イトスギ

ノオネ

第1話

目の前にいる鬼をきつく睨み付ける。謎の威圧感に変な汗をかく。

こうも『二人の』ハンターから見下ろされると流石に怖いな…

が、それでも鬼をにらみつける目を緩めない。そんな傭兵を見た黄衣の王とリッパーは顔を見合わせ…


「?!」


ひょいっと、傭兵をロケットチェアから乱暴に降ろす。それから黄衣の王の触手が傭兵の片手首に絡みつき、だらんと体を持ち上げる。半ば虚ろになりかけている目が2人を見つめる。

みんなはもう出れたかな。しかし、変な仕様が増えたものだ。

などと数秒自分の世界に入り込んでいる間に、もう片方の手首に触手が絡みつき、だらしなさげに体が持ち上がる。

何されるんだ…。

だんだんと意識が薄れて行き、目に光が失いかけたその時、首筋にひた…と冷たい何かが傭兵の意識を現実へと引き戻す。

それが、リッパーの爪だと気付くのに数秒。触手が俺の口内に無理矢理押し込まれたのだと気付くのに数秒。そして霧がたち、目の前の視界がぼやけ…否、リッパーの仮面が被せられたのだと気付くのに数秒。この数秒の時間が、異常に長く感じる。


「や、めろ…!」


あぁ、はやく俺を荘園に戻してくれ。

次第に2人の手つきがいやらしくうごく。

くそ、くそ…!何なんだよ。何がしたいんだよ、こいつら…!!

悔しくて、辛くて、だけど、身体が快感を覚えていく。そちらへと突き進んでしまう。あんなに屈辱で、今すぐに消えてしまいたいと思ったのは初めてだった。

はやく、早く終わってくれ…。はやく…。もう嫌だ。みんなの所に行きたい。帰りたい……。

あの時は無情にも、ただただ時間が過ぎるのを待った。



__。

___。

_____。



「!!!!」


がばっと勢いよく起き上がる。

ゆ、夢…?

見知らぬ天井に首をかしげる。昨夜、あれほどにも乱暴にされたのにも関わらず元通り綺麗に整頓されていた。まるで、昨日のアレは夢であったように。今すぐにその扉をあけてエミリーがカンカンになりながらみんなを起こす声が聞こえてきそうだった。まだ覚醒しきっていない頭で自分に言い聞かせるように問いかけた。

そんな小さな希望を胸に扉を見つめた。すると、ナワーブが起きたのを見計らったかように部屋の扉が開く。半ば放心状態だった脳が徐々に


あぁ、そうか…


徐々に、


そうか、俺は…


徐々に溶けて行き…

塗り潰されて行く。小さな希望が絶望へと変わった時、綺麗な白が、どす黒い黒に塗り替えられた時、あぁ、こういう気持ちなんだと、知った時だった…。

完全に稼働し始めた脳が


『諦めろ』


そう命令を発信した。

目の前に仮面を外したリッパーと、フードを脱いだ黄衣の王がこちらを見ていた。子供が新しいおもちゃを買い与えられ、目を輝かせているように、心底楽しそうな目で、こちらを見ていた。

その時、俺の脳はもう考えることをやめ、すべての感覚を遮断し、この時間が、今世の人生が、はやくおわることを願った。


みんな、ごめん…。












もう…


もう逝きたい…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イトスギ ノオネ @Noone0901

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ