cinemaster

三石 警太

【epilogue】


意識が混濁している。

なぜここにいるのかわからず、あたりを見回す。

どうやら、今は夜のようで空を見ると漆黒に包まれているが、まわりは程よいあかりに満ち満ちている。

故郷のような柔らかい光に包まれているこの場所は、デパートのような場所だった。

服の店や、電気製品を売っている店、お菓子を売っている店や、レストランなど、たくさんの店が集まっている。

しかし、何か違和感を感じる。

少々、それがなんなのか思考を巡らせていると、頭に電流が走ったように、その違和感の根源が判明した。

それぞれが違うのだ。

"名前"が。

知っている、見たことのある色使い、マーク、雰囲気。

しかし、店名がまったく違う。

僕の知っている店は何一つなかった。

そして、お客さんもどこか虚ろな目をしてデパート内をさまよっている。

その姿がまるでゾンビのようで、無意識に何もかもを求めるような姿は欲望が具現化したかのようであった。

直感的に恐怖を感じ、足が震える。

遊園地で親とはぐれ、迷子になっている時の心境に今この地に立っている僕の心持ちは似ている。

焦り、とも寂しさとも受け取れる気分。

全身の毛穴という毛穴から冷たい氷が飛び出ているような気がした。

頭がグラグラしてきて、『とにかくここを離れなければ』という気持ちに駆られた。

しかし、僕はどこに行けばいいのだろう。

ここがどこかもわからないし、誰の元を目指せばいいのかもわからない。

僕が誰なのかもわからないし、何歳で何をしてて、どこに住んでるか…

兎に角何もかもわからなかった。

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