第61話 向き合えなくなった理由

「そうやって悪循環になっていったのか?」

 ユイルは頷いた。

「そうです。でも、シュキラを離れてルピアに行こうとは思ってはいませんでした。僕は父に反抗をしたくて、喧嘩をしていたけれど、シュキラには大切なものがあったから」

「大切なもの?」

 するとユイルはふっと笑った。

「ナミです。おじさんの姪っ子ですよ」

「……ユイル」

 彼はゆっくりと深呼吸すると、自分の心の内を吐露した。

「僕はずっとナミが好きでした。いえ、今もずっと……。本当は彼女と将来を歩みたかった。けれど、喧嘩を機にそれが上手く想像できなくなっていったんです」

「それはどういう……」

 するとユイルは苦笑する。

「それこそ、おじさんに軽蔑されるようなことを沢山してきたんです。喧嘩をする連中とつるむようになると、未成年のくせにお酒を飲むようになる。お酒を飲むようになると、女性と関わるようになっていく。僕はそのうちに、色々な女性ひとと夜を共にするようになっていきました。あんなに一途に思っていた人のことを胸に秘めておきながら、体のストレスをそういう女性たちで発散していったんです」

 スバルとナミを「シャロン」で引き合わせたあのときまでは、ユイルもそこまで踏み込んでいなかった。まだナミとの将来を見据えて、いつか告白しようと胸に秘めていたのに、スバルが再び夢を叶えるためにルピアに向かった途端、自分の夢が消えてしまったかのようになってしまったのである。

「それがいけないことだと、分別が付かなかったのか?」

 クレリックの声は冷めていた。ユイルはそれに素直に頷く。

「どうしてなのでしょうね。今考えると、引き返すチャンスはいくらでもあったと思うのですが、あの時は全てがどうでもよくなってしまって、その快感に身を委ねてしまったんです。

 夜になると、僕を求めてくる女性は沢山いて、それに嫉妬する男たちを見るのが気持ち良かった。何でそんな風になってしまったのか、自分でもよく分からないのですが、認められたような気がしたんでしょうね。求められ、僕を見て嫉妬する。それは僕がいて初めて起こりうることだから。

 その一方で、僕の夢は叶えなくても誰も困らない。そう思ったら、ずっと夜の町をさまよっていました。

 本当は、父が言っている事を間に受けなければ良かったんです。公務職を目指していると言いながら、自分の進むべき道に進めばよかったのに、何だかんだ言っても父に認めて欲しいという気持ちが先行していて、それが出来ないのなら何をやっても駄目だと思っていたんです」

「……息子は、どこか父親に理解して欲しいと言う気持ちがあるもんな」

「分かりますか?」

 困ったような顔をするユイルに、クレリックは呆れた顔で頷く。

「ユイルのやっていることは、本当に子供の我がままだとは思うが、父に自分のやりたいことに気が付いて欲しいという気持ちは分からないでもない。でも、嬢ちゃんに振り向いて欲しかったら、ちゃんと正々堂々と戦えばよかったのに、と思う。ユイルのやっていることは、ただの逃げだ」

「本当ですよね……。そして色々な女性と交わっているうちに、僕はナミと向き合えなくなった。だって、心は彼女に向いていても、体は別の女性と交わっているんですから。当然ですよね」

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