アルケミストの初恋 人間関係、実験中止!
柳なつき
結社に追われる
――そして、どうしてこういうことになったのか。
「走ってください!
「わかってる、先輩!」
天才錬金術師の、
先輩とふたり、真っ昼間の街を駆ける。
背後で響くのは、連続した爆発音。
僕は路地裏の入り口を発見して、直進しようとしている雨音先輩の腕を、強く引いた。
先輩はなんですかと言いたそうに
先輩と僕はおなじタイミングで表情を引き締め、うん、と頷きあって追っ手を振り向く。
中世の騎士の鎧と宇宙防具服を足して二で割ったような、黒光りする
手に持つものは、セイバー型の武器ではなく。
各々が各々で開発した、爆弾や劇薬を手にしている――おそらくは苦心して開発したであろう成果が、……組織の高校生、ひとり、追いかけるためだけに、ばんばかばんと遠慮も容赦もなく、使われていく。
彼らは、「結社」の人たちだ。
思わず、感想が漏れた。
「なんか、切ないっすね。あんなにばんばかばんばか、バカみたいに使って。一生懸命、開発しただろうに」
「私も、そう思います。錬金術ってほんらいそういうののためじゃ、ないのに!」
先頭を切る人たちが爆弾を投げてきた。
数秒前に僕たちがいたところで、爆発が起こる。
轟音と火花をわかりやすく散らして。ピンクのねばねばの液体を撒き散らかして。紫色の毒の煙を巻き上げる。
「なんっすか、あれ!」
「たぶん最初のは鉱物顔料を薔薇の触媒で物騒化したもの。次のやつは
「想像以上にガチな回答をありがとう! うん、よくわからないけど! 爆弾の種類って、めっちゃいっぱいあるんすね!」
「あとで、いくらでも教えてあげますよ! そんなの! 錬金術で開発され公に認められている爆弾は、ええと、ええと、――
「あー、さすが天才! できれば、こんな生か死かみたいな状況ではなく、平和に現代化学の補習で教わりたかった……」
僕は先輩の腕を握りなおし、フェイントで直進した。引っかかった部隊の人たちは、爆弾を投げながら勢いよく直進する。
先輩の身を、ふわっと押し込むように路地裏の入り口に入れた。僕自身も身を一気に翻して、路地裏に入った。
自分たちの社会に侵入者を認めた野良猫たちが一気に騒ぐ。
ゴミ箱もいまは申し訳ないが蹴散らしていくしかなくて。
路地裏を、直進する――って、ああ!
「行き止まりだ!」
無慈悲なまでに高いコンクリートの壁が、僕たちの進みを阻む。
そんな、まさか、……まさか。
でも、それだって、なんだって。
先輩を、組織には渡さない。
組織には、帰さない――。
背後からはドドドと部隊が迫る。
雨音先輩はキッと睨むように振り返った。
白衣の裾が、スカートみたいにひらりと翻る。
先輩は、僕の腕を振りほどいた。
白衣を風に揺らしながら。
先輩は、なにか得体の知れない迫力で、ゆらめいている。
「――仕方ないです。いいですか。若葉くん。よおく、見ててください。錬金術っていうのは、こういうふうに使うんですよ。きっと現代化学の勉強になりますから。……爆発でくるなら。爆発で返してやる」
先輩は、両手を白衣のポケットから抜き出した。一瞬だけ見えたのは、白く美しく輝くバスケットボールほどの大きさの、球体――巨大な真珠が弾けた瞬間、あたりは、――殲滅的なまでの白い光に、包まれた。
僕は、目をつむる。
――どうして、こんなことになっている?
それは、
先輩の好きなひとには、彼女ができた。
それで決定的に、もう言い逃れようもなく、失恋をした。
そして、
めぐり、めぐって。
影響が、影響しあって。
わが校誇る百年に一度と言われる天才錬金術師の
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