第5話 真実の告白
何度、精を吐き出したのか覚えていない。記憶があいまいだ。
しかし、その都度由美は喜んで応えてくれた。
これで、俺たちは本当の恋人同士になった。そして将来は結婚するんだ。明確な根拠はなかったものの、俺はそう確信していた。
「シャワー浴びてくるね」
ベッドから降り、浴室へと向かう由美。その後ろ姿を見てやはり美しいと再確認した。戻ってきた由美はなんと制服を着ていた。
「どうしたんだ?」
「ごめんなさい。大事な話があるの。明彦も着替えて欲しい」
俺は由美の言葉に頷き浴室へと向かう。シャワーを浴び体を洗った。そして俺も制服へ着替えた。何故か正装しないといけない気がしたからだ。そしてダイニングのテーブルに着く。由美は俺の正面へ座った。
「夜遅くにごめん。本当に大事な話なんだ」
「うん」
「昔の事、覚えてる?」
「いつ頃の事?」
「小学生の頃だよ。何時も三人で遊んでたでしょ」
俺は頷いた。
小学四年生までは何時も三人で遊んでいた。近所で同年代は三人。俺と
「ごめん。三人で遊んでいた記憶はあるんだけど、うまく思い出せないんだ」
「知ってる」
「え? 俺が忘れた事を知ってるの?」
「そう。だって、そうなるように私が神様にお願いしたんだ」
よくわからない返事だった。
それは俺の記憶を、幼馴染に関する記憶を消したって事なのか。
「俺の記憶を消したのか?」
「神様がね。私、明彦があんなになってしまって見てられなかったんだ」
俺があんなになった?
どういう事なのだろうか。
俺は事実を知りたいと思った。何故、もう一人の幼馴染が思い出せないのか、その理由も知りたかった。
「今から本当の事を話します。辛いかもしれないけど我慢してね」
俺は頷いた。俺の眼を見つめ由美が話し始めた。
「私の本当の名前は
その一言で、俺は全て思い出した。
俺たち三人はいつも一緒に遊んでいた。俺と穂香と唯の三人だ。田舎なので虫や魚を捕まえたり、タケノコを掘ったりドングリを拾ったり、自然の中で鷹揚に育ったと思う。唯はやや体が弱く、時々熱を出しては学校を休んでいた。俺はその度にプリントやら給食のパンやらを届けていた。
そしてある時、唯の病気が悪化したので都会の大学病院へと入院することが決まった。彼女が都会へと出発する時、俺は見送りに行った。
後から聞いた唯の病名は白血病だった。
俺は親にせがんで何回か大学病院へお見舞いに行った。最後にお見舞いに行った時は容体が悪化しているとの事で面会はできなかった。その日の夜、唯は亡くなった。
俺は泣いた。それこそ一晩じゅう泣いていた。その翌日もずっと泣いていた。葬儀の時、俺は泣かなかった。周りの人たちが涙を流していたのだけれども、俺の涙はもう枯れてしまっていた。俺は抜け殻のような状態になってしまっていたのだと思う。
「あの時の明彦は危険な状態だったの。いつ死んでもおかしくなかった」
「そうだったのか?」
「ええそうよ。穂香はね。そんな貴方を物凄く心配してたの」
「穂香が?」
由美、いや唯が頷いた。
「私ね、穂香に何回も叱られちゃったんだ」
「え?」
「お墓相手だけどね。『貴方が死んじゃったから明彦が抜け殻になって死んじゃうじゃないの。明彦の為に生き返って来なさい!』って。無茶苦茶だよね」
「確かに無茶苦茶だ」
「それでね。私は神様にお願いしたの。明彦を助けて下さいって」
「うん」
「そしたらね。神様が言ったの。私が大好きだった男の子が私の事を忘れちゃうけどそれでもいいのかって」
ドキッとした。唯は俺の事が大好きだったんだ。そして俺も唯の事が好きだった。
「私は神様に言いました。それでもいいから明彦を助けて下さいって。私はどうなってもいいから明彦を幸せにしてくださいって」
そうだったんだ。そう言われてみると、色々納得がいく。
俺は小学校五年と六年の頃の記憶が曖昧だった。唯を忘れる事で通常の生活ができるようになったのだろう。
「ごめん。唯。俺の為に辛い目に会わせちゃって」
「そんな事ないよ。だって、明彦は私の事忘れてもちゃんと覚えてたから」
そう言われて気が付いた。俺は亡くなった彼女、
「俺、自覚無しで唯の姿を再現してたのか。あのまま成長したらこんな感じになっていただろうって」
「うん、そうだよ。この
目に涙を貯めて唯が話している。
「じゃあ。あの、停電した時に?」
「そうです。リアルGFのデータを使って実体化しました。おかげさまで、PC内部の方は初期状態になりました」
どういう理屈なのか分からないけれども、そう考えれば辻褄が合う。では、学校に通っていたという皆の記憶はどうなんだろうか。
「それはね。神様が便宜を図ってくれたんだ。私がすんなり入り込めるようにって。でもそれも今日でお終い。明日からは元に戻ってるはずよ」
「ちょっと待って。それって延長できないのかな。俺はもっと唯と一緒にいたい」
自分でも情けない懇願だと思った。しかし、俺の本音でもある。唯と一緒に暮らしたい。そして結婚したいと思っているのは事実なんだ。
「ごめんなさい。それはできないの。もうすぐリアルGFでデータ復旧が完了するのよ。だから私は実体化できなくなる」
「そんな……」
「わがままでごめんなさい。でも、本当に嬉しかったんだ。アプリの中で私を再現してくれていた。そして実体化できたら本当に可愛がってくれて愛してくれた。もう、思い残すことはないわ」
俺は言葉に詰まる。涙があふれてきた。
「本当にごめんなさい。私の我がままで貴方の心をかき乱してしまったかもしれない」
「そんなことはない……」
やっとの事でそれだけが言えた。唯が謝ることなど何もない。俺自身彼女には感謝の気持ちで一杯なのだ。
「もうそろそろだわ。リアルGFのSEが相当頑張ってくれちゃったみたいなの。もうデータは復旧しました」
唯は俺の手を握る。
そして段々と透明になっていく。消えていく。
「明彦。ありがとう。お迎えが来たみたいだからもう行くね。
それだけ言って、唯は本当に消えてしまった。
俺は夜通し泣き続けた。ほとんど寝ずに朝を迎えた。
明るくなってからPCを起動しメールソフトを開いてみた。するとリアルGFの運営からメールが届いていた。不具合を詫びる言葉と、データの復旧が完了したことが記載されていた。俺は「ありがとうございました。お手数をおかけしました」と返信しておいた。リアルGFを起動すると以前のように嶋名由美が笑顔で応対してくれた。完全にデータは復旧していたようだ。これでPCの中の嶋名由美は復帰したが、リアルでは島田唯に会えなくなったことが確定したのだ。
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