With Heart and Voice -僕らの音は、心と共に-
NkY
Generalprobe
8月。その日は、豪雨だった。
人気のない中学校の屋上に一人、夏服の少女がいる。雨によって髪が濡れ、服が肌に張り付いても少女はそれを
少女の手には、一枚の写真。同じ学校の同級生の女子の写真だ。少女はそれを見つめ、そして大きく息を吸い――。
「うああああああああああっ!!」
――鈍色の空に向かって絶叫した。大量に送り出される空気が少女の声帯を傷つけて、出てくる声は実に痛々しい。
しかし、少女は声を上げるのをやめない。まるで傷つくのを望んでいるかのようだ。空気がなくなれば、再び補充をする。大粒の雨がどっさりと口の中に流れ込んでも、それごと肺に押し込む。当然肺は異物を嫌って少女はむせる。むせて、むせて、せき込んで、それでも声帯を震わせ、傷つけ、叫んで、叫んで、叫び続ける。
そのまま立つことが出来なくなる。水浸しのコンクリートの地面に、きれいな肌が剥き出しの膝が落ちる。前に倒れこみ、手で身体を支えて四つん這いになる。手に持っていた写真は、地面との間に挟みこんだ。
夏の空気によって生温かくなった雨の水、よどんだ空気によって汚染された雨の水が少女の手に吸い込まれていく。少女の手はきれいではなかった。細かな無数の傷、そして豆。指は傷つくことと再生を繰り返し、普通の人のそれと比べて分厚く、硬化していた。
そして、今度は地面に向かって叫ぶ。少女の声は地面に当たる前に水に阻まれて、そのまま流れて消え入る。誰にも届かない、何も意味のない絶叫を少女は繰り返す。声帯が悲鳴をあげて、音という音を発することが出来なくなっても、少女はただ大量の息を吐いて、吐いて、吐いて、吐き続ける。
壊れ切った少女の、最後の抵抗。最後のあがき。心からの、声。
届くことはない。誰もいない。あるのはただ、鈍色の虚無。そして冷たく硬い無機物。少女を受け入れるものは、何一つない。少女の味方は誰一人いない。
何も得ることのできなかった少女の表情は……やめよう。言いたくない。
そのまま少女は、力なく水浸しのコンクリートの上に沈んだ。少女の手と地面に挟まれた同級生の女子の写真は、我ながらすごく輝いて見えてしまった。
本来ならば、これで音楽は終わるはずだった。
でも……どうして、これが音楽の始まりになってしまうのだろう。
――私は屋上を後にして、音楽室へと向かった。
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