第9話 彼に似ている子

「……ユイル……、イルクラナス?」

「はい」

 少年は、しっかりと顔を上げてナミを見た。廊下の明かりに照らされたその顔は、ユイルの幼いころとそっくりだった。

(髪はブロンドだから違うけど、白い肌も、その顔の作りもユイルそっくり……)

 ナミは恐る恐る、少年の頬に触れる。すると、彼はふふっと笑った。

「くすぐったいです」

 ナミはその瞬間、心の中から何かがあふれ出てくるのを感じた。温かくて、優しくて、愛しいものだった。涙が瞳に浮かぶのを感じながら、決して流すまいと心に決め、彼女は笑って彼に言った。

「そっか……。君がユイルの子供なのね。いえ、あなたのお父さんから以前手紙を貰って、あなたが生まれたことを聞いてたよ」

「ぼくのこと知ってるんですか?」

 少年が目を大きく開き、驚きと嬉しさを顔を浮かべる。

「生まれたときのことだけだけどね。知ってるわ」

「そうなんだ……。あの、お父さんは他に何か言ってましたか?」

「え?」

「ぼくのこと、何か言ってましたか?」

 少年の質問に、ナミは戸惑った。

 生まれたときのことはユイルの手紙で知っている。しかし、それは生まれたことの喜びを示すようなものではなく、単なる報告だった。

 その手紙は、ユイルの母親であるカンナに見せてもらっていて、ナミははっきりと覚えている。手のひらに載るくらいの、正方形の白い紙の真ん中に小さく、女の子のような字で二言だけ書かれていたことを。


 結婚した。

 子供が生まれた。


 ただ、それだけである。

 しかし、少年の期待いっぱいの顔を見れば、彼が何を望んでいるのか手に取るように分かった。彼は、父親が自分のことを他の人に、どんな風に話しているのかを知りたがっているのだ。

「そうね――……」

 ナミは口を開いて、有りもしない事実を述べようとした。

 だが、ナミはその時クレリックの話を思い出した。


 ――ユイル、知らねえか?


 ――ユイルの母親からも、以前から探してくれとは言われていたが、仕事が忙しくてそんな暇もなかった。だがな、今から3ケ月前、俺の所に二人の男が現れた。


 叔父の話を聞く限り、ユイルは今、人に背を向けなければいけないようなことをしているのではないかと、ナミは思っていた。

 だとするならば、余計有りもしない事実を言うべきではないと思い、ナミは彼の為に嘘を吐くのを止めた。

「ごめんなさい。生まれたときは手紙で教えてくれたんだけど、それ以外のことは知らないの」

「そう……ですか」

 とても残念そうな少年を見てナミは心が痛んだが、もう言ってしまったのだから取り返しはつかない。彼女はこれで良かったのだと、自分に言い聞かせた。

 そして、ナミはしなくてはいけないことがあった。

(どうして、この子が私の家の前にいるのかを聞かなくちゃ)

 何故、ユイルの子がここに来たのか。その理由を知らなくてはならない。

「ねえ、立ち話も何だし、まず部屋に入らない?」

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