038.声にならない声

セラもルシアンも私に何もしなくて良いって言うんですよ。実際私に出来る事は殆どなく、迂闊に動けば迷惑でしか無いって言うこの状況……。

……凹む。


歌はね、歌ってます。

毎日欠かさず。

お陰サマで至星宮の周りは自然が溢れてます、えぇ。心なしか周囲の森が深くなったような気もスル。

クロエがよく分からない草を植えてて、翌日ロイエが刈り込んで燃やしたと言うので、またしてもロクでも無い事をしたんだと思われる。彼女のあの暴走気質は誰に似たんだ? ベネフィスにもロイエにも似てないぞ? レシャンテも全然違うし……。


歌うしか出来ない……いや、これはこれで大事な事なんだって分かってますよ? だからこそ狙われてるんですからね。狙われてるのは別の理由だけど。

前世で読み漁ったラノベの主人公達は、知識も豊富だったり、行動力もあったり、さすが!と言わんばかりの八面六臂の大活躍だった訳です。

でもね、転生特典なんかなくって、なけなしの知識だって自分だけでは実現出来なくて。

ちょっと外に出れば被害に遭う事の方が多くて。

もう、役立たない、自分!!


八代目女皇は同じ転生者で、凄かったらしいのに。

うっうっ……役立たず過ぎてそのうちみんなに捨てられたらどうしよう。迷惑しかかけてないし!


そんな私は今、頰をムニムニされている。ルシアンに。

役立たずな私としてはもう、頰ぐらいなら好きにしてと言う感じデスヨ。

イイヨイイヨ、日夜働きまくりなルシアンの望みならば頰ぐらい差し出そうではないの。


「嫌がらないの?」


言いながらも頰を触りまくりのルシアンである。どうでも良いけど、私の頰の何がそんなに気に入ったのだろうか?


「お好きになさって下さいませ」


ルシアンの目がキラッと光った気がした。


「頰ですよ? 頰をお好きになさって、と言う意味ですよ?」


ふふ、とルシアンは笑うと、勿論、と答えた。

……絶対ロクでもない事を考えてた気がする。


「ルシアンはどうしてそうなのですか?」


「ミチルを構いたい」


休ませてあげたいと思ったけど、ロクでもない事するんだったら仕事してくれたまへ。


「それにミチルもいけないと思います」


なして私の所為?


ルシアンは頰にキスしてきた。

え? 当然お膝の上ですよ?


「可愛過ぎる」


「悪いのはルシアンの目では?」


「目は良い方です」


じゃあ頭なのか趣味なのか……。

そんな事を考えていたら頰を噛まれた。


「また、変な事を考えていたでしょう」


何故分かる。


「何故分かるのですか? そろそろ種明かしをして下さいませ」


笑って答えてくれようとしないルシアンの頰を両手で掴む。楽しそうに私の手を掴んで、手のひらにキスをしてくる。ちょ、くすぐったいから。


「教えて欲しいの?」


「教えて欲しいです」


是非に。

例え答えが予想通りエスパーでした、だったとしても。


「知ったらきっと、ミチルは悶絶すると思うけど」


悶絶?! マジで?!

悶絶ってさ、最終的に気絶しちゃうんだけど?!


「それでも、知りたい?」


そう言って微笑むルシアンに、あっさり日和ひよった私は首を横に振った。


「ケッコウデス」


ルシアンの頰から手を離して視線を逸らす。

今度は私の頰がルシアンに掴まれた。ナンデヨ。


「教えてあげますよ」


「悶絶するような事、聞きたくありませんよ?」


何故急に教える気に?! しかも押し付け気味!


「じゃあ、止めておきましょう。その方が可愛いミチルをこれからも堪能出来るし」


?!

どういうこと?!

何この駆け引き?!


ハテナが浮かんでる私を見て、楽しそうにしているルシアン。

……気になる。けど、聞けば悶絶ものらしい。

ルシアンは嘘は吐かぬのだ。と言う事は、聞いたら私は悶絶するのだ。気にはなるけど聞いてはあかん奴なのだ。

…………悶絶するような事を私はシテルって事ですか?!


「ルシアンはエスパーです。それで良いデス」


「エスパー?」


「超能力の持ち主と言う事デス」


ふぅん、と言うルシアンは、エスパーについてはどうでも良いらしい。


「ねぇ、ミチル」


……急に声が甘くなった。

アヤシイ雲行きデス。


耳にキスされる。

ゾワゾワする! ゾワゾワするから、ソレ!

逃げようとする私の腰は、気が付けばがっちりと両腕でロックされている。


「先日の、いつでも私を慰めてくれると言う話ですが」


「あ、あれは、そう言う意味ではありません! お義父様の心無い言葉で傷付いたルシアンの心を」


全部言う前にキスをされる。

わざとだ、絶対わざとだ!


「癒してくれるんでしょう?」


至近距離の色気光線が刺さります! 刺さっております! なんだったら貫通してますとも。

しかも声まで色気が出まくりです。耳まで溶けます!

顔が! 熱い! ヤバイ! 危険が危ない!


「ミチル、キスして」


いつも思うんだけどね? こういうのって女の人が誘惑する時に言わない? なんでルシアンが言うかな?!

いや、だからって私からはなかなか言えないから、ルシアンが言うしかないのか?!


そっとキスをする。直ぐに頭ごと抱え込まれてキスをされてしまう。噛み付くように。深いキス。

いつも思う。

──食べられてしまう、って。

慰めてとか癒してとか言うけど、このヒトは基本的に野獣ナノデス。まぁ、ミチル限定で肉食とか言ってたケド。知ってますケド。

この前発覚したんですけどね。私は肉食女子になる必要はなかったんですよ。病んでるルシアン様はですね、捕食者なんです、えぇ。

ミチルは、全部食べられてしまうのですよ。


──愛されてるって実感あるでしょう?


前にセラに聞かれた言葉が頭にぎる。


食べられてる実感はめっちゃあります。

頭のてっぺんから、足の爪先まで。

私の全てはいつもいつも、ルシアンに食べられてしまう。なくなってしまうんじゃないかって程に。


ルシアンの瞳に私が映る。

……美味しそうな蜂蜜色。

手を伸ばして首に腕を回す。近付いた瞼にキスをして、目尻を舐めて瞼を舐めた。さすがに目は舐められないケド。

私を見るルシアンの目が細められて、ぞくりとした。きっと、今のでSwitch onしました、ワタシ。


「そんな事をされたら、途中で、止めないよ……?」


このイケメンの発するワードは全て危険だ!


「止まった事なんて、ないではありませんか……」


私の言葉にルシアンは笑った。


「確かに。ミチルの事で我慢出来た事なんて、ないかも知れない」


する気も無いけど、と言って仄暗い笑みを浮かべるルシアンに色気を感じる私は、大分ヤバイと思う。

末期! そう、末期です!


「そんな事を言うのだから、我慢しなくて良いと言う事でしょう?」


啄むようにキスされる。


「駄目ですわ」


予想外だったのか、ルシアンは私の表情から考えてる事を推し量ろうとする。


「当てて下さいませ」


ルシアンはいつもいつも、私の考えてる事を読める訳ではない。エスパーじゃないんだから当たり前だけど。

なんとなくだけど、さっきのやりとりで心当たりがあって。


声に出さずに言ってみる。

途端にルシアンは口元に笑みを浮かべた。


「残念。気付いてしまった?」


「えぇ」


「でも、今のは、良いですね」


ルシアンは私を抱えたまま立ち上がり、寝室に向かう。

ベッドに下ろされて、そのままルシアンは私にのしかかるなり、キスをする。

甘いキス。


「……ミチル、私に触れて、キスをして」


ルシアンの首に腕を回して私からもキスをする。


「私を食べて」


耳元でそれは、反則。

そんな事を言われたら脳が溶ける。


「ルシアンが私を食べるの間違いでは?」


耳を食べられる。


「当然、私も食べます。でも、ミチルにも食べられたい。何処でも良いから食べられたい」


また、そうやって……!

ルシアンは言い方がいつも卑猥だと思うのよ!

あかんと思うのよ!


……あー、でもワタシタチ夫婦でした。良いのかな、夫婦だし。良いの……カモ……? え? ホント?


触れた指にキスをする。唇だけで噛む振りをする。


キスをしながら、ルシアンの服の釦を外していく。ついでに言えば、私のワンピースの釦はもう全部外されてるんですよ。何というはやわざ……。


首筋を軽く噛まれる。ゔ……吸血鬼ヴァンパイア……嘘です。キスマークです、えぇ。

ルシアンの首から肩を、なぞるように撫でる。鍛えられた身体は、彫刻のように引き締まって美しい。

大きな手が、私に触れる。

私も触れる。


「……ルシアン……」


私のルシアン。

私だけの……。


部屋の空気は冷えているのに、冷えてるから余計に、ルシアンの手が、肌と肌が触れ合う部分が温かく感じられる。

熱が……集まる。


何度もルシアンの名前を呼ぶ。

日頃、言葉攻めをするルシアンは、ここでは寡黙だ。

吐息と、私の声と……きしむ音。

ルシアンのかく汗と、私に注がれ続ける視線に目眩がする。その凄まじい程の色気に、あてられそうになる。


「ルシアン……ッ」


答えはない。言葉では答えてはくれない。

恋人繋ぎされる手が、重ねられる唇が、返事。


食べられる。

食べる。

アァ、タベラレテシマウ。




全部、食べて。

全部、全部食べて。


私を愛して──。

愛して、愛して、愛されたい。

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