おやすみなさい
一子
おやすみなさい
学校を途中で抜け出して家に帰った。ガラクタだらけの部屋の真ん中。ゴミをどかして床に座る。部屋の電気は消したまま。窓の外から優しい光が差し込んでくるから。息もできない慌ただしく余裕のない生活の中、こうして少し暗い部屋で一人、ぼーっとしていられる時間はどこか幸せで、どこか寂しいものだった。だけどとても大切な時間だった。唯一、浅く、ゆっくり呼吸が出来る時間だったから。
報われない愛や、私を引きずったまま勝手に進んでいく時間。色んなものに追い回されて、かといって逆にこっちから追いかけてみようとしても届かなくて。私はただ何となく今をどうにか生き延びることに必死だった。そして生きることに疲れて休みが欲しいと思うのであった。
少し休めばダメ人間。だけど全てを頑張ろうとすればなんにも出来なくなると思った。だから出来ることを少しだけ頑張ろうと思った。しかし結局、やっぱり頑張れてはいなかった。
誰の目から見てもダメな奴だった。自分はこんなに必死に生きているのに、生きた心地もしないほど真面目に一生懸命にに生きているのに、周りは私をダメ人間と言うだけだった。
もともと低かった自己肯定感は更に低くなった。自信もないし才能も技術も賢い頭も持ってない。何一つ持っていないダメ人間は、もはやダメ人間であること以外に何一つ自分らしさというものが無いことに気がついた。しかし自分のダメなところにアイデンティティを感じてしまうようではもう人生終わったようなものだ。
私は全てがどうでも良くなって、全てを投げ出したいと思った。だけどそんな逃げ道はどこにもなくて、それを作ることも出来なくて、ただ周りからの冷たい視線を背中から感じ取るだけだった。
だから今は、この時間だけはと、この少し暗くて冷たい部屋に一人、誰かの目から逃れて、現実から逃れて、生きることから逃れて、静かに目をつむった。おやすみなさい。
もう少しすればまた起きなくてはいけないから。せめて今だけは、お休みなさい。
おやすみなさい 一子 @aaaaaaaaaaaaaaaaaa
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