第25話 スーパーマーケット
ナミはヤヒリの診療所を出ると東に向かい、1区切りが20段ほどある階段を2つ降り、下の方にあるスーパーマーケットへ向かった。
「シュキラ」は丘にできた町で、その周りを渦巻き状に道が作られてある。しかし、その道だけだと目的地に着くまで遠回りしてしまうことから、次第に上と下とを結ぶ階段が沢山作らられるようになった。今では、その階段を使えば下りたい場所にすぐに降りれるようになったが、これからは車が道を走れるようにするために階段を少しずつなくしていくのが町の方針だと言われている。
ナミは駆け足で階段を降りスーパーにつくと、人目を気にしながら中に入った。先ほどの出来事で沢山の野次馬に囲まれたので、もしかしたら見ていた人の誰かに見られているのではないかという錯覚に陥っていたのである。
(早く買い物を済ませよう……)
ナミはカートを引っ張り早足で店内を回る。
急いで買って帰ろう。
そう思う一方で何を作るか頭に思い浮かばず、食材を片っ端からカゴに入れる。タマネギに、トマト、ニンジン、ジャガイモ、ブロッコリー、カボチャ、ラディッシュ。お肉もひき肉に、ばら肉、骨付き肉。主食は食パンに、バゲット、そしてパスタ。
(もういいや、これで……)
ナミはカゴに入るだけ入れると、レジに向かい会計をしてもらう。だが、レジに行ってから食材をこんなに沢山入れたことを後悔した。会計に時間が掛かるのもそうだが、よく考えてみたらこの荷物を自分の部屋まで持って行かなくてはならない。このスーパーから丘の中腹よりも上にある、ナミの部屋まで行くには、少なくとも階段を100段近く登らなくてはならないのだ。
(失敗したな……)
そうは言っても、今から「買うのをやめます」というのも面倒で、ナミは仕方なく買った荷物を全て持って行くことに決めた。
だが、さらに後悔は続いた。
「10,450セレールです」
「ふぇっ!?」
レジの店員に合計金額を言われてナミはようやく目が覚めるような思いをした。自分一人だけの生活で、一回当たりの買い物で食費が1万を越えたことなどなかったのである。そのため、ナミは変な声をあげてしまった。
「どうかしましたか?」
店員が訝し気にナミに尋ねるので、彼女は何もなかったかのように装った。
「あ、いえ……いえ、何でもないです」
(財布に痛い……)
ナミはお金を支払いながら、ため息をついた。
会計が終わると、買った品物を憂鬱な気分で貰ったビニール袋に入れる。だが、重いものを入れると手がちぎれそうになるので、レジの隅に置いてあった段ボールを頂戴してそれに詰めた。ビニール袋2つに、段ボール1つ。何とか持って行けそうである。
「よし……行こう」
ナミは両方の手首にビニール袋を掛け、大きい段ボールを抱えると、スーパーを出て家に向かって歩き出した。
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