016.初めての…?

初めて作った魔石をテーブルの上に置く。

楕円をした黄色い石だ。透明度は高い。


そう言えば、モニカの魔石は綺麗な緑だった。それも透き通ってた。

デネブ先生のも私と同じ黄色。

他の生徒たちのも、大体緑か黄色だった。

魔石の色って他の色もあるのかなー。それもちょっと興味ある。

前世で読んだ本とかマンガだったら、絶対色ごとに属性があって、ってなると思う。


黄色…なんだろうな…属性だと土とかかな…っていうかこの世界、属性って概念あるのかな?

宗教とか、あったっけ??

前世だと黄色は風水的に金運アップですわー。


魔石を作った後って、やっぱり体内の魔力消費してるんだよね?

ゲームみたいに現在のMPが分からないから、どうなってるのかさっぱり分からんわー。

魔石作りすぎて魔力枯渇してヘタれるとかなるのかな。


分からないこといっぱいだなー。

デネブ先生なら知ってるのかな??

機会があったら聞いてみようっと。




*****




今日はアルト侯爵に誘われて、アルト家にお邪魔している。


午前中はたっぷりアレクと触れ合って乗馬を楽しんだ。

ブランクがあるから、まだ敷地内を歩いたり、ライルに付いてもらって軽く走るぐらいしかしてないけど。


アレクの世話をしたいとライルにわがままを言って、ブラッシングをしたり、馬房の掃除をしていてふと気が付いた。

ここの馬は、アレクを始め、どの馬も蹄鉄をしていない。

ハーネスト家の馬も、そう言えばしてなかったなぁ。

不思議に思ったので、ライルに質問してみる。


「蹄鉄はしないのですか?」


「テイテツ?」


馬飼育のプロが知らないとは!

これは!NGワードのにおい!


「…何でもないですわ。」


この世界には蹄鉄はないのかも知れない。

だとしたら、今のはちょっといかんかったかも知れん。


馬の蹄鉄は虐待だ、とかいうニュースを見て、乗馬を教えてくれた知人に聞いたら、野生とは環境が違うから、飼育されている馬には必要なものなのだと教えられた。

もう、大分うろ覚えだけど、野生の馬はそもそも人やら荷物を引いたりしないから、蹄がそんなに磨耗することもないし、野生と飼育では食べているものの栄養価も違うし、いくら清潔に保っても馬場では衛生状況を完璧に整えることが出来ないから、そういった諸々から馬を守る為に蹄鉄を付けるんだよ、とかなんとか言ってた気がする。

っていうか、それなら厩舎に入れなきゃいいんじゃないの?と聞いたら、狼とかから守る為に入れてるんだよ、現代ではもう意味がないけど、と説明を受け、なるほどな、と思ったのだ。


蹄鉄をアレクに着けるのは難しそうだし、あれはあれで痛そうだから諦めるとしよう。

知人が、馬にはβカロテンがいいんだよーと言ってて、よく馬に人参をあげてる絵があるけど、あれはちゃんと理にかなっていたのだなと妙に納得したことを思い出した。

人参をアレクにあげたいなー。

今度来るとき持って来よう!

とは言え、人様の家だから、勝手に来たいとも言えないしなぁ。

どうしたものかなぁ。


「ミチル?」


オージュのお世話が終わったルシアンがこっちにやって来た。

淑女らしからぬ腕組みスタイルで考え込んでしまったぜ。


「どうしたの?」


「あ、いえ、何でもないです。」


ルシアンは私の顔をじっと見て、本当に?と聞いてきた。

本当です、と答える。


「それで、どうしたの?」


手袋を外すと、良い笑顔で私の髪に触れてきます。

ピンチです!

この仕草をし始めると、どんどん触ってこようとします!

ルシアンは勘が良いというか、何というか、エスパーかと思う程に私の考えていることを読んでくるのだ…。


「う…あの…人参が欲しいなって…。」


「人参?」


「馬にはべーたか…えっと人参が身体に良いって聞いたことがあって…今度持って来てもいいでしょうか?」


「人参なら厨房にあるでしょうから、持って来させましょう。」


ライル、とルシアンは声をかけ、厨房から人参を何本かもらって来て欲しい、と頼んだ。

かしこまりました、と答えるなりライルは走って行った。


「人参を食べると、どう変わるのですか?」


「えーと、野生の馬は摂取出来てる栄養で、飼育されている馬が摂取しにくい栄養だった気がします。」


少しして、ライルが麻袋を抱えて戻って来た。

人参が入ってるんだろうとは思うけど、一体どれだけもらってきたんだい、ライル…。

結構大きいよね、その麻袋…。


「お待たせしました。人参をお持ちしました。」


「ありがとう、ライル。」


ライルから人参を1本受け取って、アレクの前に差し出してみる。食べるかなー。

アレクは最初、においを嗅いでいたかと思ったら、少しだけかじった。

ボリッ、という音をさせて人参の先が折れ、アレクは咀嚼し始めた。

思っていたより美味しかったのか、口の中の人参を食べ終わると、すぐに私の手にある残りの人参を口にくわえて食べ始めた。


「美味しいんでしょうね。全部食べてしまった。私もオージュにあげてみます。」


ルシアンも人参を手にオージュの元に向かった。

ちょっとして、奥からボリッ、という音がしたので、オージュも食べたのだろうと思う。


「ミチル姫様、人参は馬にどのような効能があるのですか?」


さっきルシアンに説明したようなことを話すと、ライルはふむふむと何度も頷き、これからはアレクの食事に人参を混ぜることにします、と言った。


「あっという間にオージュも食べてしまいました。」


こちらに戻るなりルシアンが言った。


「人参は甘いですからね。馬は甘いものが好きですから、美味しかったと思います。」


「え?!馬は甘いものが好きなんですか?!」と大きな声を出したライルは、慌てて口を手で押さえて申し訳ありません、と謝罪した。


前世で見たテレビ番組で、角砂糖上げた途端に馬が言うこと聞いてたんだよね。

でも、こっそりあげていたところを見ると、そうそう食べさせてはいけないものなんだろうと思う。

虫歯とかあるもんね。


「ただ、沢山あげるのは身体によくありませんからね、甘いものは。野菜の甘さなら大丈夫だと思いますが。」


ふむ、とルシアンは呟くと、一瞬考えた後、「これから毎日全ての馬に人参を食べさせるように。厨房には私から言っておくので」とライルに言った。


かしこまりました、とライルは頭を下げた。


屋敷に向かう途中、ルシアンに勝手に決めてしまって大丈夫なのかと聞いたら、大丈夫ですよ、と言われてしまった。

私としてはアレクに人参あげたいから、願ったり叶ったりだけど…。



アルト邸に入るなり、アルト家の侍女に囲まれるようにして浴室に連れて行かれ、あれよあれよという間に身体やら髪を洗われてしまった。

あまりの連携プレーに抵抗する間もなかった!!


そして用意されていた服に着替えさせられ、髪を結われ、軽く化粧をされ、今、アルト侯爵夫人の前にいます…。


そう言えばハジメマシテ…。


「まぁ、私が用意したワンピース、ミチル様によく似合っておいでだわ。」


夫人はうふふ、と楽しそうに笑った。


アルト侯爵夫人は、さすがイケメンなルシアンの母だけあって、色の白い、繊細そうな金髪碧眼の美女。

これで二人の子持ちとか信じられます?!奥さん!って言いたくなる美貌の持ち主だった。


着せてもらったワンピースは、コーラルピンクのAラインのノースリーブのワンピースで、襟には華美になりすぎない白い糸で編まれたレースが縫われている。

このレースがあると、コーラルピンクの色が少し緩和される気がする。

肘まである長さの手袋はピンクゴールドだ。しかもシルク!化繊じゃないよ!


未成年の私は髪を結い上げることは許されないので、横の髪だけを結い上げ、後ろで一つにまとめられてる。耳の上には百合の花を差し込まれた。


えぇーっ!

ちょっとこれから夜会ですかー?!と言いたくなるぐらいちゃんとした装いですよ?!


…とは言いつつ、鏡に映る自分を見て、正直満更じゃないです。

なんだかんだ言っても女ですからね、キレイな衣装は心が踊ります。


「こんな風に娘に着せたかったのですけれど、息子二人で、本当に残念だったのです。でも、これからはミチル様に着せられますわね。」


着せ替え人形ってことですかぁあああ!

しかもここでも拒否権はなさそう!

私の人権は何処ですか?

だがしかし、こう見えても私も貴族の端くれ、そんなことはおくびにも出しませんよ!


「このようなステキなドレスを着せていただいて、よろしいのでしょうか?」


「ミチル様はルシアンの婚約者なのだから、私の娘も同然ですわ。」


このお方は未来の姑ですよ。関係は良好にしておかねば!

嫁姑問題は大事です!

っていうか、すっかりそういう事失念しておりました!!


「そのようにおっしゃっていただけて、私は幸せ者にございますわ。」


うふふ、と私も微笑んでみる。


コンコン、とドアをノックする音がして、外からルシアンの声がした。


「母上、そろそろミチルを返していただけませんか。」


夫人が頷き、ドアが開いた。

着替えて来たのだろう、ルシアンも別の衣装になっていた。

はぁ、イケメンだわー。柱の陰からガン見したいわー…。


「ルシアン、ミチル様をご覧になって。」


ステキでしょう?とにこにこしながら言う夫人に、ルシアンは表情を変えなかった。

あれ、似合ってないのだろうか?

実はちょっと、ルシアンの驚いた顔とか、期待したんですけど。


「ミチルはどんな服装でもステキですから。」


その言葉はその言葉で嬉しいけど、でもちょっと褒められたいなー、なんて思ってしまった。

いや、どんな服装でもステキ、も結構な褒め言葉だな、なんてもにゃもにゃ思っていたら。


「ですが、そのワンピースもよくお似合いです。このまま奪って閉じ込めてしまいたいぐらいです。」


ルシアンはしれっと私の手を取り、手袋越しに口付けた。


「…っ!」


ひ、久々に甘々トークを食らってしまった!

うあああああ!久々過ぎて恥ずかしい!!

さっきの褒められたいとか思ってた自分出てこい!


夫人は己の息子の甘々トークを止めるでもなく、「ルシアンは本当にミチル様に夢中ですわねー」と、謎の言葉を発していた!

えええええ?!止めようよ、母!


「そろそろアフタヌーンティーの準備が整う頃ですから、二人で行ってらしたら?」


ルシアンに促されて夫人の部屋を出た。

行きましょう、と言うルシアンの左腕は、エスコートするように身体との間に隙間がある。

これは、腕を組みますよ、の合図だ。

恋人や婚約者でないとしない。何しろぴったりくっつくから。


そっとルシアンの腕に自分の腕をからませると、ルシアンがにっこり微笑んだ。

…っ!至近距離のイケメン!

私の血圧の上昇率が心配です!!

心拍上昇!

鼻血は…セーフ!


「嫌な場合は、嫌だと母に言っていいですから。言いにくければ私から言います。」


「ありがとうございます。」


庭園の真ん中にあるガゼボに到着すると、アフタヌーンティーの準備が出来ていた。

三段のトレイがテーブルに置かれている。


サンドイッチ、スコーン、ペストリーがそれぞれ陶器のお皿にキレイに並べられている。


「先日ミチルが作って下さったサンドイッチには及びませんが…。」


あの時の、美味しそうに食べてくれたルシアンを思い出して、ふふふ、と笑ってしまった。


「良かったらまた、召しあがって下さいませ。」


「いいのですか?とても嬉しいですが、大変なのでは?」


「毎日は無理ですけれど、月の日などは前日に準備出来ますから、大丈夫ですわ。」


今度はツナサンドとかいいかも。コロッケサンドとか。

男子なら好きだろう、コロッケサンド!焼きそばパンとか?!


「あの照り焼きチキンサンドは、本当に美味しかったです。甘さとしょっぱさが丁度よく、鶏肉も柔らかくてとても美味しかった。是非作り方を教えていただきたいぐらいです。」


「あら、そんなことでいいなら、いくらでも。」


ルシアンは驚いた様子で、いいのですか?と聞き返した。


「あのような美味しい味を簡単に教えていいのですか?」


そうか、照り焼きチキンは皇都でも食べられない、珍しい料理だったっけ。


「アルト家にだけは秘密でお伝えしますわ。」


将来嫁ぐ家で照り焼きチキンが食べられるなら、それはいいことだと思うんだよね。

別に門外不出の料理って訳でもないし。元々庶民の料理だし。


ルシアンは近くに侍っていた執事に紙とペンを取りに行かせた。

そんなに気に入ったんだ、照り焼きチキン。


「卵サンドもとても美味しかったです。あれは、実はこっそり作ってもらって食べてます。あとBLTサンドも。」


そう言って笑うルシアンに、胸がずきゅんとしたわ!

イケメンの照れ笑いは反則だと思うのよ!

死ぬかと思ったわ!


それにしても、よっぽど気に入ってくれたんだなぁ。


執事が紙とペンを持って来てくれたので、材料とレシピを書いてルシアンに渡した。


「これでまた、あの味が食べられるのですね。ありがとうございます。

そうだ、こんな貴重なレシピを教えていただいたので、何かお礼をしたいのですが、何か欲しいものはありませんか?」


ええ?!馬もらったりペンダントもらったり、もらってばっかりだよ!?


「そんな、とんでもないですわ。ルシアンからは以前、ペンダントもいただいておりますのに。」


今日も首から下げているペンダントを服の中から取り出す。

アレキサンドライトで作られたペンダント。

ルシアンは嬉しそうに微笑んだ。


「それは皇都で見かけて、名前がミチルの家名と同じでとても美しかったので、婚約を受けていただいた感謝を込めてプレゼントしたものです。

今回のレシピはまた、違うものをプレゼントさせて下さい。」


と、言うことは!と言うことはですよ!

ルシアンが自分で選んで買ってくれたプレゼントだったということですよ!

アルト侯爵からではなく、ルシアンからのプレゼント!


「…ルシアンは、本当に私と婚約を望んでいたのですね。」


「勿論です。ミチルは、私がミチルとの婚約を望んでいなかったと思っていたのですか?」


ぎくり。

あ、これ、墓穴掘っちゃったパターンなんじゃないの?!


なんか私を見てるルシアンの目がマジじゃありません?!


「えっと…その…。」


じっと私を見ていたかと思うと、ルシアンはふぅ、とため息を吐いた。


「私は言葉でも態度でもミチルに示して来たつもりなのですが、ミチルには伝わっていなかった、ということですね?」


ひぇっ、なんかちょっと怖い方向にいっちゃいそう!


ルシアンが私の手を掴んで、恐ろしい程にっこり微笑んだ。

あああ、これ怒ってるパターン。絶対怒ってるパターン!!


これは早々に思ってることを素直に言わないと、あれこれ言われたり触られたりして、強制終了させられちゃうパターン!!


「じ、自分に自信が持てず、本当にルシアンが私なんかと婚約を望んでるとは思えなかったのです。」


「ミチルはどうしてそう、自己評価が低いのですか?こんなにも可愛くて優秀なのに。」


は、始まった!

羞恥プレイ!

っていうか可愛いだけに飽き足らず優秀まで言い出した!

ちょっと美化入りすぎなんじゃないのか!


「ルシアンと出会ったばかりの私は太ってましたし…。」


それが何か?ときっぱり言い切られてしまって、返す言葉もない。

いや、だって、あの太さはちょっと、そういう目では見れないでしょう??

さすがに走ってることを笑われていたことも知ってますよ?

ルシアンが笑ってたかは分からないけど。


「本当は自分の言葉で婚約を進めたかったのですが、私がいない間に王太子殿下とジェラルド様の二人がミチルに近寄っていると聞いたときには、今すぐ皇都から戻りたくて仕方がありませんでした。

代わりに、父にミチルと婚約をさせてくれるようお願いしたのです。」


分かりました。ワカリマシタから!


「る、ルシアン、分かりました。あなたの気持ちは良く分かりましたから。もうそれ以上おっしゃらないで下さいませ…っ。これ以上伺ったら爆発してしまいそうです…!」


「いっそ爆発させたほうがミチルには伝わるのではないですか?」


えええ?!

まさかの発破発言?!


「ミチル?」


「…はい。」


ああああああ止めてヤメテー!

ストップ!

あああ、あの時なんであんなことを言ってしまったんだ自分!

言うなら心の中だけで留めておけばいいのに私の馬鹿ばかバカ!!

墓穴掘り過ぎだ!っていうか本当今すぐ穴掘りたい!


執事や侍女に助けを求めようと視線を向けた所、さっきまでいた場所にみんないない!

ちょっ!

何処行った?!


侍女たちを探して違う所を見ていた私の頰に、ルシアンの手が触れる。


「!」


近い。ルシアンの顔が近い!

近い近い近い!


「ミチル、知ってますか?」


「な、なんでしょう?」


「婚姻前に口付けた場合、婚約破棄は出来なくなるんですよ?」


…知ってマス。

傷モノになった、という意味デス。


更に近付いてくるルシアンの顔を見ていられず、目をぎゅっとつぶってしまった。


そして、柔らかい感触。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る