赤い扉の透子さん

神崎 ひなた

まえがき

「ねぇ、知ってる? 赤い扉の透子さんの話――」


 私立賽ノ神学園さいのかみがくえんは神社の跡地を利用して建てられたこともあってか、この手のエピソードには事欠かない。今どき珍しく十三怪談なんてものが生き残っているだけでも、この学園の異質さが際立とうというものだが――参考までに、一から十三までの怪談を羅列しよう。


 一段目――トイレのデーモンハンド

 二段目――戦慄の流星老婆シューティングスターババア

 三段目――天眼てんがんの静かな看守

 四段目――永久欠番

 五段目――注文の多い狐狗狸こっくりさん

 六段目――おくれ骸

 七段目――4時44分の不可視かがみ

 八段目――パペットマスター・エリーさん

 九段目――口裂け女レベル100

 十段目――ハナコ・ザ・オーバーロード

 十一段目――水中夢想

 十二段目――無限回廊

 十三段目――赤い扉の透子さん


 賽ノ神学園十三怪談さいのかみがくえんじゅうさんかいだん。それはこの学園を根底から支配し、生徒・教師を問わず恐怖に陥れる怪談群だ。ただの怪談と侮るなかれ、彼らは人に牙を剥く。不条理と非合理と、決して抗えない恐怖そのものが、彼らの存在意義なのだから。

 

 今回わたしが語るのは、「赤い扉の透子さん」と出会った話だ。賽ノ神学園十三怪談さいのかみがくえんじゅうさんかいだんの十三段目、最終最後にして最強の怪談、この学園の生徒なら誰もが知る恐怖の透明人間について、この場を借りて話そうと思う。


 ……先に断っておくと、この怪談は怖くない。何故ならこれは世にも珍しい優しい怪談だからだ。根っからの怪談を期待していた人には物足りない話かもしれない。が、これを語るのもわたしの使命というか、約束というか――まぁ語り部がこの調子なので、どうか肩肘張らずに、毒にも薬にもならぬ話だと思って最後まで付き合ってくれたら幸甚こうじんである。


 それでは――東西東西。

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