第50話 雨の夜の訪問者
それから数日、ナミはユイカと穏やかな日々を過ごした。
ナミはララと和解し、「彼を児童相談所へ連れていくまで協力して欲しい」と頭も下げた。
警察がナミの部屋に来た所をみると、ユイカから少しでも早く離れたほうが良かったが、ようやく彼と心を通わせることが出来たのに、すぐに突き放すことはできなかった。
家にいると再び警察が来るかもしれなかったので、日中は「スイピー」にユイカと共に出勤し、仕事をこなした。色々と考えなくてはいけないことは沢山あったが、一気にやろうとしても失敗するだけなので、出来ることを少しずつすることにした。
そして、ユイカがナミとの生活に慣れてきた日のことである。
その日の夜は、酷い雨が降っていた。
「外が気になるの?」
ナミは布団に入ったユイカに聞いた。彼の目はとろんとしていて、眠たそうなのだが、雨の音が気になるのかカーテンがかかった窓を眺めていた。
「雨が……」
「雨の音? うるさくて眠れない?」
「ううん」
するとユイカはふるふると首を横に振って、布団を被った。
「何でもない……」
「そう」
その時だった。ナミの部屋のインターフォンが鳴った。
「……」
ナミは壁に掛けてある時計を見た。時刻は既に9時を回っている。
「だれ?」
ユイカが布団から顔を出し、ナミに尋ねる。彼女は首を傾げて分からないという仕草をすると、彼の布団を軽く叩いた。
「見て来るね」
ナミは玄関に置いてあるスリッパに足を入れて、ドアスコープを覗いた。
「!」
彼女は玄関先に立っていた人物を見て目を見開いた。
そこには、雨合羽を着た体格のいい警官二人が立っていたのである。ナミはゆっくりと部屋の奥に戻ると、小さな声でユイカに言った。
「ユイカ。押し入れに隠れて」
彼はその指示に眠いながらもゆっくりと身体を起こし、小さな声で尋ねた。
「……来たの?」
「うん」
「分かった」
二人の会話はそれで十分だった。「警察が来てユイカが見つかったら、もう一緒にはいられないからね」ということを、ナミは彼に話していた。つまりこういう事態に備えて、どこに隠れるのかを決めていたのである。
ナミは彼が隠れたのを見届けると、玄関に向かった。その間、インターフォンが二回鳴った。
「……うるさいな。分かってるわよ」
ナミは小さな声で毒づくと、今度は無理矢理笑顔を作った。
――怒らないで、冷静に対応すること。
それがジェシカに習った警察官を追っ払う方法だ。これから、ユイカが連れていかれるか否かが、自分の対応にかかっている。
彼女はドアノブに手をかけ、深呼吸をした。
「今、開けます。お待ちください」
そして彼女は、ドアを開け放った。
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