5.
後日談というか、今回の顛末。
気が付けば現実世界に戻っていた私は、自宅に戻り、憑りつかれたようにノートパソコンと向かい合って、文字を叩き打った。文章を書くのは久しぶりだったので、
さて――と。ひととおり整え終わった、「優しい怪談」を眺めつつ私は考えた。この物語を、どんな風に風聞しよう? そしてその先、どんな人が透子さんの元を訪れるのか――考えるとゾッとしないが、それが私の使命というか、約束というか――なのだから仕方がない。まぁ、できればクラスメイト達が引っかかってくれたらいいなぁとは思う。意趣返しの気持ちも込めて。
「それにしても――面白いヤツだったな」
私はわたしに思考を切り替えて、記憶を呼び戻す。あの土壇場であの発想――普通なら思い付くものじゃない。なかなか面白かった。思わずこのわたしをして納得しかけるほどに。
しかしアイツの敗因は、やはり怪談を理解していなかったことに尽きる。
不条理と非合理、それが怪談という存在だ。目先の理では動かない――否、動けない。何故ならそれは、怪談の存在理由ではないから。
あくまで怪談は、人間を恐怖と絶望に陥れる存在だ。なら、あの時、あの瞬間、彼女がもっとも恐怖していたのはなんだ?
更に言えば、アイツの提案で一番大きかった穴は、別に私が成り代わってやったところで問題はないということだった――その点でみれば、彼女は最高の被害者だったというわけだ。最高の手土産を、わたしは頂戴して現実に戻ったことになる。
怪談に縋るな。
怪談を侮るな。
怪談に夢を抱くな。
怪談を恐れろ。
「ま、こんな話にも教訓があるとすればこんなところかな。――さて」
まずは何から始めようか?
なんにせよ、ドキドキすることをしなくちゃな――新しい人生の始まりは、生まれも環境も最悪だったが、何があろうと、ずっとあそこに閉じ込められるよりはマシだろう。
こうしてかつて透子さんと呼ばれたわたしは、今日から私として生きていく。
終
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