011.電波系ヒロイン?!

キャロルがどうなったかと言うと、特に罰は受けていない。


けれど、モニカ情報に寄れば、ルシアンにちょっかいを出しすぎているということで注意を受け、ルシアンが指導担当から外れた。


教員の考えとしては、高校の授業も習得済みで、婚約者もいるルシアンならちゃんと指導してくれそうだし、問題が起きないと思ったようだが、キャロル側が問題起こしまくりだった。


初日から速攻でルシアンにロックオンし、そうかと思えば他の男子生徒も手玉に取るような真似をし、三日目にして私のクッキーを叩き割る事件を発生させる。


さすがにこれはルシアンが怒って、もう2度と指導しないと拒否した。

うん、まぁそれは、仕方ないよね…。


三日目にして男子、女子双方とも壊滅的な関係しか築けていないキャロルに、教員たちも呆れており、指導担当は付けないことにしたようだ。


…と言うか、ルシアンに拒否された後、王子とジェラルドが打診されたようだけど、二人とも拒否したとのこと。


うーん…ヒロイン、王子たちに敬遠されちゃってるけど、これから関係変わっていったりするんだろうか??


キャロルにとっては十分過ぎる罰が下った訳だけど、彼女、鋼メンタルだからね、これで終わるとも思えないんだよね。


HRが始まるまで、この前図書室で借りた本を読んでいた所、教室の入り口から名前を呼ばれた。大声で。

ありえない。貴族の子女なら絶対にしない。

つまり、そういうことです。


「ミチル様!」


キャロルは私に駆け寄って来た。

気が付いたら、モニカとその取り巻きが私の周囲を囲んでいた。

おぉっ、私、悪役令嬢っぽくない?


「おはようございます、キャロル様。なにかご用ですか?」


「ミチル様が、ルシアン様を私の指導担当から外すように先生に言ったんですか?!」


どうしてそういう発想になったし。

っていうか、挨拶も無視ですし。


違います、と訂正するより先にモニカが、「その前にミチル様への謝罪が先なのではなくて?」と、冷え冷えした声で言った。

威嚇ですね、分かります!

上級貴族の特有スキルですよ!ちなみに私は使えません!


私のクッキー叩き割ったもんなー、このヒロイン。

あれはチーズケーキになりましたけどね?


「だってあれ!私への当て付けですよね?!私はただ、ルシアン様と仲良くなりたかっただけなのに、婚約者だからって、見せつけなくてもいいじゃないですか!謝るのはミチル様です!」


えっ?私が謝るの?!

キャロルがいつお菓子作ってくるのか分からないのに、当て付けでお菓子作って来たということ?


「…それはまた…斬新な発想ですわね?」


この世が全て己を中心になって回ってると思わないと、その発想はないだろう。


全ての人が自分に注意を向けていて、男子なら好意を、女子なら嫉妬や悪意を、って思わないとそこに帰結しないだろうな。


キャロルは顔を真っ赤にして、私を睨む。

美少女の睨みも怖いです!


本当は直接対決なんかしたくないけど、向こうから突っ込んで来ちゃったし、下手したらモニカが動いて悪役令嬢化しちゃうと嫌だし。

こうして親交を深めていて知ったことだけど、モニカはとても情に厚いタイプだ。

自分の味方が攻撃されたりしたら、絶対に矢面に立つだろう。

現に今、私を守ろうと横に立ってくれているのだし。


モニカ悪役令嬢化フラグは叩き折るぜ!

幸せになって欲しいし!モニカ可愛いから!


「私は先生方に何も申し上げておりません。今回のことは先生方のご配慮によるものです。ルシアン様が指導担当から外れると、キャロル様にはどんな実害がおありなのですか?」


「大ありですよ!ルシアン様は私と一緒にいたい筈なのに、いられなくなるじゃないですか!ルシアン様を苦しめるなんて、ミチル様は本当に婚約者なのですか?!」


電波!電波系きた!

っていうか何処の世界に、自分の婚約者が他の女子といる為にお膳立てする奴がいるよ…。


発想が斜め上過ぎる。これは完全にストーカーの精神構造だ!

論破無理だな、これ!


モニカが私の横で手をギリギリ握りしめてて、握りしめ過ぎて手が更に白くなってる。


どうしたもんかなー。

あっち系の人に何を言えば分かってもらえるのかなー。

多分何を言っても、自分の中で自分の都合の良い方向に持っていくだろうから、意味ないしなー。


キャロルは言ってやったわ!というドヤ顔でわたしを見てる。

凄いわー。呆れる程凄いわー。


「分かったら、早く先生に言ってルシアン様を私の指導担当に戻して下さいね!」


しかも上から!

さすがヒロインと言うべきなのか?!


「嫌ですわ。」


うん、もう、いいよね?


「はっ?」


信じられないとばかりに、目を大きく見開いて私を見るキャロル。

目がこぼれ落ちちゃいそうなぐらい大きいなー。


「婚約者であるルシアン様がこれ以上貴女に関わるのを見ているのは、大変不愉快です。貴女の接し方は、貴族社会での異性への接し方から大きく逸脱しております。それを許容することは出来ません。」


キャロルの中で私は、自分とルシアンの恋路を邪魔する敵なんだから、潔く敵として名乗りをあげようではないか。


「何を持って貴女は、ルシアン様が貴女に好意を持ってらっしゃると判断なさってるのか、お聞きしたいですわ。ルシアン様が私に、いつもどんなお言葉を下さるのか、教えて差し上げましょうか?とても甘いお言葉ですのよ?」


耳まで真っ赤にしたキャロルは、唇を噛み締め、走って教室を出て行った。


出て行った後、思わずモニカに抱きついた。

うー!心臓がばくばくしてるよー!


「もっ、モニカ様ー!怖かったですー!」


あんな、自分愛されてますけど何か?なんて、自分から言っちゃって!

これなんて言う羞恥プレイ!!


ううう、顔が熱いよー!


モニカはにこにこしながら、私の頭を撫でて、よく頑張りましたわ、と褒めてくれた。

周囲の令嬢たちからも、ナイスファイトでしたわ!とのお言葉を頂戴した。


「もう、来ないといいんですけど…。」


「あのご様子では分かっていただけてないと思いますが…それにしても、言葉が全く通じなくて、イライラしてしまいましたわ。」


うんうん、と頷く他の令嬢たち。


ですよねー。


ドアが開いて先生が入って来たので、みなさんにお礼を言って解散し、みんな席に着いた。


朝っぱらから一バトル終えてしまったよ。

キャラにもないこと言ったりしたから、余計に消耗した。




ランチの時間、ルシアンはいつもより機嫌が良いように見えた。


「?何か良いことでもおありだったのですか?」


今日は春キャベツと桜エビのジェノベーゼソースパスタにした。

春キャベツが柔らかくて甘くて美味しい!

桜エビは若干食べづらいところがあるけど、ピンク色がキレイ!


「そうですね、私には良いこと尽くしだったのですが、ミチル様には大変な思いをさせてしまいました。」


え、それって…。

まぁ、あれだけの騒ぎを教室でして、ルシアンの耳に入らない訳がない。

ってああああ、私が言った言葉もルシアンにーっ?!

大変、今すぐ墓の穴掘らないと!!


「ミチル様からお菓子をいただいただけではなく、彼女の指導担当からも無事外れて、それだけでも嬉しいのに、ミチル様が私の言葉をお気に召していただけてることも分かりましたから、幸せな気持ちでいっぱいです。」


満面の笑みから最後、とろけそうな(私が)笑みを向けられて、自ら強制終了ボタンを押したくてたまらない!


否定したいのに、何て言っていいのか分からなくて、口をパクパクさせてしまう。


鬼だ!ルシアンは鬼だと思う!


恥ずかしいから、パスタに逃げる。食べて、食堂から逃げる!

昨日に引き続き、周囲がめっちゃ我らの会話を聞いてることも分かったし、こんな所にいられるかー!


ルシアンはくすくす笑いながらパスタを食べている。

くっそう、キレイに食べるな。

笑ってるのに食べれるってどういうことなの。


食べ終わって、ナフキンで口に付いたソースを拭おうとしたら、スッとルシアンの手が伸びてきて、親指が私の唇をなぞり、そのままルシアンは己の親指を舐めた。


「!!」


「ソース、ついてましたよ。」


い、いや、今、拭こうと、拭こうとしたらね?!

先に貴方が拭いたんですよね?!


周囲の女性たちが撃沈していた。

私も撃沈したい!!


食堂から逃げ出し、図書室に向かいながら、あんなことは止めてくださいと抗議したが、ルシアンは無理ですね、と軽く拒否する。


むきゃーっ!


図書室に入ったので、声のトーンを落とす。


「心臓が持ちませんから、駄目です!」


「うーん、私もつい、やってしまってるので、気をつけますけれど、お約束は出来かねます。でも、気をつけますね?」


いい笑顔です、ルシアン。

私の言うことを全く聞く意思がないことだけは、よく伝わりましたよ!

くそう!このイケメンめ!


「先日の本は読み進めてますか?」


お、普通の会話。

図書室に入ったからかな?


「半分くらいです。」


今まで本を読んで知っていたことを、更に掘り下げている内容で、あー、なるほどねー?と納得することが多い。


「来週から魔力に関する授業が始まりますね。」


「楽しみです。」


「ミチル様は、魔力に興味がおありなんですね。なにか目的がおありなんですか?」


目的?それはもう、魔力でもって前世の便利ツールを復元させようという魂胆ですよ!


「魔力のコントロールが上手くなれば、将来的に、領地経営でも助かりますね?」


やめてー将来のこと言うのやめてー!


うぅ、ついこの間まで、ルシアンに振られたら修道院行きだ、と思って戦々恐々としていたのに。

ルシアンとの結婚はありがたい、ありがたいですが、今までは漠然としていたものが、実感を伴って迫って来るから、恥ずかしくて仕方ない。


いや、これはひとえに、ルシアンが私に甘々なことを言って困らせるからであって…。


「!」


ぼんやり考え事をしていたら、ルシアンがいつの間にか私の髪を手で弄んでいるし、い、今、頰に何か、何かが触れた?!


「ほ、本を読んで下さいませ!(小声)」


「それは帰ってからします。今は、ミチル様と親睦を深めたいと思っています。ここでしかミチル様とは一緒にいられませんから。」


親睦って言うか!親睦って言うか今のは!


「お触り厳禁です!」


貴族は結婚までは不必要に相手に触れてはいけないのだ。

キスとかそれ以上とか駄目!絶対!


ルシアンは私の髪から手を離した。

笑顔が怖いです。絶対何か考えてます、私に不利な方向で何か考えてると思います。っていうかもう思いついてると思います。


「では、私からの愛情表現は言葉でよろしいですか?」


まさかの言葉攻め!!


つい一昨日、言葉で強制終了させられた身としては、言葉すら恐ろしい…!!


「ミチル様は今日もかわ」


咄嗟にルシアンの口を両手で塞ぐ。


「甘々禁止です!!」


ルシアンは容易く私の手を口から離すと、私の手に口付けた。

余裕綽々なルシアンとは対照的に、私は顔が熱くて仕方ない。


「ミチル様は私の言動は、お嫌ですか?」


絶対そんなこと思ってないだろ!っていう疑問を口にしてくる。


うぅ…。

分かってるんだ、自分が幸せなわがままを言ってることは!


こんなイケメンに愛情表現されまくりで、幸せじゃない筈がない。

だけど毎回毎回、顔も身体も熱くなってしまって、恥ずかしくて、どうしていいのか分からん!


「……ど、どうしていいのか、分からない、です。」


「分からない?」


ルシアンに両手を掴まれたままなので、逃げるに逃げられない…!

多分、これは、ルシアンが満足のいく答えを言わないと、手を離してくれないに違いない。

手を離そうとしたらぎゅっと強く握られてしまった…!


「は、恥ずかしくて、何も考えられなくなり、ます…。」


ふぅん?と、楽しそうな、意地悪な笑みを浮かべるルシアン。

まだ…まだ駄目なのか…!


「ど、どきどきして、心臓がおかしくなりそうです…。」


ここでようやく手を離してもらえて、ほっとしていたら、左の頬に柔らかいものが…!


きょっ、強制終了、させて下さい…!!

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