083.貴女は私の物
皇女のことがやっと終わったと思ったのに…。
美少女の平民→美女の皇女→美人の侍女…。
バラエティ豊富だなぁ…。
超絶イケメンと結婚してしまったのが運の尽きと言う奴か…今後もこういうの、起きるのかなぁ…。
今回は、一つ屋根の下にライバル?がいる訳ですよ。
ライバルなの…か…?
貴族たるもの、一夫多妻は普通だし。
アルト家で言えば妻ではなく、愛妾なのかも知れないし。
ラトリア様に正妻を迎えてから愛妾を、とか言っておきながら、自分の身に降りかかるとは…。
あのときの私は調子に乗っていたと言っても過言じゃない。
ルシアンに溺愛されて、虹色の魔石なんかもあって、自分が唯一の存在だと勝手に思い込んじゃって…はぁ…我ながら恋愛経験値の低さがこういう所に出るのか…。
いや、分からんけど。
そんな訳で私はセラに具合が悪いから一人にして欲しい、侍女はエマだけ呼んで欲しい、あとは不要と言って休む為の準備を済ませるとベッドに潜り込んだ。
慣れるまでちょっと時間かかるかもだけど、頑張って慣れるから、一人にして欲しい。
胸が痛いけど、締め付けられるように痛いけど、我慢しなくては。
眠くなかった筈なのに、横になってたらいつの間にか寝ていたようだ。
「んー…。」
毛布に手を伸ばそうとして、温かいものに触れた。
…温かい…もの…?
急に目が覚めてきた。
恐る恐る目を開けると目の前にルシアン…!
ばっちり目が合いました。
うわぁ、イケメンがベッドに横たわってる姿とか超危険じゃない?!
私、セラに一人にして欲しいって言った筈!言った筈?
それともルシアンはその内に含まれないってこと?
あぁ、それはありそう…みんなルシアンに忠実だから…。
まだ寝呆けているフリをしてルシアンに背中を向けた所、後ろから抱き締められた。
ぎゃーーーーーー!!
「ミチル、また良くない事を考えてるでしょう?」
う……。
分かった、ルシアンはエスパーです。
「良くないことと言うか…自分を納得させようと…。」
「納得?」
「あの…ルシアンが愛妾を迎えても…平常心を持てるように…。」
ルシアンの腕が私から離れた、と思った瞬間にルシアンの方を向かされる。
「!」
「何故その結論に至ったのか、説明してくれますね?」
怒ってる!めっちゃ怒ってる!!
「まさか…リュドミラの事ですか?」
ぎくっ。
「侍女ですよ?リジーの代わりに入った。」
「それは、そうなんですけれども。」
リュドミラがルシアンに向ける目は、侍女のものじゃないと申しますか…。
それに貴族が侍女に手を出すのも割とよくあることと申しましょうか…。
「ミチルがリュドミラを気に入らないのであれば、父上に返しますから、素直におっしゃって下さい。
ですが、その前に、何故そう思ったかを教えていただかないとね?」
そう言って私の夜着の紐にルシアンが手をかけるので、大慌てでそれを止める。
「言いますっ、言いますからっ!」
「…私との閨事、そんなに嫌ですか?」
「だっ…だって…!」
「まず、そちらから確認した方が良さそうですね…。」
ひっ。
覆いかぶさろうとするルシアンを押して抵抗するも、力では敵わない。どんどん顔が近付いてくる。
あぁ、イケメン…!
「リュドミラがっ、ルシアンのことを恋する目で見ていたからです!」
ルシアンの身体が私からちょっと離れる。
ほっ。
「リュドミラが私をそういった目で見たから、なんだと言うんですか?」
再びルシアンは私に覆いかぶさり、私の首にキスをする。
ダメ!流されちゃ駄目なのです!
こういう、話をはぐらかす為にする、みたいなの断固反対です!
「あんな佳人に言い寄られたら、ルシアンも絆されてしまうのではないかと思ったのです!
キャロルや皇女と違って、同じ屋敷です。もしリュドミラが夜中に一人で執務中のルシアンに色仕掛けをしたりとか…。」
う…頭の中に勝手にその図が…!
こういうときだけ私の想像力逞しい…!
ルシアンは起き上がると、私のことも優しく起こしてくれた。
「私をあのように見る女性は多いです。」
ですよね、知ってます。
さすがイケメン。さらりと言いますね…。
っていうか殆どそうなんじゃないの?
「いつも、ミチルだったらいいのにと思います。」
はぁ、と息を吐くと、ルシアンは私の頰に触れる。
「ミチルがあんな風に潤んだ目で私を見つめてくれたら、と。まぁ、実際に見つめられたら理性が保たないとは思いますが…。」
どきっとする。
それってつまり、あの…。
顔が熱いよー…。
「例えリュドミラが私を誘惑しようとしても無駄でしょう。酒も媚薬も効きませんから。」
ルシアンの親指が頰をするり、と撫でる。くすぐったいけど気持ち良い。
「でも、スケスケのネグリジェとかで迫られたら、ドキドキしませんか?あんな美人なんですよ?」
スケスケのネグリジェ…とルシアンが繰り返す。イケメンがそのワードを繰り返すだけでえらい破壊力ですわ。
リュドミラが着てる姿を想像してるのだろうか?
「いいですね。ミチル、やってみて下さい。」
「え?」
いやいやいや!
今はリュドミラに迫られたときの話をしているのであってですね!
「ミチル、私を誘惑してみて下さい。あぁ、でも、直ぐに襲ってしまって、誘惑にならないかも知れませんね。」
うっとりしたようなルシアンに、私は恥ずかしさでいっぱいになる。
何を想像してるの!!
「何の話ですか!」
ふふ、とルシアンは笑って、私の唇を指でなぞる。
「ミチルに誘惑されてみたい。
ねぇ、ミチル、この前のネグリジェ、今から着てみませんか?…ね?」
ね?じゃない!
無理だから!あのとき、着るのだっていっぱいいっぱいだったのに、それを、くるくる回らせて寝たのは何処の誰ですか?!
「あのとき、恥ずかしいのにネグリジェを着た私に、何もしないで、眠ったのはルシアンじゃありませんかっ。」
そのときのルシアンの目は、恐ろしい程の色気が滲み出てて、目眩がした。
耳元に顔が寄せられ、耳朶を噛まれる。
「して、欲しかった?」
いつも以上に低い、甘い声に背筋がゾクゾクした。
腰に来る声とか聞いたことあるけど、やばい、今のは、本当に腰に…腰が抜けそう…。
「ちが…っ!」
ルシアンから逃げようと身をよじる。
腰を掴まれ、引き寄せられ、首を軽く噛まれた。
抵抗するものの、あっさりと両腕は掴まれてしまってそのまま押し倒される。
ルシアンの目は恐ろしい程の色気が漏れっぱなしで、もうそれだけで、もう…!
心臓がおかしくなりそう!
「ミチルは、私を欲しいと思った事はありませんか?」
やめてやめてやめてーーー!
死んじゃう、本当に言葉だけで死んじゃう!!
「身体に、聞いた方が、いい?」
もうっ、無理…!
「溺愛の上って、何て言うのかしら…。」
生温かい目で私を見ないで、セラ。
セラがルシアンを部屋に入れたからこんなことになったんでしょ!
あの後、何があったかはご想像にお任せして…。
脚がガクガクして歩けないので、今日はカウチの上におります…。
…何て言うか、私も前世の記憶がありますから、男女のあれやこれや、あんなことやこんなことやそんなことなんかも存じ上げている訳です、ハイ。
実際問題、私はもう既婚ですし乙女ではない訳ですし、色々耐性が付いていてもおかしくないと思うんですね?
それなのに、ルシアンからの刺激は、アブノーマルとかそういうのではなく、増える一方で、これまでが手加減
されていたのだということを痛感する。
お互いの虹色の魔石を食べたあたりから、ルシアンの攻めが激しくなって、これまでだって十分糖度高かったのに、そんなの温かったと言わんばかりにぐいぐい来られて…。
「ミチル、サンドイッチを持って来ましたよ。」
セラが厨房に取りに行こうとしたら、大変ご機嫌なルシアンが、自分が行くと言って聞かなかった。
セラはルシアンが戻る前にとお茶を淹れてくれて、ルシアンが戻るなり、ウインクして部屋を出て行った。
お、置いていかないで…!
ルシアンは私の隣に座ると、私をひょいと膝の上に乗せて、まぶたと頰にキスをする。
うぅ…甘ーい!!
サンドイッチをルシアン手ずから食べさせられる。
ルシアンが持ってるのをそのまま口にするか、ルシアンの手を掴むかしないと、食べさせてもらえない。
これ、何のプレイなんだろう、本当に…。
求愛給餌行動かな…。
来週から学園が始まるのに、不安しかない…。
って言うか絶対駄目!ってルシアンに釘を刺さないと!
「食後のデザートもありますよ。」
そう言って出されたのはチョコレートで、ぎくっとした。
そんな私を見てルシアンは笑った。
「大丈夫、酒は入ってません。」
出てきたのはフォンダンショコラ。
え、それ、手ずから食べるのに向いてないよね?
お皿に乗せて食べるものだよね?
気にせずルシアンは私の口にフォンダンショコラを持ってくる。
あまりに良い笑顔なので、絶対これ、何か企んでるな、って思った。
いつもね、分かるんですよ。何かやろうとしてるな、ってことは見抜く訳です。それを打破しようと思って私がやることはルシアンに見抜かれてて、その上で更に当初よりも甘い恥ずかしい思いをさせられるので、最近は無抵抗が一番被害が少ないことに気が付いた…。
そんな訳なので、近頃は大人しく手ずから食べている訳です。決して、心から受け入れている訳ではない。
…で、ルシアンがそのままでいてくれる筈もなく。
つまり、最初のハードルが上がったような気がする。素直に食べるだけじゃあかんのか。
フォンダンショコラは中にとろっとしたチョコレートが入っているから、普通にかじったら、とろっとしたチョコレートが私の口の周りに付いたりして、それをルシアンが指でなぞって舐めるとか、そういうことをしてくることが予想されます…。
…回避手段が思いつかん…。
そしてこの為にセラにではなく、自分で取りに行ったんだろうな…。そこまで…。
諦めてフォンダンショコラをひと口かじる。
案の定、溶けている中のチョコレートが口に入り切らずに、口の周りに付いた。
指が来るのか?!と思っていたら、ルシアンの顔が近付いて、唇を舐められた。
「!!」
瞬間的に顔が熱くなる。
くっ!この為にフォンダンショコラに!!
「もぅっ!ルシアン!!」
ふふ、とルシアンは笑う。
「最近、ミチルにはこちらの手の内が見透かされているようだったので、こちらも手段を変えてみました。」
変えなくていいから!!
「普通に食べさせて下さいませ!」
私の願いも虚しく、ルシアンに最後まで食べさせられました…。
「多分だけど、ルシアン様的に、ミチルちゃんからの求愛行動がないから、そうやってエスカレートしていくのだと思うわ。」
ルシアンは仕事の為に書斎に行ったので、私もダイニングでセラの淹れてくれたお茶を飲みながら、アビスからの報告書を読んでいた。
時折、雑談を交えながら。
その雑談の中で、最近のルシアンの攻勢が半端ないことを話したところ、上の感想が返ってきた。
私からの求愛行動…。聞いただけで冷や汗が…。
「ミチルちゃん、結局の所、ルシアン様に暴走以外で好意を伝えないし、行動にも表さないでしょ。
やっぱり恥ずかしい?」
涼しい顔でセラはお茶を飲む。
この人、何でこんなに恋愛マスターなんだろう…。
それにしても暴走って…その通りなんだけど酷い言われよう…。
「恥ずかしいですわ…それにはしたないと、教育されておりますし…。」
なるほど、とセラは頷く。
淑女が自らそういう行動をするのは、あまりよろしくないのは事実なのだ。
だけど、好みの異性や、条件の良い異性とそういう関係になる為にアグレッシブな行動に移す女性は貴族令嬢でも少なくない。肉食女子だね!
何て言うか、私は馬鹿正直に、教科書通りに生きているタイプ、と言う奴で。
前世でもそんなの気にせずにいた同級生は、恋人を作るのも早かったなぁ。
私は己の見た目に自信もなかったし、幼い頃は愚かにも、そんな自分を誰かが見つけてくれるのではないかと願っていた訳で。
でもそれじゃいかんので大学デビュー時に足掻いてみたものの、そんな付け焼き刃が役に立つ訳もなく。
可愛いは一朝一夕では出来ない、ってことです。知識だけでは駄目で、練習というか、経験あるのみ。
そしてやっぱり、乙女ゲー最高じゃね?に帰結した訳ですわ…。
「あっちの世界の男女関係って、こことは全然違うんでしょう?」
違いますね、全然。
女性はよりぐいぐい攻めるし。
一応男女平等…。
「そういう世界にいて、その時の記憶もあるのに、ミチルちゃんってば、何でそうなの?」
ぐはっ!
それは、年齢=彼氏イナイ歴だからですよ!
セラからのちょいちょい入る容赦ない質問に、私の心は抉れまくりですよ!
「今の私からもお分かりになると思いますけれど、苦手なのもありましたし、自分に自信がありませんでしたから、とても、無理ですわ。」
「でも、それで良かったわよ。
これであっちに恋人がいたなんてなったら、既にルシアン様に監禁されてると思うし。」
わぁ…ありそう…。
前世の私、グッジョブ。
初めて、前世の己がモテなかったことに感謝したよ…。
「そう言えば、リュドミラに嫉妬したんですって?」
「違いますわっ!」
何で知ってるの?!
いや、だから嫉妬ではなくてですね!
愛妾を迎えても大丈夫なようにですね!
「変な心配をするわよね、ミチルちゃんてば。ルシアン様がミチルちゃん以外を相手にする訳ないでしょ。」
当然とばかりに言われたセラの言葉に、胸がぎゅっとした。
「ほ、本当にそう思いますか?」
お?という顔をしてセラが私を見る。
「思うわよ。何処を疑えばいいのか教えて欲しいぐらい溺愛されてるわよ。」
更に胸がぎゅっとして、恥ずかしいけど嬉しくて、表情に出しちゃいけないのに、堪えきれない。
「…嬉しい…です。」
「その顔、ルシアン様に見せてあげなさいよ、私じゃなく…」
セラがドアの方を見て、にやっと笑う。
見るとルシアンがドアの所に立っていて、口元を手で押さえていた。
きゃーーーーーーっ!!!
聞かれてるしーーーーっ!!?
「じゃ、後は二人でね☆」
そう言うなり、私が止めるより先にセラは部屋から出て行ってしまった。
セラ!置いて行かないで!!かむばっく、セラ!!
ルシアンはドアを閉めると、私の横に座る。
あああああ、もう色気が漏れて…。
駄目だ、どうしていいのかさっぱり分かんない。
涙目の私を、ルシアンは抱き締めると、顔中にキスしてくる。
うぅっ。恥ずかしい…。
しかも、今日に限って、何も言わない。
言わずに、ひたすらキスをしてくる。
「る、ルシアン…何か、おっしゃって…。」
「…私のミチル…。」
!!
色々言われてきたけど、これは初めて言われた!
全身が熱い。
ど、どうしていいのか、分かりません…!
強く、唇が押し付けられた。
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