦艦の外殻を一瞬で融解させて船体を貫き、大きな穴を空けた。

 魔導衣ローブが排熱のために狂ったように蒸気を噴出させ、シエラのシルエットをぼやけさせる。 横っ腹にポッカリと穴を空けられた戦艦が、一瞬遅れて大きな炎を噴出させながら落下し始めていた。


「あれは……」


 耳鳴りと銃声、そして爆発音でカオスと化した現実に打ちのめされつつも、リュウトはパンドラを抱えたままフラフラと立ち上がろうとして、しりもちをついた。

 炎に包まれた戦艦が地面に落下し、空気を震わせる。赤く染まる雲が、血のように見えていた。


 シエラがリュウトの方に走り込んできて、立ち上がるのに手を貸してくれた。その背後に先ほど見た戦闘艇が、ゆっくりと着地するのが見える。


「あれがさっき言ってた相棒の……」

「えぇ。さぁ早いところ、ここから脱出しましょう」


 まるでこちらをいざなうように、その船の後部ハッチが開いた。

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