タマがあってもタマのこしっ!
海 豹吉(旧へぼあざらし)
第1話 そう気にすんな! チンやタ〇があったってデートできらぁ!
――俺は別に、こんなことをしたいとは思ってもいなかった。
小さな川にかかる、小さな橋の上。俺たちはそこで待ち合わせをすることになっていた。人けが少なく、静かないいところだ。そんなところで異性が待ち合わせをするとなれば、することは一つだろう。デートだ。
普通ならば喜ぶべき出来事なのだけれども、俺はこの事態を普通とは思えなくて、それどころか異常だとさえ思っていた。まぁ、それは相手からしてもそうなのだろうし、だとするとこの一日を何とか乗り切らなければならない俺からすれば、増して憂うつな気分になってしまう。
「……ふぅ」
その橋の上で待ち合わせをしている彼は深くため息を吐いた。少しだけ伸びたまっすぐな黒髪をいじりながら、橋の手すりに寄りかかっていた。見た目は高校生くらいだが、顔はそれよりも少し幼く見える。真っ黒なシャツにベージュのチノパンを履いていてラフな格好をしているが、整った格好と容姿からはところどころ育ちの良さがうかがえる。
すると、どこからか声がした。
「……お待たせしました! すいませんテイさん、遅くなってしまって!」
そう告げた彼女は息を切らしながら待ち合わせの場所にやってきた。
髪はあたたかな茶色で、さらさらとしている。肌は透き通るように白く、着ている純白のワンピースとなじんでしまうほどだ。そんな女の子が目の前に現れたら、普通ならドキリとしてしまうだろう。けれども、テイと呼ばれた彼は、彼女を見ても平然としていた。
「ミサさん、大丈夫ですよ。気にしないでください」
テイは何もなかったかの様に振る舞い、そうしてから柔らかく笑う。ミサと呼ばれた彼女は無関心な彼の態度を少し悲しく思った。
「じゃあ、行きましょうか」
テイはそう告げると振り返り、勝手に歩き出してしまった。ミサは慌てて、歩調を合わせて横並びに歩く。
しかし、どうしてそんなにそっけない態度をするのだろう。何かが悪かったのだろうか。などとミサは考えていると、
「……そのワンピース、素敵だと思います」
テイはそう告げてから、顔を赤くしていた。なんだ、一応気にはしてくれていたのかとミサは思う。そうすると、少しだけ自信がついた。
しばらく歩いてから、二人は人気のない喫茶店に入ることにした。そして互いにアイスコーヒーを選んで、それをゆっくり飲んでいた。
グラスのなかの氷が、暇をもて余したミサにより、ストローにいじられてカラカラと音をたてる。二人の間に流れる音はそれくらい。二人は苦笑いを浮かべながら沈黙をつらぬいていた。
ただ、こうしていたって何も始まらない。ミサは不意にテイヘこんな事を問いかける。
「でも、どうしてこんなことを始めたんですか?」
するとテイは答えづらそうに、苦いものを口に含んだような顔をして、か細い声でこう答えた。
「……父がうるさくて」
「そんなことをしなくても、テイさんなら素敵な方に
対してミサは不安そうに、テイを心配するように言葉をかける。けれども、テイは調子悪そうに答えるのであった。
「ハハハ……。でも、そうはいかなくてね」
――まぁ、どうせこんなことする目的は金しかないのだろうけれど。それに、俺はこんな付き合いなんて認めやしない。親父がいくら困っていたとしても、俺には関係ない。とっとと切り上げて帰りたいものだ。
「そもそも、ボクとデートしてくれる人を公募するなんておかしな話なんです。そうでもしなくちゃならないまで、何もしていない、何もできない、ボクが……」
テイの言葉は途中で遮られる。不意に、ミサが身を乗り出してテイの手を掴む。必死そうな
「そんなことないですよ……! テイさんは素敵だと思います」
――っても、まぁ、そんなことあるんだろうな。
『大企業の息子と一日デートするだけで百万円。気が合えば末永くお付き合い。住まいも提供されて幸せに暮らせます』
なーんて感じの公募がインターネットに出されているんだから。まぁ、実際そうだし。奥手で、そわそわしていて、喋ってくれるわけでもなく、なんだか不自然極まりない。俺から見ても彼はちょっと弱々しく映る。
あぁ、こんなふざけた企画に俺を売った親父をタコ殴りにしたい。早く帰りたい。
だってそうだろう。俺を女装させてまでお金を手に入れようだなんてふざけた話なんだから。
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