015.魔石作成開始!

寮に戻ると、シアンがソファの上で毛繕いをしてた。


「シアンー。」


抱きつこうとして顔面に猫パンチを食らった。

あぁ、今日もナイスパンチです!

そして懲りずに肉球をぷにぷにして、連続猫パンチを食らった。

シアンもパンチはするものの、本気ではないので、全然痛くないのだ。

愛い奴めっ!


「お嬢様、もう少しでお夕食の準備が整いますから、早くお召し替え下さいませ。」


「うふふ、ごめんなさい。あまりにシアンが可愛くて。」


エマに呆れられながら室内着に着替えてリビングに戻ると、テーブルの上にもう料理が並んでいた。


今日は揚げ出し豆腐!これ大好き!

五目豆に焼き魚!

あぁ、ビバ、和食!!


「エマ、ありがとう。私の好きなものばかりね!」


炊き立てご飯と豆腐のお味噌汁も用意されている。

ほかほかと湯気をたてている白米はつやつやとして、何のおかずもなくとも甘くておかわりできそうだ。

いやー、それにしてもすっかりエマは和食を作れるようになってしまったね…。

最初の頃こそ、私がいつも作っていたけど、気が付いたら作れるようになってた。曲がりなりにも伯爵令嬢の私が料理を作ってることが、嫌だったのではないかと思われる。

それで勉強したのではないかなぁ、と予想。


「お呼びだしは大丈夫だったのですか?」


「問題なかったわ。先生のお手伝いを頼まれたの。

今後、お手伝いをすることが増えるから、帰宅時間はこれまでよりは遅くなると思うの。

ごめんなさいね、エマ。」


美味しいお夕食を作ってお嬢様をお待ちしております、といい笑顔で言われた。

給料増やしてあげたいわー。

絶対成人したら、エマとは直接雇用関係になろう。こんないい子、あの家には勿体ない!

その為にも、魔道で身を立てるというのは、やっぱりアリな気がするなー。




*****




今日の魔道学の授業では、遂に魔石を作る。

座学に入るのこれ?とか、こんなすぐに魔石作るの?と思ってしまうが、どうやらこの魔石を作り出す作業は、そんな簡単なものではないらしい。

人によっては一年かかることもあるとのことだから、個人差が、凄まじいのだな、きっと。


しかもこの、魔石作りが出来ない人は、変成術に進めない。

変成術はより高度に魔力をコントロールする必要がある為だ。

魔石の作成で二の足を踏む人には無理、ということなのだろう。


魔道学の准とは言え研究員になった私だが、魔石、ちゃんと作れるだろうか…。

最初はほほーん、ぐらいにしか思ってなかったのに、段々不安になって来た…。


ひと通りの説明を終えたデネブ先生は、お手本として教卓の上に魔石をいとも簡単に作り出した。

コロン、と教卓に転がる魔石は結構大きい。


「では、皆さまも、魔石を作り出してみて下さい。

手の中に魔石の塊が出来るように、想像するのです。」


言われた通り、魔石が手の中に魔石があるのを想像してみたが、欠片の一つも出来ない。


魔石、魔石…。

魔石とは体内の魔力を体外に排出して結晶化したもの。

体外に魔力を排出…。


魔力測定時に私の器があったのは、おへその上。


目を閉じ、おへその上にあるらしい魔力に意識を集中してみる。

うーん…これだろうか…塊というよりは、なんかもわもわとしたもの。


その魔力が両腕を通し手の中に流れ出るのをイメージしていく。


「ミチル様、お見事です。」


先生の声がして、目を開けると、私の手の中に魔石が出来ていた。

おぉ…っ!


初、魔石!

ちょっ、テンション上がってきた!

これ記念に取って置きたいかも!


前世で読んでたマンガなんかには、この手のが絵で散々描かれていたからか、イメージしやすかった。

ビバマンガ!ジャパニーズマンガ最強だね!


「ミチル様、さすがですわ。」


隣の席のモニカが、困ったような顔をしている。

まだ出来ていないようだ。

なんか自分だけカンニングしたみたいで、ちょっと嫌だったので、モニカにもイメージの仕方を伝授する。


「モニカ様、器にある魔力を身体の外に出すことを想像なさって下さい。出す先は手です。

器から魔力が動いて、両腕を通り、手の平から外にあふれるように。」


目を閉じ、イメージを始めたのだろう。

少しして、モニカの手の中に魔石が出来ていた。


「モニカ様、出来ましたよ。」


ぱっ、と目を開けたモニカは目を輝かせた。


「出来ましたわ!」


モニカも、初めての自分の魔石に感動してる。

うんうん、わかるわー!


私とモニカは、あまりに嬉しかったので、周囲の席の子たちに魔石を作るときのイメージを教えた。

作れた子がまた周囲に広めていき、最終的にはたった1コマでクラスの1/3が魔石を作り上げることが出来た。


「まぁまぁ、このクラスは大変優秀ですわ!長い教員人生の中で、こんなにスムーズに魔石作成が出来たクラスはありません。」


先生は興奮しているようで、何度も言っていた。

よっぽど嬉しかったのだと思う。


デネブ先生は、名門カーネリアン家の人間で、優れた才能をお持ちなのだと思う。

努力もされていることだろうけど、基本的な苦労はあまりされてないのではないか、と魔石作成時の説明を聞いていて思った。

魔力を排出するイメージが湧くような説明ではなかったのだな、つまり。

前世でも、名選手が名監督になるとは限らない、って言われていたけど、それと同じことだと思うんだよねー。




お昼休み、つい一つ前の魔道学の授業でルシアンたちも魔石作りを学んだらしい。


ルシアンのことだから、こともなげに作ったとは思うけど、一応どうでしたか?と聞いてみる。


「私と殿下、ジェラルド様と何人かは作成に成功していました。」


なるほどなるほど、やっぱりそうなのね。

こういうイケメンたちはチート級と決まってるからね!


「ミチルのクラスは、かなりの成功率だったと先生がおっしゃってましたが。」


「はい、自分のやり方を周囲の方にお伝えしたら、同じやり方で出来る方が結構いらして。」


「ミチルは優しいですね。」


「そ、そんなことは…。」


罪悪感と、出来た時の高揚感で教えただけだなんて、言えない…。


次回の講義も魔石作りらしい。今日成功した人たちも、安定して作れるようにもう1回ぐらい魔石作りをやって、次に進むとのこと。

今日出来なかった人は、ご自宅などで練習してきて下さい、と言われていた。


「今日はデネブ先生の元に行きますか?」


「そうですね、今後のことでちょっとご相談したいこともありますので、伺おうと思っています。」


サンプルチェックそのものは国がやってくれることになっているから、こちらはそのデータが届くのを待っている。


「相談ですか?」


「はい。」


ちょっと周囲に人がいるので、この話はしづらい。

そう思っていると、察してくれたようで、行きましょう、とルシアンは席を立った。


庭園の散策をしながら、私たちにしか聞こえないぐらいの声のトーンで、話を続けることにした。


「先日のは、貴族のことでしたが、今度は平民に目を向けたいのです。」


「平民ですか?」


「平民の魔力持ちの子供が、何故魔力を持たないのかが分かれば、魔力の有無の理由が分かるのではないかと考えてまして。」


ルシアンに促されて庭園のベンチに座る。

ちょっと待っていて下さいね、と言ってルシアンは建物の中に消えて行き、そう時間もかからずに戻って来た。

売店に行っていたのだろう、手には飲み物が入ってると思われるカップが2つ。


熱いですから、気をつけて下さいね、と言って渡されたのはカフェオレだ。

ルシアンのはブラックコーヒーのようだ。


「ありがとうございます。」


にこっと微笑むルシアン。

くっそう、カッコいい!


はぁ、こういうことがサラッと出来てしまうなんて、ルシアン超イケメン。

モニカが言うには、ルシアンの態度イケメンが発動するのは私に対してだけで、他の女性には適用されないらしい。

またそれが、私の乙女心(一応ある)を刺激するのですよ!


「ミチル、話の続きを聞かせてもらえますか?」


「えっと、私の予想では、平民の魔力持ちは、器が頭にあるのではないかと…。物凄い安直なんですが、頭に近付けば近付くほど魔導値は高くなる代わりに、次世代に引き継がれないのかなと。」


「確かにこれまで魔力を持たないと測定されていた方たちは、揃って丹田周辺に器を持っていたとされていますね。国の測定結果が届くのが待ち遠しいですね。」


それがあると、私の思ってることの半分が証明されることになる。

あとは平民の魔力持ちの人たちが何処に器を持っているのか、なんだよね。

同学年にちょうどいいサンプルがいるにはいるけど、あれには近付きたくない!

…と言う訳で、その辺はデネブ先生に測定してもらえないかなぁ。


私やルシアンはちょっと近付かない方が良さそう…。




放課後、ルシアン、モニカと一緒にデネブ先生の執務室を訪れた。

先生は笑顔で迎えてくれた。


「今、お茶を用意しますから、そちらへどうぞ。」


カウチに3人並んで座る。


間も無くしてデネブ先生の侍女が4人分の紅茶を持って来てくれた。

先生は私たちの正面の椅子に座ると、優雅な動きで紅茶を一口飲んだ。


「さて、本日はどうなさいましたの?」


私はお昼にルシアンに話したことをデネブ先生に伝えた。

モニカにも、執務室に来る途中に説明した。


なるほど、と先生は何度も頷いた。


「それについても、王室主導で動いていただいた方が良さそうですわね。直ぐに準備致しますわ。」


反対はされないと思っていたけれど、ちょっとほっとして、紅茶をいただいた。


「結果が出るまでは、皆さま、お暇なのではなくて?」


まぁ、そう言われてみれば、そうかも。

いつ出るのかも分からないしなぁ。


「本日の講義で実感しましたが、ミチルとモニカ様が他の方々に魔石作成の補助をして下さったお陰で、大変スムーズに進みました。

今後も補助をしていただけると大変助かりますわ。」


勿論出来る限りお手伝い致します、と返事をすると、モニカも勿論ですわ、と頷いた。


「ルシアン様はなさらなくて結構ですわ。ちょっと困った方がおりますからね」と、先生は困ったように言った。

キャロルか、キャロルだな、間違いない。


「今後補助をしていただくことを考えても、先行して皆さまには魔道学の講義を致します。

研究内容によっては、実際に変成術を行なっていく必要もありますからね、講義に合わせていては時間の無駄になりますから。」


それは、嬉しい!


デネブ先生は立ち上がって机上の手帳を取ると、スケジュールを確認したようで、こっちを向いた。


「来週の火の日(前世で言うところの火曜日)の放課後から始めたいのですけれど、ご予定はいかがかしら?」


大丈夫です、と私が答えると、ルシアンとモニカも頷いた。


遂に、変成術が勉強出来る!

うぅーっ!楽しみ!!

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