転生騎士の輪廻賛歌

七時雨こうげい

第1章「デジック・アンセム」

第1話「オン・ユア・マークpart1」


 いつもと変わらぬ帰り道、赤い夕陽に照らされて、アスファルトに映る影が一つ。学校指定の制服に身を包んだ少年――神崎龍斗は例によって、石ころを蹴飛ばしながら帰途についていた。

風が静かに吹き、どこからかカラカラという鐘の音が聞こえる住宅街は、物寂しい雰囲気をはらんでいる。


 しかし、何百回も繰り返してきた石けりも、今日はなんだか違和感があった。蹴った石は思うように飛ばず、まるで龍斗を嫌うかのように、明後日の方向へと飛んでいくのだ。

 それ以外にも、学校での記憶が曖昧……というかほとんど無いに近かった。

 授業の内容、食べたであろう昼食のメニュー……学校で寝すぎただろうか?

 それに、心の中にはささくれたエッジのようなものを感じていた。得体のしれない不連続感、もともとこうあるべきではないものだ。


 しかし、結局その違和感の正体もわからぬまま、無駄に一日が過ぎていく。そのことに少々げんなりしつつ、龍斗は石を蹴って先に進んだ。

 左右には石レンガでできた塀が連なり、まっすぐの道は延々と続いて終わりが見えない。まるで龍斗の将来を暗示しているかのようで、ますます嫌気がさした。

 その時、蹴った石がころころと転がって誰かのつま先にあたって止まった。


「あっ、すいませ……」


 急いで謝ろうと顔を上げると、そこには白いローブを着た、一人の少女が立っていた。人影は顔を若干うつむかせ、足に当たった石を拾い上げた。

 そしてその拾い上げた石をためつすがめつすると、それを顔の前に掲げた。なんの変哲もない、薄汚れた灰色の小石だ。桃色の髪に、翡翠のような瞳が光る。

 顔が熱く感じられたのは、きっと気温のせいだけではないだろう。


「それでもあなたは、この石を蹴るの?」

「え?」


 予想外の質問に、龍斗の思考が一瞬止まる。何気なく繰り返していた動作、繰り返す日常。それが、この質問で壊れ始めた気がした。恐ろしくなって後ろを振り返ると、そこには『何も』なかった。

 全身を悪寒が駆け抜ける。何かがおかしい。だがこの違和感の、嫌な予感の正体がわからない。


「本当に、ごめんなさい」


 風洞から聞こえてくるような、複数のかすれた囁き声。予想とは遥かにかけ離れたその声音に、思わずぞっとする。

そしてその真意を確かめようとしたとき、自分の真上に何かがあることに気づいた。


一台のトラックが、龍斗に相対するように落下してきていた。

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