私の髪はもふもふじゃなくて、もじゃもじゃです。
腹きゅん
私の髪はもふもふじゃなくて、もじゃもじゃです。
――桜の花が綺麗に咲いていたあの日。
「君に一目惚れしたんだ。……俺とつきあってほしい」
彼の癖ひとつない黒髪が風になびく。
その日、私達は恋人になった。
彼……先輩は、美しい髪を持っていた。
私は、ひどい癖毛で恥ずかしかった。
でも、先輩が私の髪がもふもふで可愛いと言ってくれたことは、嬉しかった。
それから、私は見た目に気を遣うようになった。
そして、昨日縮毛矯正をかけた。
彼の髪には及ばないけれど、歩く度にさらりと揺れる真っすぐな髪が嬉しい。
先輩、褒めてくれるかな。
そして、待ち合わせ場所に着く。
あれ、先輩まだ来てないみたい。
しばらく待ってみるが一向に来る気配がない。
ふと、隣を見るとアフロヘアの男性が立っていた。
え、まさか……。
「先輩⁉」
嘘⁉サラサラヘアがアフロに⁉
いったい、どうして⁉
先輩も目を大きく見開き、震えている。
「もふもふがない⁉」
もふもふって私の髪のこと?
先輩は崩れ落ちるように座り込んだ。
そして、私のもじゃもじゃに一目惚れしたこと、髪目当てで付き合っていたことを俯きながら話し出した。
もじゃもじゃに一目惚れしたなんて……。
なんて趣味が悪いんだろう。
じゃあ、もじゃもじゃじゃなくなった私には興味がなくなった?
そんな、先輩と別れたくない。
私は、悲しそうな先輩を置いてここから逃げ出した。
先輩と過ごした楽しい時間を思い出す。
先輩と別れたくないよ。
「待って!」
先輩、追いかけてきてくれたんだ。
そして、先輩は勢いよく頭を下げた。
「ゴメン、君のもふもふが本当に好きだったんだ。でも、もふもふじゃなくてもいい。どんな髪型をしていても君のことが好きだって気づいたんだ」
先輩……。
私も先輩に謝らなきゃいけないことがある。
私も先輩の髪目当てで付き合ったのだ。
先輩には興味がなかったけど、そのサラサラヘアにひかれ付き合った。
でも、今は先輩自身が好きだとわかったの。
私達は抱き合い、お互いの髪を好きになる努力をすることにした。
アフロヘアはイメチェンだったらしい。
私達はお互いが髪目当てで付き合うという、ちょっと変わった恋人だった。
でも、今は違う。
お互いがどんな髪型をしてもいい。
どんな姿でも、好きだと気づけたから。
だから、先輩が禿げても私の髪が灰色になっても好きでいるよ。
ずっと一緒にいようね。
私の髪はもふもふじゃなくて、もじゃもじゃです。 腹きゅん @potyapotya
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