第5話「未来視の魔眼」
――夢を視た。それは幼い頃からたまに視る夢で、変に現実味があって違和感があった事を覚えている。徐々にその夢はハッキリとして来て、声も良く聞こえたり顔が見えたり、色が付いたりと変化は様々だ。
「また、同じ夢……」
その夢の世界では、私と同じくらいの少女と出会っていた。同じく騎士の道を目指し、同じく魔法も扱える少女の姿。その姿を見る度に、私は不思議と高揚感に満ちていた。
「お嬢様、何か気になる事でもお有りなのですか?朝から気に病んでいる御様子ですが」
「気に病んではいないわ、グレゴール」
「では、何か悩みでも?」
「悩み、というのとは少し違うわね。最近視る夢が、妙に現実味があるなと思っているだけよ」
「ふむ。お嬢様が視る夢、というのは聊か無碍には出来ますまい」
「あら、どうしてかしら?」
「お嬢様は魔眼をお持ちだ。それがもし未来予知ならば、その夢が現実になるという事でもあるのではないですか?」
未来予知、その線は考えていなかった。そう、私には未来が視える。幼い頃という事もあり、無意識に発動してしまっていたのだろう。やがて訓練をしながら慣らしていき、視る未来を限定出来るようにする。
それが当時の私が訓練した内容だ。そして年月が経ち、私は視る未来を限定する事に無事に成功した。魔眼は暴走すれば、持ち主の精神を汚染し、周囲に災いを齎すという話をグレゴールから聞いていたが問題なく事は運べたらしい。
――そして11歳を迎えたあの日、ラルクの街で夢の少女と擦れ違う事が出来た。これも夢を視た事で偶然を装った仕組まれた運命なのだが、それでもやっと会えた事に幸運を覚える。
まるで恋でもしているかのように、私は彼女……リーサ・アルファード・アルテミスに出会えた運命に感謝している。幼い頃から視ていた彼女に出会えた私は、今この場に居る。
「フフフ……運命に感謝を」
「いきなりなんですか」
「いえ、少し貴女に出会えるまでの事を思い出していただけ。だけど、やっと貴女に会えた。対等と思えるかもしれない相手にっ!――はぁあっ!」
「っ……!?(ここに来て先手を取って来ましたかっ)」
先制攻撃をして来なかった私が、防御を止めて攻めの姿勢を見せる。攻撃を仕掛けていた彼女からすれば、私の動きは考えていなかったのだろう。少し焦った様子が表情にも出ている。
「どうしましたか?リーサ……いえ、理沙さん。貴女の実力はその程度?」
「くっ……」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『お前の実力はその程度か!!理沙!』
彼女の言葉を聞いた瞬間、私の脳裏に記憶の中に居る父の声が響いた。道場で一人、父と相対していた時の記憶は全てボロボロになっている物ばかりだ。いつまで経っても勝てなくて、いつまでも成長が見えない私に父は苛立っていたのだろう。
振られる木刀の威力は凄まじく、大人の力で勢い良く攻められる。受ける木刀から手へと痺れが伝わり、やがて重みに耐えられなくなった私の手から木刀が離れる。
「きゃっ……」
『立て!その程度ではないのなら立ち上がれ!お前を弱く育てた覚えは無いのだ!』
「……っ……!」
――うるさい。
『さぁ立て!立たなければ死んでいるのと同じだ!お前の握っているそれは何だ!その武器を持ったのなら、敵を斬れ!』
――敵を斬る?そんな事は分かり切っている。だからこそあの時私は……貴方を、父を斬ったのだ。
「っ!?(何、この威圧感は……彼女から感じるこれは、今までの殺気よりも濃い)」
「その程度、と言いましたね。良いでしょう。今から私は鬼となりますので、どうか――死なないで下さいね?」
「――!!(不味いっ、魔眼よ)」
「遅いですよ」
「っ!?くっ、きゃっ……!」
左右から回り込んだ一撃だったが、読まれるのならば速度を上げ、そして二手三手先の動きを組み込めば良いだけの話だ。読まれるのならば、読まれても困る事の無いぐらいに手数を増やせば良い。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
咄嗟の判断により、サーシャは魔眼で未来を視た。リーサの動きが左右に展開され、回避したとしても魔法を放たれて追い討ちを受けるという未来だった。それを視た私だったが、彼女の動きに反応する事が難しくなった。
攻めていた瞬間から一点、攻め始めた瞬間から一点、私の立場は追う方から追われる方へと変わった動物になった気分だった。
私の前に立って武器を持つ彼女が、私の事を見据えるその視線を見た瞬間に寒気が走った。
『今から私は鬼となりますので、どうか――死なないで下さいね?』
リーサの言っていた言葉の意味を、サーシャが把握出来た瞬間だった。そして同時に感じた事があった。これがリーサの本気だと、訓練ではなく、相手を殺す気で振るった戦い方だと感じるのであった。
「言い返すようで失礼ですが、あえて言わせて頂きますね?王女殿下。――貴女の実力は、その程度ですか?」
「フフフ……そう来なくては、面白くない」
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