星闘
始まりは何十世紀前になるかわからない。
念のため言っておくと、世紀というのは古典文学や歴史学を学ぶ者にとっては常識の「100年を1世紀とする」数え方だ。
奴らが言うところの「いつでも発情期のハダカケナシザル」である我々と「タマネギやチョコレートを食ったら死ぬ犬っころ」の奴らが偶然出会って、不幸にも奴らを含む我々は超高度知性体文明にこの星系に捕えられた。
もっとも、我々や奴らの正体である「サル」や「犬」、奴らの弱点である「タマネギ」や「チョコレート」など見たことも聞いたこともないし、日記以外のデータアーカイブからはすでに消え去った単語である。
ともかく、奴らと我々は正式な或いは星式の決闘をはるか昔に始め、何十世代にもわたって戦った結果、自分たちの勝利条件や、敗北条件、超高度知性体に提出する決闘終了の合図を忘れてしまっていた。
条件をイーブンにするためにベンダーボットと呼ばれる自動販売知性体からは両軍同じものが支給される。オリジナルの武装はお互いに十数世代も前に消え失せていた。
その結果として、超高度知性体(面倒なので以下上様)の計らいによって敵前逃亡が許されなくなったし、超高速通信はもとより封鎖されているので、オリジナル文明の救援が届くのがいつになるかが全く分からなくなってしまった。
なんせ、この星系を脱出しようとした瞬間にスタート位置にいつの間にか戻っているほどの超文明なのだ。閉じ込めることが容易なら、近づけさせないことはそれより遥かに簡単だろう。
戦いに
すくなくとも、お互いの現在のトップレベルの研究者が一生をかけて数億人/年ほどの基礎研究の差があるだろうとのことがわかっただけだった。
本国のオリジナル文明の研究施設があったら時間はかかっても少しずつ研究が前に進むこともあったかもしれないが、そんなものはすでに全てベンダーボットからの支給品に置き換わっていた。分析しても、肝心なところは上様が隠し放題なのだ。
前置きが長くなってしまったが、我々通称「猿人」と奴ら通称「犬人」の奇妙に見える星闘が行われる由来はこんなところだ。
以下、星闘記録となる。
猿人「我々は諸君らに対し、断固たる決意で無慈悲なる紅蓮の炎を打ち出すことを決意した。シ-26-アルファに対し、126°の角度でもって、来たる共通時8/21の
1255に諸君らの艦艇1艇を落とすに十二分な威力をして紅蓮の炎の一撃はそこに存在するものを完膚なきまでに粉砕するであろう。」
犬人「我々は諸君らの攻撃に対し万全たる防御をもって答えることにする。諸君らの惰弱な一撃程度では我らの艦艇に塵一つの傷さえつけること能わぬだろう。我々の鋼鉄の意志の具現たる盤石なる防御に畏怖するがよい。」
つまりこういうことである 以下意味
猿人「指定の座標に指定の時間、攻撃するね。120%の防御で守れるから防いでね。一発だけ撃つからね。」
犬人「おけまる。必ず防げるように多めに防御しとくから。0ダメージになるように調整するから二発目撃ったらダメだからね。」
こんな感じで戦いの日々は過ぎていった。
そんなある日に異変は起こった。
猿人側の艦艇が連絡、伝達、或いは操作ミスにより1艇落とされてしまったのだ。
無人クラスの艦艇だったので人的被害はなかったが、猿人側には動揺が走る。
そこにすかさず犬人側からの打電である。
犬人「我々の断固として貫徹たる一撃が諸君らの惰弱な艦艇を打ち破ったことは歴史的快挙であり、同時に誠に遺憾である。ともに戦い、競い合い、高めあう宿敵として、自軍の不備の付けは支払われるべきだからだ。時に、我が軍にも偶然、同クラスの1艇が資材と整備の不良により孤立している。聡明にして、卑劣かつ老獪な諸君らがこの好機を逃すわけはないと思うのだが、諸君ら腰抜けどもは撃ち返すような勇気を持ち合わせてはいないのだろう。」
要はいつも通りだった。意訳するとこうである。
犬人「ごめんごめん、マジで当たるとはしかも沈むとは思わんかった。どっちのミスかはわからんけど、こっちも同じくらいの1つ撃たせてあげるからチャラにして。撃ち返さなかったらこっちが1有利なままになるからね。ちゃんと撃ち返すんよ。」
こうして、今日も平和は守られた??
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