偽造<レジスタンスのある青年の視点>

オレは四男坊で、親から土地をもらえる訳でもないし、それならば恩のあるスタンキナ様のお役に立ちたいと、レジスタンスに加わった。親もそれには反対しなかった。


久々にお会いしたスタンキナ様は、死んだ魚のような目をされていた。苦しそうで、お辛そうなのに、オレ達の事をいつも気にかけてくれた。理不尽にも領地を没収されてしまって、ご自身が一番お辛いだろうに、元領民のオレ達を案じてくれた。

新しい領主は酷い事をしないかとか、そんな事ばかりだ。


少し前に、やけに存在感のある男が加わった。

黒髪を後ろでしばっていて、立ち居振る舞い、言葉遣いからして、貴族なのは明らかだった。

驚いたのは、スタンキナ様のご息女であるリュドミラ様が、その男の世話をしている事だ。

こんな事はしなくて良いのだよ、と男が言っても、リュドミラ様は笑顔を浮かべて、止めない。

この男が加わってから、スタンキナ様の目が変わった。

以前のスタンキナ様が戻って来たみたいで、オレ達は喜んだ。

…でも、この男は何者なんだろう?


「あんた、何者なんだ?」


意を決して本人に尋ねてみる事にした。

考える事は性に合わない。


「ん? 私かい?」


「そうだよ。加わったのはいいけど、作戦には参加しないし、お貴族様みたいだし」


ふふふ、と男は笑う。


「魔王だよ」


「マオー?」


変な名前だ。


「可愛い娘にそう呼ばれているんだ。だから、私の事は魔王と呼んでくれると嬉しいな」


「? …分かった…マオーだな?」


マオーと呼んでいたらスタンキナ様が渋い顔をしていた。


「さて、魔王らしくいこうかな」


「シャレにならん…」


いつもにこにこと笑顔のマオーと、渋い顔をするスタンキナ様だけど、仲は悪くなさそうだ。




今日はスタンキナ様の命令で、とある貴族の領地にある屋敷を襲撃する事になっている。


木の陰に隠れて屋敷の様子を伺う。

物々しい警備が屋敷の外に配されている。

それだけで、この屋敷が普通じゃない事が分かる。


今回の作戦のリーダーは、マオーの側にいる、キレイな顔の男だ。

水色の髪、水色の瞳の、美丈夫。フィンと言うらしい。

女どもはマオーとこのフィンに夢中だ。

二人とも貴族然とした振る舞いだし、美丈夫だし。

もし、目に止まれば貴族の妾になれるかも知れないから、そりゃ必死にもなるだろう。


ふふふ、とフィンは笑った。


「お前、何が楽しいんだよ」


思い出し笑いか?


「皆さんがこの屋敷である物を見て、どんな反応をするのかなぁ、と考えると楽しいですね」


「はぁ?」


なんだソレ?


「これまでの価値観が一変しますよ、きっと。

楽しみにして下さい」


「…訳分かんねぇよ」


フィンは笑った。


「お楽しみ、ですよ」


フィンの号令を受けて屋敷に突入する。


細っこい身体のフィンは、さぞかし弱いんだろうと思っていたら、見た事もないような、細身の剣を手に、屋敷の警備をしていた傭兵達をなぎ倒して行った。


フィンが剣を振るう度に、フィンの倍はあろうっていうガタイの良い奴らがバタバタと倒されていく。


新参者に負けるな! とハッパをかけて、オレ達も必死の思いで傭兵を倒していく。


あらかた傭兵を倒した後、僅かしか息を切らしてないフィンに、オレ達は驚いた。

結構な大立ち回りをしたってのに、なんなんだ、コイツ…?!


「兵ではない、実際に作業に加わってる人間は拘束して下さい」


言われるがままに、屋敷の中にいた人間を捕まえていく。


フィンの後を付いて、一番奥の部屋に入ると、巨大な機械が動いていた。

ガコン、と大きく震えた機械が吐き出したのは、金貨だった。

先々代の皇帝の肖像が刻まれている。


「コレ…金貨じゃねぇか…」


学のないオレ達でも分かる。

金貨が、こんな伯爵家の屋敷で作られる筈がないって事ぐらい。

フィンは出来たばかりの金貨を手にすると、何だかよく分からん物を取り出した。


「金の含有率が帝国が作成したものに比べて低いですね」


「難しい事はよく分かんねぇけど、これはやっちゃいけない事だろう?」


フィンに尋ねる。オレ以外の人間も集まって来た。


「前皇帝の時から、帝国の金貨は、国が定める基準に満たない金含有率の物が増えていました。

偽物の貨幣偽造を誰かが行っている。しかも結構な量であり、組織的な犯行だと思われた。

その原因をもうちょっとで突き止められると言われていた矢先に、皇帝夫妻が死去したのです。

新しく即位された皇帝は、改めて調査させましたが、乗り込んだ先は悉くもぬけの殻。逃げられ続けていました」


「…それが、なんで今になって捕まえられたんだ?」


それだけスタンキナ様が優秀だって事か?


「情報が流れなくなったからですよ」


「情報?」


「娘から、父に」


よく分かっていないオレ達に、フィンは苦笑した。


「必要以上に私の言葉では言わず、感じていただいたり、考えていただけたら良いのですが…」


「おまえの意見を教えてくれよ。オレは頭が悪いから、考えろって言われても無理だ」


うんうん、と周囲も頷く。


「現皇帝が、ある時から増税したのは、この偽貨幣を回収する為だと思います」


「ふぅん?」


金を作っちゃいけないっていうんだから、何か問題あるんだろう。


「何が言いたいかと言えば、私の感想としては、皇帝は皆さんが思うような悪者ではないと思いますよ。

…ある一点を除いて」


最後、フィンが今まで見た事ないような冷たい顔をしたのを目にして、ぞわりとした。

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