Curiosity killed the cat

あわい しき

ガラスの外の僕

 抱えられるほどの大きさのガラスの瓶の中に僕はいる。

 僕はそれを外から見ている。

 液体の中に浮かぶ約1kg強のピンク色の物体には、無数のしわが刻まれている。

 あれは僕だ。

 でも、あれは本当に僕なのだろうか?

 ガラス越しに見つめているそれはもしかしたら、ホログラムか何かで本物ではないのかもしれない。

 ガラスに触れても生暖かさしか伝わらない。

 ガラスの瓶を抱える。それは重かった。

 ガラス瓶の中は液体で満たされている。だから重いのかもしれない。

 そもそも、これが僕なのかどうなのか、どうして僕は知っているのか。

 これが僕なのであれば、今ここにいる僕は誰なのか?

 この体はいったい何なのだろう。

 僕が僕を見つめるなんでパラドックスが起きうるのか。

 僕は液体の中でぷかぷかと気持ちよさそうに浮かんでいる。

 なんだか、無性に僕は腹が立った。

 僕はこんなに大変な思いをしているのに、僕はこんなところで悠々と過ごしている。

 あまりに理不尽だ。

 ふと、思った。

 もし、このままこれが、落ちてしまったらどうなるのだろうか。

 このガラスは強化ガラスならば、壊れないだろう。

 そうしたら、この中のこれは無事だ。

 でも、ガラスだったら壊れたら、中身は高いところから落ちたトマトのようになるかもしれない。

 そうだ、これはそもそもレプリカで、僕ではない。

 レプリカならば、潰れても何の問題もないんじゃないか


 そもそも僕はここにいるじゃないか。


 


 このまま落としたらどうなるのか、とても気になる。

 だが、僕はその考えをやめて、ガラス瓶を元の場所に戻そうとした。腕はずいぶんと疲れていた。

 足元で「にゃー」という鳴き声がした。気になって足元を見る。


 僕は、腕から力を抜いてしまった。

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Curiosity killed the cat あわい しき @awai_siki

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