第121話
その後、イーサンはアッシェン城の牢獄で取り調べを受けることとなり、彼の所有する城及び別荘すべてにも捜査の手が入ることになった。
その結果、やはりかつてエンベルンの森で起こった事件の首謀者が彼であったことが詳らかにされた。
また、調査によっていくつかの新事実も明らかになった。
ひとつは、イーサンがかつて自身の父親をその手に掛けていたこと。
先代クレッセン公爵は病死とされていたが、実際はイーサンがワインや食事に少しずつ毒を盛り、徐々に健康を損なっていったそうだ。
そして毒殺であることが発覚せぬよう医師を抱き込み、死亡証明書の内容を改竄させた。
『口うるさくて邪魔なばかりの老人を殺して何が悪い? それに早く公爵位を継承しておかないと、リルの夫として相応しくないと言われるかもしれないだろう?』
父の毒殺を指摘され、イーサンは悪びれることもなくそう言っていたそうだ。
なお、死亡証明書の改竄に携わった医師はその後、
更には、彼が長年にわたって複数の女性を弄んだ上で殺していたこともわかった。
被害者はすべて、灰色や白金色など銀色に近い髪色をしており、青系統の瞳を持った若い女性。
後にクレッセン城の地下からは、女性のものとおぼしき大量の白骨と、装身具などが発見されたそうだ。
『リルの代わりが欲しかったんだ。どのお人形も、リルの代わりには決してなりえなかったけれどね』
自身の犯した悍ましい罪を隠そうともせず、投げやりに告白するイーサン。『リデル』から拒絶され抜け殻のようになった彼にとっては、もはや何もかもがどうでもよかったのだろう。
彼は更に、笑いながらこんなことを告げた。
『ひとり、子供を産んだ女がいたんだ。リルがまだ成長する前で、大人になったらリルはこんなふうかもしれないと手をつけた女がね。彼女は邪魔だったから殺したけれど、子供は私の手駒としていつか役に立つかもしれないだろう? 適当な貴族の家に養子にやって、定期的に送金もして面倒を見てやっていたんだけど……まさか、その子が私を裏切るとは思っていなかったよ。ねぇ、ライオネル?』
その事実を耳にした時、ジュリエットは嫌悪感を覚えたものの、不思議とあまり驚きはしなかった。
ライオネルと話している時にふと感じた、奇妙な既視感――そして彼の、光によって緑にも青にも見える、不思議な目の色。
あれは彼の中に、イーサンの血が流れていたからなのだ。
イーサンは成長したライオネルに、自身が彼の本当の父親だということを明かし、アッシェン騎士団に潜入することを命じたらしい。イーサンは息子を自身の便利な道具として育てたつもりでいたようだが、ライオネルのほうは違ったようだ。
彼は自身の出生について調べている内に、母の死に不可解な点があることに気づいてしまった。そしてとうとう、母がイーサンに殺された事実に辿り着いたそうだ。
『クレッセン公の罪を告発しようと思いました。しかし、一介の騎士の言うことでは信じてもらえないかもしれない。ですから私は彼に忠実なふりをしてアッシェンに潜入し、何年も機会を伺っていたのです』
イーサンが言い逃れできない状況で、彼の罪を明らかにする機会を。
それが、今回の誘拐事件だったというわけだ。
彼はあえてイーサンに協力し、エミリアとジュリエットを攫わせた上で、オスカーにその計画の全容を伝えた。
それが、エミリアが城へ辿り着く前にオスカーがジュリエット救出に駆けつけることができた理由だ。
リデル・ラ・シルフィリア・ディ・アーリング誘拐未遂及び、アッシェン騎士団員殺害事件。
エミリア・ディ・アーリング及びジュリエット・ディ・グレンウォルシャー誘拐事件。
そして先代クレッセン公及び、連続婦女子殺害事件。
それらの罪状を国王に報告した結果、クレッセン公爵イーサン・ディ・ラングフォードは王都の、罪を犯した貴人を閉じ込めるための塔に一生幽閉されることが決まった。
また、共犯者であったミーナ・ディ・オルブライトとライオネル・ディ・ウォルフォードは今回の働きによって特別に恩赦が与えられ、刑は免れた。
ミーナは己の罪を悔い改めるため修道院へ入ることを選び、そしてライオネルは、アッシェンを去ることを選んだ。
こうして、アッシェンにはようやく平穏な日々が戻ってきたのだった。
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