ハイランダー・オールティアーズ ~《極致魔剣士》と《全能魔導士》の放浪譚~

暁 葵

ニアマリア帝国篇

第1話 〈黄昏の魔笛〉

 妖精や魔物、神々が集う神秘の世界・ヴァルへリア。

 この世界の人間は、子供大人関係なく一つの「職業」というものを持っている。

 例えば、「剣士」や「魔法師」、「僧侶」や「弓使い」などその他諸々数多くの職業が存在する。

 何故、人々は必ず「職業」を持っているのか? それはこの世界が魔物で溢れ返っているからなのだ。いくら最弱な魔物とはいえ、平均の死亡率は約六割だ。人類の大半が魔物に殺されているのだ。

 故に世界は人々に魔物を討伐するという人生最大の使命を与えた。

 このことからヴァルへリアに”魔法”というものが誕生したのだ。

 妖精や神々の知恵と力を経て、人類は魔物に対抗できる手段を編み出したのだ。魔物は物理攻撃に強い耐性を持ち、太古の時代では戦闘するだけでも苦難だったのに、今現在となっては魔物の生息数も着々と減っていっているのだ。

 

 神暦864年――西を統べる帝国・ニアマリア。そこの中心部に位置する帝都イルクリークのとあるギルドに、二人はいた。


「なぁ、リア」

「どうしたの? お兄。またカードゲームでもやるの?」

 ギルド【エル・レクイエム】の二人部屋、赤みがかった黒髪の少年と雪のように麗しい銀髪の少女がベッドの上で会話をする。

 少年の名前はロア・ゲノズィーバ。もう一人の少女はリア・ゲノズィーバだ。

 ”ゲノズィーバ”という同一のファミリア・ネーム、文字通りこの二人は兄妹である。

「いや、カードゲームも良いが呼び出しを喰らった。お前も来てくれ、リア」

「……メンドクサイ。寝るからお兄だけ行ってきてね~」

 そう言ってリアは布団に蹲り、眠る。この間僅か一秒…ロアは溜息を吐いてリアを布団ごと引きずって強制的に連行する。

「いやー、お兄にイケナイコトされちゃう~」

 リアは狸寝入りしていたかのように起き上がり、全くの出鱈目を悪戯まがいに叫ぶ。ロアはリアの頭をポカんと軽く叩く。

「ほら、起きてるならさっさと立ってくれ。あと俺はそんな非道徳的なことはしない!」

「もう……冗談なのに……」

「冗談にしちゃタチが悪いな」

「それほどでも?」

「ハハハ、褒めてねぇよ早く起きやがれ」


 なんやかんやで、ギルド長の部屋に到着したロアとリアは扉の前に立ち、ロアがノックを二回。

 コンコン――扉の向こうから「入りなさい」と声が聞こえ、扉を開けてギルド長室に入る。

「お邪魔しまーす」「……お邪魔しま~す」

 扉を閉めて寡少な挨拶をし、問答無用で設置されていたソファに座る。

「相変わらず礼儀が生っていないな貴様らは」

「そりゃ、もう慣れてるからな。なぁ? リア」

 ロアは反省することを忘れたかのように満面の笑みで返答する。そしてその返答に対しロアは妹に同調を求める。

 リアは「うん」と頷き、大胆不敵にギルド長に歯向かう。しかしギルド長は呆然とした表情で頭を抱える。

「はぁ……まあいい。今日はだな、一つ重大な情報が入ったんだ」

「何だ? もしかして世界の終焉とか? 何てな!」

 冗談気味に笑いながら適当に言うロアに、ギルド長は予想外の首肯をする。

「そうだ、世界の終焉にまつわることだ」

「ファッ!? まさかの予想的中しただと……驚いたぁ」

 ロアは適当に言った冗談がまさか的中するとは思わず、裏返った声を上げてしまった。

 裏返った声を上げた兄を大胆に無視してリアがその「世界終焉」のことを問い質す。

「……で、どういうことギルド長?」

「ああ、実はここ最近、とある〈神具〉が発見されたんだ。名前は〈黄昏の魔笛ギャラルホルン〉という」

「〈黄昏の魔笛〉……か。それはどのクラスの〈神具〉だ? 能力は?」

 ロアは「世界の終焉」と聞いてギルド長に問い質す。ギルド長はロアの眼前に手を翳す。

「まあ待て。順を追って説明する――まず、〈黄昏の魔笛〉はエインヘリャルの岩窟で発見された笛で、その能力は”世界の終焉…ラグナロクを引き起こす”というレイドの鑑定だ」

「レイドの鑑定だったら…信用できる。……でも、そんな危険な〈神具〉を私たちに報告して、何の意味が?」

 リアが肝心な疑問をギルド長にぶつける。この二人に何を求めているのだろうか? ギルド長は手を組んで本題に入る。

「簡潔に言おう――〈黄昏の魔笛〉は二十の神々が封印している。【エル・レクイエム】最強の二人なら、神々や魔物と渡り合えるだろう?」

「……もしかして、神々と話し合いをして封印を強くするの……?」

 リアが首を傾げてギルド長に質問するが、ギルド長は首を横に振る。

「今の神々だって相当苦労しているんだ、話し合い程度で封印を強くできると思うか? リア」

「……じゃ、どうするの? 私あまり戦いたくないよ~?」

「悪いが、君の願いは叶いそうにないんだよ、リア。つまり僕が言いたいのは――」

 ロアは完全に察してしまった。戦いを要する、神々と魔物、封印……パズルの破片が嵌った。

 

「ロア、リア。君たちにはこれから神々を殺す旅に出てもらう! その為にこれから――ギルドから追放するッ‼」


 一瞬、思考が停止してしまった兄妹は、我に返った唖然とする。

「は? え? ちょっ………」

「何でそうなるの? 私たちはクエストをするだけなのにギルドを追放なんて…不服」

 リアはギルド長に当然の苦情を言いつける。当たり前のことだ、いきなりギルドを追放されるなんて、文句で頭が埋め尽くされる事案だろう。

「違うんだ。神は世界の人々一人一人を見ている…つまりこのコトも露呈する。そうしたらこのギルドが滅ぶだろう? だったら犠牲を減らした方が合理的だよ」

 ギルド長、見た目に反してギルドと保身の為に堂々と人を犠牲にする…ロアは憤慨する。

「待て待て! 俺らが死んでもいいってか!? ぶっ飛ばすぞテメェ‼」

 ロアはギルド長の胸倉を掴み、脅迫する。しかしギルド長は全く動じず、ただロアを落ち着かせようとする。

「違うんだよ、僕は君たちが死ぬとは思えない。神々の力にひれ伏して死ぬほど、君たちの志は低くはないだろう?」

「……そうだな、すまん。取り乱した――分かった。その依頼を引き受ける…が、報酬は弾んでもらう……それでいいか? リア」

「勝手に話進めないで、お兄。…だけど、私もそれに乗った……!」

 リアは微笑みながらロアに便乗する。交渉成立したことに喜ぶギルド長は、早速退団書を取り出し記入する。


 ――これで、二人は完全にギルドから追放され、そして始まる。


 神々を殺す旅が――――。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る