021.ツン要素に目覚めました!

「白の婚姻じゃ駄目でしょう。それじゃ婚約と同じと認識されますよ?

実際は白の婚姻で、表向きは普通の婚姻、としないと皇女に諦めさせるの難しいと思います。」


ランチ後、私とルシアンは王子たちに断って研究室にいた。

話が話なので二人きりで話させて欲しいとお願いした。

3人がちょっと赤い顔をした気がするけど、何を妄想した?!


先日アルト侯爵家で話していた、私とルシアンの結婚についての話の続きだ。

大事なことだからちゃんと決めなくては。

今後の人生がかかっているのだ!!


「学園の近くにある屋敷を購入する手配を父が行っております。」


「!?屋敷?!」


何で?!


「結婚後も二人揃って寮に住んでいたら、事実上の白の婚姻でしょう、それでは。」


あぁ、そうか…。

そうなんだけど…自分でも結婚しか方法ないんじゃね、みたいなこと言っちゃってるから、今更反対も出来ないし、いずれ結婚するんだからいいんだけど、いいんだけどね?

っていうか侯爵動くの早くなーい?

アルト家に関わることだからって早すぎなーい?


「ミチルのおっしゃる、実際は白の婚姻、ですが。」


ルシアンは私の手に口付けているけど、無視ですよ無視!

いや、めっちゃ恥ずかしいけどね?!ここで反応して、ルシアンの攻撃の手を加速させてはいけないのですよ!

反応するからいけないんですよ、きっと!


「その、実際は白の婚姻、というのは、何処まで許容されるんでしょう?」


ん?許容?


「口付けや、抱擁、添い寝などはどうなのかなと。」


にっこり微笑むルシアン。


「!!」


瞬間的に顔が赤くなったのが分かった。

くそう!またしても!またしても私は負けたのか!!


「全部駄目に決まってます!」


「結婚しているのに?白の婚姻でもないのに?」


「実際は白の婚姻なんだから、全部駄目なのです!」


うっ!両手をホールドされてしまった!

しまった!3人立ち合いにしておくべきだったか!

さすがに結婚話を聞かせる訳には!と思った私が甘かったのか!


「一線は越えないにしても、ある程度慣れていただかないと、白の婚姻なのでは?と疑われてしまうかも知れませんよ?」


ねぇ、今、一線って言った?!

一線て…!!

何この人、鬼畜なの?!悪魔なの?!


「で、でも、普通、結婚したからと言ってそんなすぐには…。」


「貴族の大事な務めは、子孫を残すことですからね。」


いやあああああ!!

そんなはっきり言わないでええええええええ!!!

ルシアンが鬼すぎるううううぅぅぅぅ!!


「そもそも、私たちが皇女が来る前に結婚すれば、皇女が諦めるかも知れませんから!」


そうすれば、同じ屋敷の中に住むことになったって、何とか貞操はだな、守れるんじゃないのか!?

そこ、遅かれ早かれとか言わない!


「そういえばミチル、今回私たちの結婚が早まる理由は、私がミチルを溺愛し過ぎて一線を越えましたの体で行くそうですよ。父が申しておりました。」


「えええええ!?」


「ですから、実際超えても何も問題ないですよ?」


何さらっと酷いこと言ってんですか!!


「色々問題ありすぎでしょう!その理由止めて下さい!!」


いやあああああああああああああああああああああ!!!


「学園内でも私のミチル溺愛は周知の事実ですからね。誰も疑問は抱かないと思いますよ?」


そこじゃないから!ツッコミ入れるとこそこじゃない!!

っていうか疑問は大いに抱いてくれ!!


「卒業まであと3年はあると思っていたので、こんなに早くミチルとの婚姻が実現するなんて、皇女もたまには良いことをして下さるものだと、感謝しております。」


ちょっとちょっとちょっと!

お願い待ってええええええ!!!


考えろ、ミチル!

考えるのよ!

なんとかして、一線越えちゃったからじゃない婚姻が早まった理由を考えなければ、毎日が羞恥プレイみたいなことになってしまうじゃないの!!


「私が転生者だということを周囲に伝えて、その為に婚姻が…って駄目ですね。これだとうちの父が欲をかくでしょうし。」


転生者であることは秘密にしたまま、私とルシアンが堂々と結婚する。

あの愚父から離れるには…?

愚父がいるからいけないのか…?


「思い付きましたわ、ルシアン。そしてとりあえずもうちょっと離れて下さいませ!」


私が考えごとをしているスキに更に近づいてるんじゃありませんよ!油断もスキもないったら!


「噂ではなく、実話でもいいかなと思ったものですから。」


「邪悪な発想はお止めになって!」


両手を掴まれたままだが、シリアスな話でもして、その気を削いであげようではないか!


「さっさとアレクサンドリア家を潰すのです。」


さすがのルシアンの顔からも笑顔が消えた。


「…ミチル…さすがにミチルのほうが邪悪だと思いますよ…。」


「アレクサンドリア家の立て直しということでルシアンが急遽私と結婚して爵位を賜るということであれば、堂々と結婚出来る筈です!私は爵位を賜れませんし!」


この国では女性は貴族になれない。今の所そうなのだ。その内変わるのかも知れないけど。


「ミチル、そんなに私を受け入れるのがお嫌なのですか?」


受け!?何言ってんのこの人!

しかもなんでそんなに叱られた子犬みたいになってんの?!


「いずれはとは言え、今はその時ではないのです!」


っていうかさ、ルシアンが真剣に考えればさ、すぐに案とか出てくると思うんだよね。


じとーっとした目でルシアンを見つめる。ルシアンはふふ、と微笑むだけだ。

いい笑顔です、ルシアン。

あくまで私の希望は通すつもりがないということはよく分かりましたよ!


そんな一線越えちゃいました、が最善の策ではないことは侯爵だって分かってるだろう。

ただ、この前おまえが考えなさい、とかルシアンに言ってたなぁ…(遠い目)。


「ミチル、次の土の日、アルト家にいらして下さい。仕立て職人を呼んでおりますから。」


仕立て職人?


「ウェディングドレス、作らないとでしょう?」


母が大変楽しみにしているんですよ、とニコニコしながら言うルシアン。

あー、これ。もう色々と外堀埋まってるんだな。またしても私の気持ちはそっちのけか!


「ルシアンは、私に嫌われることを考えてますか?」


やたら私に執着して好き好き言ってくるぐらいだから、嫌われたくないとかさ、あるでしょ?

我ながらちょっとエゲツないとは思うけどさ!

ここはちょっと、恋愛の駆け引き的な?初めてやるけどさ、こういうの!


ルシアンはふ、と少し冷たい笑みを浮かべた。

これは、初めて見る顔だ。ちょっと背筋を冷たいものが通ったような…。


「ミチル、私は貴女を絶対に私の物にします。例え心が私に向かないとしても。」


黒い!

予想外の黒い回答来た!

ちょっとドキッとしてキュンとしたのは秘密だ!


「私の気持ちは不要ということなのですか?」


でも何だろう、もやっとする。

すっごいもやもやする。

ルシアンの好きって何よ?

好きになるとさ、確かに独占したいとかそういう感情もあるけどさ、相手の笑顔が見たいとかさ、幸せにしたいとかさ、あるじゃない?!


「いいえ。ミチルが私を愛してくれるなら、それに勝るものはありません。」


「それなら何故ですか?」


「ミチルが私を愛してくれるとは思っておりませんから。」


えぇ…。

即答でそれを言うの?


「私に好かれたいと思って、あれだけ甘い言葉を下さってるのではないのですか?プレゼントだって。」


恥ずかしいけど、嬉しいという気持ちは、凄いある。

ルシアンが婚約者で良かった、って思ってるのに。


「あれは、自分の気持ちを素直に伝えているだけです。私がどれだけ、ミチルを想っているのか、知って欲しいから。プレゼントもそうです。」


「それだけ?!」


はい、と頷くルシアン。


この人、本当に私のこと、好きなの?!

大丈夫これ?ルシアンの幻想を私に押し付けてるとかそういうオチなの??


「ルシアン、私の何処が好きなのですか?」


「全て。」


「全てなのに、私の心を欲しないなんて、おかしいです!」


突然、ルシアンは切なそうな顔で私を見る。

止めて!凄い色っぽいから!ドキドキするから!

胸がぎゅって締め付けられて苦しいから!


「…私は、ミチルの理想に近付けてますか?」


え?イキナリ、何?

話を逸らしてるの?

いや、ルシアンはそういう人ではない。

天然の小悪魔要素は持ってるものの、根は生真面目なのだ。


「ミチルがキースを好きだと知ってから、努力しました。ミチルの理想に少しでも近付きたくて。

貴女の関心があることは全て、取り組みました。貴女に相応しい人間になりたくて。

ミチル、教えて下さい。私は貴女の理想に近付けてますか?」


「!!」


酷い、これは、いくらなんでも、卑怯過ぎる。

やばい、なんか涙出てきた。


「ミチル?大丈夫ですか?何処か痛い所が?」


私が泣き出したから、ルシアンは途端に慌てて、ハンカチを取り出して私の涙を拭いた。


「ルシアンは…酷い。」


「はい?」


やばい、駄目だ。

今ので自覚してしまった。


「酷すぎる…。」


私に好かれたいから、自分を変えたって言いながら、好かれなくていいなんて、矛盾してる。

そんなの、全力で私に好きになって、って言ってるようなもんじゃないか!


大体、キースなんかより、ルシアンの方が私の理想ど真ん中なのだ。


同じ黒髪だけど、ちょっと無造作なルシアンの髪質の方が好きだし、金色の目は吸い込まれそうなぐらいキレイだし。しかも目線に、私的必須な色気がある!

これは、キースにはない!この目線でメロメロになってる令嬢が多いことを私は知ってる!

身長は高くて、細いけど引き締まってて、手足だって長くて、私にやたらちょっかいを出す指だって、男らしい少し骨張った、大きな手で。

声だってちょうど良く低くて、そんな声で私に散々甘い言葉を吐いて、混乱させてくる癖に。

頭も良くて、でも何でも一生懸命で、調子に乗ることもない。

丁寧な言葉遣いも好き。ストイックな感じで。

これだけ私が好きになる要素のオンパレードな上に、私の理想の男になる為に努力してきたって言う癖に、愛されなくてもいいとか…っ!


「ミチル…?」


「全力で私をいつも誘惑する癖に、私に、好かれなくていいなんて、意味わかんない…っ。」


「…っ!」


一瞬で私の視界は、ルシアンで埋まった。




私は怒っています。

えぇ、ルシアンと言う名の朴念仁に。


苛立っている私の上で、とろけそうに幸せそうな笑顔を私に向けまくってますけど、私は怒ってるんですよ!


「ルシアンなんて、一生私にメロメロで生きてればいいんですよ。」


けっ、と吐き捨てるようにやさぐれて言う私の、ロクでもない言葉に、はい、幸せです、とにこにこしながら答えるルシアン。


ルシアンは私を膝の上に乗せ、左腕は私の腰に手を回した状態で、右手で私の髪をすき、私のおでこにちゅーしまくっては、可愛いとか好きとか言いまくってる。


この、めちゃ甘状態にも関わらず、私はルシアンの朴念仁さに心底やさぐれているのだ。

くそう!

こんな朴念仁のことを好きになってしまったとは!


「結婚しても、卒業まで我慢出来そうです。」


ペットにでもするように私の髪に頬ずりするルシアンに、私はほぼほぼ抵抗する意欲を失っていた。

いや、好きだけどね?!

いや、好きだから余計にね?!

この脱力感ですよ!




「どういうこと、なんですの?」


赤い顔で私に質問して来たモニカ。 ルシアンの私溺愛の糖度が以前よりも上がったので(あの上の糖度が存在したことに私も驚いたが)、さすがのモニカも恥ずかしそうだ。

いえ、私も恥ずかしいのは恥ずかしいので、顔はずっと赤いままなんですけどね。


お昼休みを終えて教室に戻る際にも、ルシアンは私にベタベタと触り、(周囲の令嬢も令息も、みんな顔赤らめてました!!)教室の前で別れる時も、私のおでこにキスして、とろけそうな笑顔を私に大盤振る舞いしてルシアンは去って行った。

その笑顔を見て何人かの令嬢が廊下に倒れ、リアル衛生兵に運ばれて行った。


「…春が来たのです、ルシアンに。」


これ以上は言わんぞ!

…くそう!

嬉しいとか思ってる自分に腹が立つ!


モニカがまた、嬉しそうな、例のにやにや顔になったけど、知らんのだ!

どうせ近い内に結婚になって、もっとにやにやするんだろうし!




何故エマまでにやにやしとるんじゃー!


寮に戻った私は、にやにやがこぼれきってるエマの顔に、ため息と頭痛しかしなかった。


「ルシアン様から、桃の花が届いておりますよ、お嬢様!」


桃の花の花言葉は――あなたに夢中、あなたの虜、とかそんなだった。

それでエマはこんなにデレデレしてんのか。


少し休む、と伝えて私は寝室に入った。

着替えてから、ベッドに寝っ転がる。

エマに怒られてもいいもんね。もう、知らんもんね。


「はぁ…。」


何で私はこんな状態になってんのかな。

ルシアンに対する気持ちに、あの言葉で気付くなんて、人のこと言えないかも…。

私も朴念仁なのか…。


っていうか、気付いちゃった私はこれからどうすればいいんでしょーか。

ルシアンみたいにあんな直球でデレデレ出来ませんよ、私は!

むしろ恥ずかしくて逆にそっけなくしてしまいそう!

二人の時は、分かんない!

まさか自分がツン要素持ちだとは!


あああああ、もう恥ずかしい穴に埋まりたい!!

ルシアンのことが好きすぎて死にたい!

まともに人を好きになったのなんて、前世での初恋ぐらいなんじゃないの?!

恋愛って、何をどうすればいいの?!

乙女ゲームは落とすまでだからさ!落とした後はないんだよね。

ハッピーエンドでーす!で終わり。

甘々になったら何を、どうすればいいの?!


しかも、恋愛の末に結婚とかじゃなくて、いきなり婚約のしかも学生結婚とか!

ノーマルな恋愛すら未経験なのに、この難易度の高さたるや!

恥ずか死にそうだけど?!

恋愛を甘酸っぱいとか言った奴出て来い!




私とルシアンが一線を超えたのでは、という噂は、瞬く間に学園内に広がっていった…。

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