第18話 Each summer vacation

Rui 中学一年、夏期講習


カチカチ

シャーペンを鳴らす音


カチカチ


チラッ隣の席を見る


カチカチ


うるさいな


うるさくて試験に集中ができない





数学2位だったそうじゃないか


数学2位だったそうじゃないか





カチカチ


カチカチ





お前は、国語が苦手なんだから


お前は、国語が苦手なんだから


数学で点を稼げといつも言ってるだろうが





ダメだ、集中するんだ


チラッ

あと15分しかない 


このペースだとまずい


最後の設問までたどり着かない


ブツブツ

問題を読みあげる


ブツブツ


先生「片山、試験中だ静かにしろ」


Rui「はい、すみません」





設問が全く入ってこない


集中しろ、集中するんだ


いつも通りにやれば、こんなの楽勝だ


ブツブツ

俺が一番なんだ


俺が一番なんだ


クシャクシャ

頭をかきむしる


カチカチ


カチカチ


ブツブツ

カチカチうるさいんだよ


カチカチうるさいんだよ


カチカチ


カチカチ


カチカチ


バンッ

机を叩く


ガタッ

椅子から立ち上がる


シーン





Rui「だから、さっきからカチカチカチカチ


うるさいって言ってるだろうがっ」


一斉にRuiを見る


先生「片山、どうしたんだ


今日は様子がおかしいぞ具合でも悪いのか」


ハッ

我にかえる


「あっ、いえ、すみません」


「今日はもう帰ってもいいぞ」


「い、いえ大丈夫です」


「大丈夫だ、ただのクラス替えの試験だ」


ただのじゃない


俺からしたら、一大事なんだ


「いえ、まだできます」


「今日はもう帰りなさい疲れてるんだ


片山、最近少し頑張りすぎだ


親御さんには電話しておくから」


「それは困ります」


電話なんかされたら


また、親父に怒られる


「大丈夫だ、疲れてると伝えるだけだ


試験は、終わってるところまでで


今回は採点をする」


声を荒げる

「それじゃ困るんだっ


できてるところまでじゃ満点が取れない


俺は、国語が得意じゃないから


数学で点を稼ぐしかないんだっ」


「気持ちは分かった


でも今日は、終わりにしなさい」


ガタッ

椅子に崩れ落ちる


「皆は、少し待ってろ


戻ったら、試験を再開する


いいか、試験中だからウロウロするなよ」


「よし、片山行くぞ」


ガタッ

よろめきながら立ち上がる


スタスタスタ


ガラガラ





繁華街 


ele 中学一年、夏休み


RRRRR


RRRRR


kana「げーっ、ママから電話だぁ」


ele「出れば」


「いいよ、どうせ言われること


分かってるし」


「何て?」


「早く帰ってきなさい


毎日、どこフラフラしてるの


学校に行きなさい、勉強しなさい


どこで寝てるの?ご飯食べてるの?」 


RRRRR


RRRRR


ele「それってさ、愛されてる証拠じゃん」


kana「どこがぁ?うざいだけだよ」


「kanaのことが心配なんだよ」


「心配なんかしてくれなくていい


私は、自由になりたいの、自由がいいの」


「自由....か」


RRRRR


RRRRR


RRRRR


「あー、もううるさいから出るね


もしもしー?何?


今、友達と遊んでるんだから邪魔しないで」


ピッピッピッ

ele 携帯をいじる


「えー、昨日?友達の家その前も友達の家


名前?忘れちゃったっ、あはっ


女の子だったり男子の家もあるよ」


ピッピッ


「はいはい、分かってる


もうっ、いちいちうるさいな


いい?もう切って


今、友達と遊んでるから


えー、今日?帰るか分かんない


気が向いたら帰る


あっ、電話かかってきたから、もう切るね」


ピッ


kana「はー、うるさい」


ele「今日は、もう帰るか」


「えー、やだ夏休みなんだし


今からどっか行こうよ」


「俺も今日、親父たち帰ってくるし」


「eleの家は二人とも海外赴任中だもんね」


「まぁな」


「いいね、自由でeleは」


「そうか?」


「そうだよ、だって、何してたって


何にも言ってこないでしょ」


「あぁ、まぁ」


「kanaなんかお母さん、専業主婦だし


お父さんは、家庭第一で


仕事終わったら真っ先に帰ってくるから


毎日毎日、うるさいよー」


「そっか」


RRRRR


RRRRR


「ele、電話」


チラッ


「あぁ」


「ねー、誰から?」


「いや」


「あやしー、見せて」


「ただの友達だから」


RRRRR


RRRRR


「じゃあ、今出て」


「いいよ」


「じゃあ、見せて」


ガシッ

携帯を取り上げる


「あっ」


RRRRR


RRRRR


着信中


aki


「ちょっと、akiって誰なの?」


「同じクラスの子だよ」


「何でeleに連絡してくるの?」


「何でって友達だから」


「eleのいつも言う友達ってさ、何?」


RRRRR


RRRRR


「えっ」


「じゃあ、私はeleの一体何?」 


「何だよ、突然」


「いいから、答えて」


「大事な人のうちの一人」


「なに、それ」


RRRRR


RRRRR


「私が出る」


「出なくていいよ」


「やだ、出る」


ボタンを押そうとした瞬間


ele「あっ」


kana「止まった」


「kana、今日は帰ろう、俺も帰るから」


「うそ、今からakiって子と会うんでしょ」


「会わないよ」


「会う」


「会わない」


「駅まで送ってくから」


「いいっ、自分で帰れる」


「またな、また連絡する」


「ひどい、ほんとに送らないんだ」


「えっ、だっていいって言うから」


「もういいっ」





あー、また怒らせちゃった


俺の特技、女子を怒らせること


ピッピッ


「akiちゃん?ごめんね遅くなって


ううん、今着信気づいた


今日?空いてるよ


じゃあ、今から用意するから


1時間後でいい?後でね」


ピッ


そして、嘘つき


今日は、親は帰ってこない


長期出張中で次に顔を会わせるのは


恐らく冬休み


両親不在の間の俺の保護者代わりは


9個離れたいとこになる


ちなみにkanaちゃんはよく会うけど


彼女ではない


akiちゃんも彼女ではない


というより、俺に彼女は存在しない


だから、毎日その日の気分で転々としている


そんな俺にも一つだけルールがある


相手に告白されたり


相手が深い関係性を求めてきたら、即終了


俺から別れを告げる


何でかって


好きとかそういう感情俺には分からないから


やばっ、もうこんな時間


帰ってシャワー浴びるか





alan 小学校六年、夏


北海道地区


自宅のアトリエ


シャツシャツ

デッサンを描く


シャツシャツ


ササッ

消しゴムで消す


シュッシュッ

手で輪郭をぼかす


あっ、そうだ


閃く


タンタンタン

階段を降りる


母親「alan、どこ行くの?」


alan「近所の小川」


「何か必要なの?ママが行ってきてあげる」


「自分で選びたい」


「そうよね


分かった、ママも用意するから」


「いい、一人で行く」


「どうして?でも、ママ心配だから


大事な体に何かあったら」


「大丈夫、すぐに帰ってくるから」


「alan.....分かった、でも待って


今日暑いから、帽子被って


あと水筒とそれからお腹が空いた時の為に


alanの大好きなチョコレート


入れておくからね、それから」


「それで大丈夫だから」


「alan、ママのこと嫌い?」


「嫌いじゃないよ」


「なら、良かった


ママ、alanに嫌われたら生きていけない」


「行ってくるね」


「気をつけてね


何かあったら、電話するのよ」


帽子を被る


ガチャッ


スタスタスタスタ


俺が今から行く小川、歩いてたったの5分


心配するような距離じゃない


普通、小学校高学年ていったら


自転車に乗って友達の家に行ったり


塾に通ったり


行動範囲はもっと広いはず


はずって、俺にはよく分からない


俺の今いる環境はきっと普通じゃないから


学校には、ほとんど通っていない


その代わり、2日に一度家庭教師の人が来て


学校で習う勉強を教えてもらう


なぜ、こんな環境の中で


俺は、生きているのかと言うと



絵の才能が割と早い段階で開花したから


初めて俺が絵を描いたのは3才、らしい


俺自身は、記憶していない


なぜなら


別の魂が俺として経験したことだから


そして、幼稚園の時に俺は


絵のコンクールで優秀賞を受賞した


それが割と大きな賞だったもんだから


世間の目が一気に向けられるようになった


天才画家と呼ばれ


様々なテレビや雑誌などの取材を受け


その後もいくつかコンクールで賞をもらい


そして今に至る


俺の実家は割とお金に余裕があるのだと思う


父親は、大企業の社長として


朝から晩まで仕事一筋、いわゆる仕事人間だ


父親はとはほとんど顔を会わせない


代わりに母親がかいがいしく付き人のように


俺の面倒を朝から晩まで見ている


見てくれていると言った方が


いいのかもしれないが


たまに一人になりたくなる


俺が唯一、一人になれる時間


それは絵を描いてる時、それから


小川で過ごす時間


母親は、絵を描いている時だけは


絶対に部屋に入ってこない


俺の創作の邪魔をしてはいけないと


足音一つにすら気を遣って


小川へはいつも付いてくると言うが


俺が拒否をしている


だから、さっきの会話もはじめてではない


いくつかバリエーションはあるが


大体いつもあんな感じ


そして、そんな母親の口癖


alanは、ママのこと嫌い?


俺に拒否されたと感じると


決まってこの言葉を投げかけてくる


そんな母親に


決まって俺は、嫌いじゃないよと答える


好きだよとは言わない


だって、母親に好きだなんて恥ずかしい


それに、たまに母親から逃げたいと


思う時があるから


どうしてもその一言が出てこない


一人で小川に行く理由がもう一つ


それは





小学校6年の夏休み 


ミーン

セミの鳴き声


ミーン


ミーン


バシャッ


バシャッ


「冷たくて気持ちいい〜」


バシャ


バシャ


体育座りをしながらぼーっと眺める


今、何の時間かと言うと


夏休みのプール教室の時間


で、いつもの定位置に座っている


ちなみに水恐怖症な訳ではない


水は大丈夫なんだけど


プールに入ることができない





担任「よーし、グループごとに並んで


今から、合図がしたら順番に各自


クロールもしくはバタ足で


25メートル泳ぐように」


一斉「はーい」


あはは


押すなよ


押してないよ


私のグループは、どこ?


chiharu、こっちだよ


「並んだか〜」





なぜ、プールに入れないかというと


僕が、潔癖症だからだと思う


皆と同じようにできない時は


決まってこの事を理由に片付けている


何度か入ろうと試みたけれど


どうしても入れなかった


色んな人が入ったプールに入るなんて無理


この水は、ちゃんと清掃されたものなのか


とか、菌がいっぱいあるんじゃないかとか


想像がどんどんすごいことになってしまって


そうなると、もう体は動かない


だから、それを分かりやすく


相手に伝える為に


潔癖症という三文字の言葉に頼る


時には、重度のという言葉も加算して


僕の状態を表現する


ピピーッ

合図の笛が鳴る


バシャン

飛び込む


バタバタバタ


バタバタバタ




小川


チチチチチ

小鳥のさえずり


チチチチチ


ピョンピョン

ウサギが跳ねる音


ピョンピョン


カツカツ


カツカツ

リスが木の実を食べる音


さらさらさら

小川が流れる音


さらさらさら


寝転がって、空を見上げる


この瞬間だけは


この場所に住んでいて良かったと


心から思う


日本にはこんなにも豊かな四季があるんだと


この小川に来ると、実感する


平日の昼間は、特に格別


誰もいない


パサッパサッ

餌をばら撒く


鳥が寄ってくる


他の鳥も寄ってくる


俺が、この小川に来るもう一つの理由


会話をする為に


一人なのに、誰と?って感じだと思うけど


いつからか、俺は動物と


会話ができるようになっていた


生きている物全てには魂が宿っていて


感情というものを持っている


その感情を読み取ったり


テレパシーの様な感じで


動物とも会話をすることができる


じーっ

鳥がalanを見つめる


ごめんね、餌は今日はこれだけなんだよ


スルスルスル

リスが木から降りて近付いてくる


あっ、君はこの前の


手は、治った?


このリスは先日来た時に怪我をしていた


警戒心があって


なかなか手当てがきなかったんだけど


こうやって寝転がって


彼らの好きな木の実を同じように


食べるフリをしていたら


近づいてくるようになった


そっとリスに触れる


良かった、治ったみたいだね
















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