雨色のハンカチ

新関眞宗

梅雨のハンカチ

 梅雨入り。俺はいつもより早く家を出発し、いつも乗る相棒すらも置いて、傘をさして駅へ向かう。途中、中に沢山の黒色蠢く素敵なバスに乗り、やっとの思いで駅に着いた。 


「これなら自転車のほうが良かったな」


 傘の水滴を払いつつ、改札をくぐる。


 青いハンカチで汗を拭きながら電車を待っていると、横に女子高生が並ぶ。制服の色から察するに、他校のようだ。俺は彼女の顔を見た。黒髪の流れるようなロングヘアに、彼女を知的に見せる黒色の眼鏡。顔は整っている。多分世間一般で言う美人というジャンルに括られるのだろう。見知った顔だった。いや、見知ったというと語弊があるかもしれない。俺たちは名前も知らなければ、どこに住んでいるかも知らない。だが、俺は未だに覚えていた。やっぱり彼女だ。声を掛けようか、いいや、やめておこう。あんな小さな出来事なんか、ちまちま覚えているのは俺ぐらいだろう。どうせ彼女と会うのは、たまたま偶然だし、声をかけたところで仕方ない。


  機械的なアラートがなり、鉄の塊が高速でやってきて、俺の前で止まり、入口を開く。幸い、下り電車のため上りほど人はいないが、座れる席はない。俺や彼女、その他の人々はただ無言で鉄の塊に吸い込まれるように乗車した。


 俺は外を見るのが好きなのでスマホはいじらず、外を見ていた。正確には彼女のことで頭がいっぱいなので、スマホなんかいじれるほどの余裕がなかった。


 外はただ緑が広がっていた。電車の中は人がかなり乗っているはずなのにとても静かだ。電車の軋む音が虚しく聞こえるだけだ。


 彼女は俺と少し離れた、席の前の手すりにつかまりながら、スマホを見ている。すると彼女がこちらを見てきた。目と目が対面する。俺は即座に目を逸らした。他人と目が合うと、なんとなく恥ずかし気持ちになるものだ。


 しかし、こつちを見てきたことから察するに、まだ俺のことを覚えているのだろうか。だが、それを実証する時間は俺にはなかった。彼女は電車から降りてしまった。俺はただ彼女の流れる黒髪を見ているしかなかった。傘の水滴が地面へと落ちる音がやけにはっきり聞こえた。結局、彼女に一言も話せなかった。そんな後悔と俺を乗せ、電車は流れて行った。


俺はあの日もあんな雨の中、電車に乗ろうとしていた。中学の頃、学校の創立記念日で、平日なのに休みという奇跡の日を存分に楽しむため、友達と遊園地に行こうという話になった。


 駅に着くと、友達はお腹が痛いとトイレに篭ってしまった。当時、スマホを持っていなかった俺は暇を持て余していた。しょうがないと俺は駅の中を散策することにした。すると、ロッカーとロッカーの間でもじもじしている生き物を見つけた。中学だろうか、高校生だろうか。毛布を頭に被る女性がうずくまっていた。普段の俺なら軽くスルーだが、その時の俺はやけに上機嫌で、一つ人助けでもしようと、普段なら考えないようなことをしようと、もじもじする生き物に声を掛けた。


「あのー?大丈夫ですか?」


 すると、彼女は毛布をガサガサさせ、しばらくすると、毛布から黒い眼鏡をかけた不機嫌な顔が現れた。


「なに?あんた誰?」


 見た目の割に性格きついなー。当然の反応である。彼女は不機嫌ではあるが、それでも顔が整っていることがわかった。そして目頭が赤かった。これは泣いて――


「泣いてない」


「いや、俺何も言ってないからな」


「顔に書いてあるんだもん」


  なんだこいつ、エスパーかなんかなのか。彼女はどデカいため息をつく。そうとう落ち込んで――


「落ち込んでない」


「だから何にも言ってないだろ!」


「顔に付いてる」


  俺は顔を確認するが、当然なにもない。その様子を見て彼女は笑う。


 本当にエスパーなのではないかと疑い始めると、彼女は口を開いた。


「私ね、人の心が読めるの」


 やっぱり、エスパーじゃ――


「そうね、エスパーに近いかも」


「……あのー?俺の心と会話するの止めてもらえますか?口があるんだから口を使おう、口を」


「はいはい、わかったわよ。誰かさん。でも私はエスパーなんか使えないわよ。何となく人の顔を見ると考えていることがわかるといった感じかな?」


「それがエスパーだと思うのですが」


「人間の心なんか読むのは簡単よ。目を見ればだいたいわかる。まあ、貴方がわかりやすいからこんなにもわかるんだけどね」


「なに、俺そんなに顔に出てる?」


 思わずまた顔に手をやるが、やはりなにもない。


「出てる、出てる。本当に分かりやすいな君は」


 彼女は何が可笑しいのか笑い始めた。……可笑しいのは俺の顔でしたね。


「……みんな貴方と同じならよかったのに」


 笑い終えた彼女は悲しそうにそう呟いた。


「どういうこと?」


「いいや、何でもない。それでどうして私に声をかけてきたのかな?もしかして私のこと好き?それともナンパ?」


「どうしてそうなるんだよ。そもそも、考えていることわかるならわざわざ聞くなよ」


 俺は肩でため息をする。


「あのね、この相手の目を見て判断するのは、もともと相手が嘘をついているかを判断することしかできないの。君の考えを当てたのは私の単なる勘」


「さいですか」


「で、なんで?」


「なんでだろうな。俺もよく分からない……ただ……」


  単純に気分だったのだが、それよりもロッカーの間の彼女は……。


「悲しそうだったから」


「なにそれ、超面白いんですけど。私のどこが悲しそうなの?」


  彼女はおちゃらけてそう言う。


「そうやって、無理に誤魔化そうとしている所がなんというか・・・・・・」痛々しいというか」


「……」


「実は君はどこか冷めていて、それをごまかすように笑っている・・・・・・そんな気がする。どんなに明るい言葉をならべても、全部嘘ぽく聞こえる。本当のことを言ってくれ。君はどうしてそこで蹲っていたの?」


 しばらくの沈黙。映画のワンシーンのように、俺と彼女の時だけが止まっている。周りでは忙しく行ったり来たりする実像のない群れが駆け抜けていく。


「なんだか逆に心を読まれちゃったね。ああそうだよ、私はここで泣いてた。悲しかった。寂しかった。だからここで泣いていれば誰か助けてくれるかなと思ったんだ。馬鹿みたいだよね?見ず知らずの人に助けを求めるなんて。そもそもそんなことをしてくれる馬鹿なんかいないのに」


「そんな馬鹿に、声をかけた俺も同じ馬鹿だよ」


「そういえばそうね。貴方も馬鹿よね」


 彼女は悲しそうに笑う。


「どうせ貴方は馬鹿だから、すぐ忘れるだろうから、私の話をしてもかまわないよね?」


「ああ」


 断る理由はない。




  次の日も雨だったので、俺は駅にいた。別に期待をしていたわけではないが、彼女は現れ、俺の隣に並んだ。だが、会話は起こらない。だって彼女と俺は他人なのだがら。他人に突然話しかけるやつなんかいない。そんなやつは馬鹿かなにかだ。そこに電車が空気を読んでか、大音量でやってくる。俺は相変わらず黙って電車に乗った。彼女も後ろから静かに続く。


  この電車は相変わらず静寂だ。電車の乗客は外を見たり、スマホを弄ったりと自分の世界に入り込んでいる。彼女は昨日と打って変わって、外をただ静かに見ていた。


 思えば電車とは不思議なもので、人間がこんなにいるのに、他人という言葉を用いることにより、他の人間を消してしまっているのだ。話もしない、協力もない、あるのは自分の世界だけ。お互いに小さな自分の世界という壁を作り、そこに引きこもっているのだ。それではいないと同義ではないか。


 もしかしたらこの乗客の中に、将来的に友達や恋人、はては一生を共にする人がいるかもしれないし、実は前にすれ違った人がいるかもしれない。それなのに我々は無視という行動しかとれない。それがなんだかもどかしくて、寂しいと思った。この電車には俺以外の人間はいないのだ。乗客は記号だ。そこらの目障りな広告と同じだ。いてもいなくてもどうでもいい。その中に混ざる大文字が彼女だから目立つだけだ。しかし、彼女も文字なだけで人間ではない。だから俺が話かける必要はない。


 嫌気がさした。これでは彼女に話かけないことを正当化しているようなものだ。そんなことわかっている。だけどやはり彼女と俺は赤の他人ではない他人なのだ。気がつくと、いつも彼女が降りる駅だった。




「私ね、好きな人がいたの」


 彼女は雨音のように呟く。外はまだ大雨で、ただひたすらに床を濡らす。友人は今頃どうしているのだろう。まだ、トイレの住人なのか、それとも俺を探しにダンジョンに潜っているのか。


「私、昔から勘が鋭いから人の考えていることがわかったの。だけど、それは必ずしも便利なものじゃなかった。


 ある日、仲のいいクラスメイトが私に対して悪い感情を抱いていることがわかったの。理由は多分、彼女が好きだった先輩に告られたうえ、それを振ったからだ。だから私、その子と距離を取ったの。そうしたらクラス中の女子から無視されるようになった。それから私はクラス替えをしても友達を作ることを諦めた。もう誰も信用できなかった。幸いこれ以上ひどくはならなかったけど、心にくるものはあったね」


 知らぬが仏というやつだろうか。人間は相手の考えていることがわからず、苦しむのに、知ってしまうと苦しむのだから救いようがない。 


 我々の本質は嘘つきだ。くだらない、どうしよもない話にすら、小さな嘘をつく。嫌いな人に正面切って「嫌い」なんていったところで仕方ないし、これからも付き合っていかなければならない。ようは嘘はコミニュケーションを円滑にするために必須なのだ。それなのに人間は嘘を許さない。だからその嘘すらわかってしまったら、会話はひどく興醒めだろう。何もかもが冷たく、虚しく聞こえる。


「それで、中学までそんな感じだったんだけど、中学でやたら構ってくる男子がいたの。そいつは私を何度も、何度も遊びに誘ったり、事あるごとに私に声を掛けてくれた。表面上はうっとうしくしていたけど、本当は嬉しかった。私はそこにいていいということが、私は認められていると、私はだんだん彼が好きになったけど、彼は違った。彼は正義感。弱い者を助けるというまるで先進国が後進国に見せる、上から目線の優しさだと気が付いた。だから私の恋心が冷めるのは、お湯が冷めるより早かった」




 次の日も、次の日も雨だったので、俺は電車に乗った。彼女はいつも同じ時間に、同じ電車の車両に乗った。だが、俺と彼女の間に会話は生まれなかった。聞こえるのは雨と電車の音。結局毎回何も話さず、電車を降りることしか出来なかった。天気予報によると梅雨明けは例年より早いらしい。俺は自転車で登校する快適な時間が帰ってくると喜ぶが、なんだかな。原因はわかっている。だが解決は多分できそうにない。俺はポケットに入っているピンクのハンカチをきつく握った。




「それからだんだん彼は私に近づくことが少なくなった。多分、私が避けているのを彼は感じ取ったみたいだった。でも、昨日、彼が久しぶりに一緒に帰らないかという話になった。そこで彼は私を好きだったと言った」


 好きだった。この言葉は愛の告白だが、愛の告白ではない。動詞で言うなら、愛の過去形。過去とは今とは切り離された言葉だ。


「彼は君のことが好き・・・・・・だったと」


「うん。私は本当に馬鹿だよ。私はエスパーなんかじゃない。なのにいつの間にか自分のことをエスパーだと思っていた」


 彼女の観測機から雨粒が大量に流れだす。その小さな雨音は、本物にかき消され、聞こえない。


「そっか、じゃあ俺と同じだ」


「どういうこと?」


「俺にも好きな人がいたんだ」




 もう梅雨が明けたはずなのに、空は相変わらずの模様だ。普段なら自転車で行くところを、俺は相変わらず電車に乗ろうとしている。いつもの時間に駅に着き、いつも通りに並び、彼女が横に並ぶ。いつも通りに電車が来て、俺たちは相変わらず静かに乗る。


 何か、きっかけがあれば。と偶然に縋る自分と、ただの他人だろう?そこまでする必要があるのか?と言い訳する自分が心の中でぶつかり合っている。


 次の駅で彼女は降りる。もう時間はない。多分、電車で通学するのは今日が最後だ。最後、最後なら……。




「俺もさ、好きな人がいてさ、本当はそいつと2人で遊園地に行って、告白しようとしてたんだ」


  彼女とは部活が一緒で、親が離婚して、友達にも裏切られて、苦しんでいた俺を彼女は優しく、相談にのってくれた。彼女とはただ話をするだけで、問題自体は別に解決するわけではない。だが、彼女と話すだけで俺は心が安らかになった。夜9時になると携帯を持っていなかった俺は、リビングに行き、固定電話の受話器で彼女との居心地のいい瞬間を味わった。距離は離れているのに、どこか近い。暖かい。他人を頼るという考えがなかった俺にとって初めて感じる心が温かい時間だった。彼女が唯一信用できる人だった。


 だが、昨日、彼女が体調が悪いと部活を早退する時に、俺は彼女が心配であり、なおかつ遊園地の件を言うために彼女を途中まで送ろうとした。彼女は最初、「ううん。全然大丈夫だから部活に行って」と言ったが、俺がどうしてもと言うと彼女は何も言わなくなった。


 彼女は普段より大人しく、顔も赤い。明らかに体調が悪かった。なのでなかなか言い出せず、校門まで来てしまった。


「家まで送るよ」


 俺が提案すると彼女は首を横に振る。


「どう見たって体調悪いだろ?無理すんな」


「どうして、どうしてそこまでするの……」


 どうして、どうしてだろうか。やはり好きだとしか――


「私、彼氏いるんだよ。私の彼氏でもないのにどうしてそこまでするの?義理はないでしょ?」


 ああ、そうか。そうだよな。こんないい女、彼氏がいて当たり前じゃないか。誰が彼氏なんだ。いいや、俺は知っている。知っていた。友達が彼女の彼氏について話しているのは聞いていた。俺の小学校の同級生だ。イケメンで、バスケ部のエースで、優しい。俺には勝てない相手。俺は知っていた。知っていて知らないふりをしていた。


  後のことは覚えていない。帰った俺は友達を遊園地に誘った。明日は平日で、休みの奇跡の日だから。


「そう。じゃあ同じだ私たち」


  彼女は目をこする。


「全然似てないよ」


 俺はお茶を濁す。


「そうだね、全然似てない。でもね、どうしてだろう。胸が苦しいの。涙が止まらないの」


  彼女の目は、擦っても擦っても雨水を垂れ流す。俺はそれを見て、とっさに青いハンカチで彼女の目を拭いた。


「……いきなり、なに、するのよ」


 彼女はもう最初に浮かべたような不機嫌な態度は出せないぐらい、泣きじゃくっている。青いハンカチが、より濃い青に変わる。


 すると、目の前に水が垂れた。外は雨が降っているので、アマ漏れしているのかと上を見るが、天井は無関心だった。じゃあこの水はどこから?


「なんで、あんたも、泣いてるのよ。馬鹿……」


 彼女もピンクのハンカチを俺の目に当てる。そうか、水源は俺だったのか。そう自覚すると、ようやく感情が追いついてきて、俺は悲しい気持ちになる。気がつけば、駅の端っこでお互い抱きしめながら泣いている変なカップルだと思われても仕方がない状態だった。


 そこから俺はあまり覚えていない。俺は気が済むと、泣き疲れて寝てしまった彼女を駅室へ送り、彼女が握った青いハンカチを残し、友達の待つトイレへと向かった。


「お前、どこにいたんだよ!?心配して、1回駅を見て回ったぞ!連絡もないし」


 携帯を見ると確かに、何件もの着信があった。


「いや、俺駅にいたから、よく捜せば、見つけ――」


「そういうのいいから。さっさと行こうぜ!待ってろ!遊園地!」


  俺は友達が走る背中を追いかけた。




  ホームに行くと、まさに電車が来たところだった。


「よーし、セーフ!」


「別にセーフでもなんでもないだろ」


 あと、1分か、2分ぐらいで出発するみたいだ。


 すると、この時間には珍しい制服を着た、学生がこっちに来た。黒髪でロングの眼鏡をかけた、見た目の割に性格がキツそうで、でも少し優しさを感じる人。


「ハンカチ、忘れていますよ」


 彼女はピンクのハンカチを差し出した。俺はそのハンカチを受け取ると、同時にドアが閉まる。


「これ俺のハンカチじゃ・・・・・・もう聞こえないか」


 ドア越しに映る、どんよりとした空と、駅。だが、彼女の笑顔はそれを全て打ち消すように眩しかった。


 別に彼女を励ましたわけでもない。ただ一緒に泣いただけ。だが、なにかが彼女を立ち直させた。


「反則だろ、その笑顔」


 俺はまた、叶わぬ恋をしてしまっていた。どうやら立ち直ったのは俺も一緒らしい。


「今の人、知り合い?」


 友達はそう聞いてきた。


「さあ、知らない人だよ」


 俺はそうとしか言えなかった。




 回想にふけるそんな俺を嘲笑うかのように電車は駅に着いた。彼女が降りる。すると、彼女は制服のポケットから何かを取り出した。すると、するりと青いハンカチが落ちた。彼女は気がついていない。


 今しかない。気づけば俺は行動に移していた。


 俺は青いハンカチを拾うと、電車から降り、彼女に声をかける。


「あの!ハンカチ落としましたよ」


  彼女はびっくりして、ポケットを探り、ないことを確認すると、すぐに顔を崩してクスクス笑い始めた。俺が好きな笑顔だ。


「ありがとうございます」


 彼女は俺から青いハンカチを受け取ると、俺に青いハンカチを差し出した。俺はすかさずポケットからピンクのハンカチを出し、彼女に渡す。


「これで完全に元通りね」


 彼女はそんなあたりまえのことを言う。


「元々、接点はなにもない他人ですからね」


 俺は淡々と言う。


「本当にそうかしら?」


 彼女はイタズラをする子供のような顔をする。雲は晴れ、大地は久しぶりの太陽と再会をする。


「そうですね、そう言われてしまうと……」


  俺は思い切って言ってみた。


「俺の名前は――」


 なにやってんだろ俺。これでは完全に遅刻だ。




 ハンカチをもらい、私はいつもの日常に戻る。すると、私の友達が声をかけてきた。


「おはよう!」


「おはよう」


  私は自然に挨拶をする。


「ねえ、さっき他校の男子と話していたでしょ?とても楽しそうだったねぇー?あの男子誰?もしかして中学時代の恋人とか?」


 私と彼はそんな関係ではない。少し前までは名前すら知らなかった。でも、そうだな。答えるとしたら……。


「ううん、ただの知らない人だよ」


 彼女は「えー!絶対嘘じゃん!教えてよ!友達でしょ?」と納得していないようだが、事実なのだから仕方がない。でもこれは嘘ではない。未来では嘘になっているかもしれないけど。








 

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