アルケミストの初恋 人間関係、実験中止!

柳なつき

結社に追われる

 ――そして、どうしてこういうことになったのか。




「走ってください! 若葉わかばくん!」

「わかってる、先輩!」



 天才錬金術師の、雨音あまね先輩は叫ぶ。僕はともに走る先輩の手を、しっかりと掴む。



 先輩とふたり、真っ昼間の街を駆ける。

 背後で響くのは、連続した爆発音。


 僕は路地裏の入り口を発見して、直進しようとしている雨音先輩の腕を、強く引いた。


 先輩はなんですかと言いたそうに水縁みずふち眼鏡の奥の目を鋭く向けてきたけれど、僕が空いているほうの右腕をまっすぐに伸ばして路地を示していることがわかると、同意を見せる瞳でうなずいた。


 先輩と僕はおなじタイミングで表情を引き締め、うん、と頷きあって追っ手を振り向く。



 中世の騎士の鎧と宇宙防具服を足して二で割ったような、黒光りする錬金防具れんきんぼうぐに身を固めている人たち。頭もしっかり装備しているから、素顔を見ることさえ叶わない。

 手に持つものは、セイバー型の武器ではなく。

 各々が各々で開発した、爆弾や劇薬を手にしている――おそらくは苦心して開発したであろう成果が、……組織の高校生、ひとり、追いかけるためだけに、ばんばかばんと遠慮も容赦もなく、使われていく。



 彼らは、「結社」の人たちだ。



 思わず、感想が漏れた。



「なんか、切ないっすね。あんなにばんばかばんばか、バカみたいに使って。一生懸命、開発しただろうに」

「私も、そう思います。錬金術ってほんらいそういうののためじゃ、ないのに!」



 先頭を切る人たちが爆弾を投げてきた。

 数秒前に僕たちがいたところで、爆発が起こる。


 轟音と火花をわかりやすく散らして。ピンクのねばねばの液体を撒き散らかして。紫色の毒の煙を巻き上げる。


「なんっすか、あれ!」

「たぶん最初のは鉱物顔料を薔薇の触媒で物騒化したもの。次のやつはさそりの恋愛を利用した粘着致死性の蜘蛛型毒。最後のは典型的な天球暗幕の散布ですね!」

「想像以上にガチな回答をありがとう! うん、よくわからないけど! 爆弾の種類って、めっちゃいっぱいあるんすね!」

「あとで、いくらでも教えてあげますよ! そんなの! 錬金術で開発され公に認められている爆弾は、ええと、ええと、――昨日さくじつ未明の申請許可分も合わせて、千百五十七種類!」

「あー、さすが天才!  できれば、こんな生か死かみたいな状況ではなく、平和に現代化学の補習で教わりたかった……」



 僕は先輩の腕を握りなおし、フェイントで直進した。引っかかった部隊の人たちは、爆弾を投げながら勢いよく直進する。

 先輩の身を、ふわっと押し込むように路地裏の入り口に入れた。僕自身も身を一気に翻して、路地裏に入った。




 自分たちの社会に侵入者を認めた野良猫たちが一気に騒ぐ。

 ゴミ箱もいまは申し訳ないが蹴散らしていくしかなくて。

 路地裏を、直進する――って、ああ!



「行き止まりだ!」



 無慈悲なまでに高いコンクリートの壁が、僕たちの進みを阻む。



 そんな、まさか、……まさか。

 でも、それだって、なんだって。


 先輩を、組織には渡さない。

 組織には、帰さない――。


 背後からはドドドと部隊が迫る。

 雨音先輩はキッと睨むように振り返った。

 白衣の裾が、スカートみたいにひらりと翻る。



 先輩は、僕の腕を振りほどいた。



 白衣を風に揺らしながら。

 先輩は、なにか得体の知れない迫力で、ゆらめいている。



「――仕方ないです。いいですか。若葉くん。よおく、見ててください。錬金術っていうのは、こういうふうに使うんですよ。きっと現代化学の勉強になりますから。……爆発でくるなら。爆発で返してやる」



 先輩は、両手を白衣のポケットから抜き出した。一瞬だけ見えたのは、白く美しく輝くバスケットボールほどの大きさの、球体――巨大な真珠が弾けた瞬間、あたりは、――殲滅的なまでの白い光に、包まれた。





 僕は、目をつむる。






 ――どうして、こんなことになっている?

 それは、



 先輩の好きなひとには、彼女ができた。

 それで決定的に、もう言い逃れようもなく、失恋をした。

 そして、


 めぐり、めぐって。

 影響が、影響しあって。


 わが校誇る百年に一度と言われる天才錬金術師の天宮あまみや雨音先輩と、未来予知能力者の、たまごのたまごの、そのまたたまごの僕、木守きもり若葉は、錬金術師結社に、白昼堂々、追われる羽目になっている。

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